研究課題/領域番号 |
22K00197
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
太田 圭 筑波大学, 芸術系(副学長), 副学長 (80194158)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 日本画 / 表現の拡張 / 立体作品 / 支持体 / 構図 / 技法 / 日本画表現 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日本画表現の拡張は、「四角形で平面」という日本画の形状から離れることでできるのではないかと考え、これまでの伝統的な日本画表現技法を土台として、球形や六面体、円筒形等の日本画の立体作品を、「日本画表現の拡張」と位置付け、立体作品制作における、支持体・構図・技法研究を行う。 そのため平面作品と立体作品を同時に制作・展示し、支持体・構図・技法の相違点を新たに提示する。そして立体作品のための「耐久性のある支持体」「球形画面の構図」「日本画の色材(岩絵具等)の接着技法」等の研究を行い、立体作品には日本画表現の拡張となる大きな可能性があることを示す。
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研究実績の概要 |
本研究は、日本画表現において、既成概念とも言える「日本画=四角形で平面」という日本画制作からの拡張として「立体」の作品形状に着目し、日本画の立体作品制作における支持体・構図・技法の関する研究を行うことで、立体日本画作品が日本画表現の拡張の可能性を持つことを明らかにすることに基づき実施した。 1年目となる令和4年度の項目別の研究実績は下記のとおりである。 《支持体および技法》では、打ち上げ花火の「玉皮」に、薄和紙(西ノ内紙、薄美濃紙)を糊貼りして球形の支持体とし、その上から日本画で用いる色材(胡粉、岩絵具、金属箔等)で描画する方法や技法についての試作を行った。立方体と円柱については、発泡スチロールの上からクラフト紙による下張りを行い、その上から麻紙を糊貼りして支持体とした。これらの試作の際、媒材として用いる三千本膠、軟靫鹿膠、マットメディウムの適正な濃度も探った。《構図》では、球形の連続する曲面における図象と背景のバランスを、立方体および直方体では、各面ごとの構図と隣接する面との連続性を、円柱および円盤形では側面の連続性と天板および底面との連続性に観点を置き試作を行った。これらの試作品は研究成果として、茨城県つくば美術館で開催した展覧会で展示し、一般に公開した(2022年12月20日から12月25日)。《技法》では、これら立体作品の試作の際、色材の媒材として用いる三千本膠、軟靫鹿膠、マットメディウムの適正な濃度を探った。マットメディウムを媒材に併用した理由は、支持体に対する岩絵具の接着力の補強および耐水性と堅牢な画肌作りを企図したものである。また色材と膠を練り合わせた後に加える水分量については、色材が画面上を流れることを防止する一方で、岩絵具が流れることによって生じるマチエールを利用する技法を見出し、岩絵具の粒子の大きさの違いによるマチエールの出方のバリエーションを増やした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
《支持体》では、「球形」の作品とするために、打ち上げ花火の「玉皮」を支持体の「芯」として使用したが、薄和紙の糊貼りから始まる支持体には大きな問題はないことが確認できた。一方、材質はパルプを半球状に圧縮した成形品である。したがって経年における強度の変化については今後の経過観察が必要である。「立方体(直方体を含む)」と「円柱(円盤を含む)」では、発泡スチロールを「芯」に、下張りとしてクラフト紙を糊貼りし、その上から麻紙を糊貼りしたものに描画および彩色をした。この描画と彩色は、平面への制作と差異はないが、「芯」を作る際、大きな作品は市販されている立方体を、複数個、発泡スチロール専用の接着剤で接着したが、接着時のズレがクラフト紙の糊貼りと、その後の麻紙の糊貼りに影響することが判明した。《構図》では、「球形作品」の、一方向から見れば球面(円形)ではあるが、連続する画面であるため、わずかに回転させるだけでも構図のバランスが変化することに難しさを感じるとともに、造形上の創作の面白さを体感した。「立方体(直方体を含む)」では、平面としての各面ごとの完成度を向上させるのみならず、見る方向によっては一面のみではなく、二面が見える場合、三面が目に入る場合があることから、それぞれの画面の隣り合う面への連続性を考える必要を感じた。《技法》では、どの形状でも平面部には特に留意点はなかったが、「球形」と「円柱(円盤含む)」の曲面(側面)への色材の接着においては工夫が必要であると感じた。 以上の通り、研究課題として設定した実験制作における支持体、色材の定着、構図研究については、おおむね順調に進展した。そしてこれらの研究成果である日本画の立体作品も12月に茨城県つくば美術館で公開できた。ただし、笠間陶芸美術館と国内の和紙の製造所訪問については新型ウイルスの影響と日程の都合がつかず未実施で終わっている。
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今後の研究の推進方策 |
《支持体》令和4年度の立体作品の形状は、球形、立方体、直方体、円柱、円盤形の5種類であった。このうち、球形を除く他の形状の支持体の「芯」に用いたのが、一部をカットすることで自在な形状を作ることができる発泡スチロールであることことに気づいた。これにより、三角柱や五角柱、円錐や四角錐、切頭円柱や切頭四角柱など、当初の予定にはなかった「新たな立体」が設定できる。これらの形状は、造形作品としても変化に富む形状になることから、さらに立体の日本画表現の拡張につながることが期待されるものである。これらにクラフト紙による糊貼りと制作用の麻紙を糊貼りして支持体とするが、下半期から描画ができるよう、4月から9月までの半年はこの支持体制作にあてる。《構図》では、令和4年度制作の実験制作を見直し、構図のバランス等について必要なものには加筆を行う。また、当初の予定にはなかった基本形の一部を切断してできる「新たな立体」の画面に対する構図研究を追加で行う。《技法》では、「球形」の作品では色材の「球面への定着技法」のさらなるスキルアップを図る。また、新たに設定する直方体および円柱等の基本形の一部をカットした「新たな立体」に対しては、隣接する画面の「角(端)の部分の着色において「絵具の溜まり」の解消技法に注力する。《研究成果の公開》前述の通り、加筆した基本形の作品と、新たに設定する立体作品を展覧会等で公開する。またオンラインを活用した作品に関する情報発信を行うとともに、客観的評価を受ける。未実施だった西の内和紙の製紙場、茨城県笠間美術館への立体作品(陶芸作品)に関する資料収集のための訪問は確実に実施する。 以上の通り、当初予定していた立体作品の形状に加え、新たな形状を設定することから、さらに多様な形状の日本画の立体作品における表現の拡張を期待したい。これらの研究実績を最終年となる令和6年度の研究に繋げていく。
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