研究課題/領域番号 |
22K00240
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 大阪音楽大学 |
研究代表者 |
三島 郁 大阪音楽大学, 音楽学部, 講師 (20571441)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | パルティメント / ゲネラルバス / ファンタジー / チェルニー / ハイニヘン / 即興演奏 / 作曲法 / 通奏低音 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、実践と理論との接合点である「パルティメント」を軸にして、18世紀から20世紀初頭のドイツ語圏の音楽史のありかたを再構築するものである。パルティメントとは数字付きバスを使用して作曲や即興演奏を行うための「スケッチ」である。パルティメントは作品の様式や演奏法の根本にかかわる問題でありながら、その実態はいまだ明らかにされていない。したがってパルティメントに関する当時の理論・実践資料を調査・分析することで作曲・演奏実践の実態を明らかにし、それによる即興的演奏を応用する方法を提案する。
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研究実績の概要 |
本年度においては、それまで行ってきた18世紀ドイツ語圏パルティメント研究の対象であり、また19世紀のゲネラルバスの前提ともなる、重要資料の一つであるJ. D. ハイニヘンの『新しい通奏低音奏法』(1711年)の日本語翻訳版の書籍紹介を学術誌『音楽学』にて行なった。ハイニヘンの通奏低音の実践のみならず作曲にかんする理論は容易に把握するのは難しいが、主要部の一つとなるパルティメントに関する内容も含めて紹介した。 またC. チェルニーのファンタジーやプレリュードの概念や実践方法を分析することで、19世紀にあって即興的なジャンルや断片的な曲や楽句が、いまだ18世紀のパルティメント的発想、すなわち鍵盤上の指の配置からなされる作曲・即興から生まれることを明らかにした。これについては、日本音楽表現学会大会において研究発表を行い(三島 2023b)、その後、19世紀初頭のゲネラルバス/パルティメントがその作曲・演奏の構築法の基礎となることを含め、紀要論文にまとめた(三島 2023a)。 さらにオーストリアのウィーン楽友協会付属公文書館及び国立図書館音楽部門にてオーストリアの19世紀ゲネラルバスの資料調査を行なった。公文書館では主に19世紀のウィーン音楽院の年次報告やカリキュラムから作曲実践や和声教育など音楽理論の授業の教授及び使用教科書、授業内容などを、そして国立図書館では、当時の手稿譜や出版譜のゲネラルバスやそれに関する資料を調査・収集した。現在その内容を分析中である。 19世紀にドイツ語圏で出版されたパルティメント/ゲネラルバスの理論・実践書について、リスト作成を進めており、今後その全体から19世紀の音楽教育におけるゲネラルバスのありかたを分析する。またパルティメントに付随する数字付きバスによる演奏について、音価のありかたや演奏の構築を問うた論文をリュート奏者と共著で執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度もコロナ禍にあり、資料調査を行う予定であったヨーロッパにおけるエネルギー不足、航空運賃の高騰、そして円安などが重なり、当初から渡欧の時期の見極めが困難であり、またそれにかかる費用も予想をはるかに超えた。したがって2022年度は本来は複数の都市で資料を集める予定であったが、渡欧先をウィーンに絞り、2月から3月にかけて短期間の滞在にした。また資料の収集は予定より少ないものになった。19世紀におけるウィーン音楽院での音楽理論教育についての状況は、数年分は資料が欠けているものの、教授陣のメンバー、そのクラス分け、ある次期以降の教科書や、おおまかな教材などが明らかになった。その保守的な側面やA. ブルックナーなどに脈々と受け継がれるウィーンの音楽理論教育を一定程度把握することができた。二年次以降に、ドイツにおける他の機関においても資料収集と分析を進める予定である。 また19世紀にドイツ語圏で出版されたゲネラルバス/パルティメントの理論・実践書については、オンラインで可能なものはすで入手済みであったが、その後さらに新しくオンラインに掲載されたものやウィーンで入手したものなどを含め、現在のところのべ200余部を確認している。ただ当時の「Generalbass」の概念が広い(パルティメントの同義であるのみならず和声法Harmonielehreと類義である場合もある)ことから、それぞれの理論書の内容を精査する必要がある。さらにオーストリア国立図書館において、19世紀の作者不明のものも含め未出版の手稿譜で残されているパルティメント資料が存在しており、そのいくつかを入手した。現在ゲネラルバス/パルティメントのリスト作成を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1. パルティメント資料の調査と分析:二年次の2023年度はコロナに関する規制が緩和されることもあり、初年次に続きヨーロッパにおいて、とりわけライプツィヒやベルリンなどドイツ語圏の複数の都市の各機関の図書館や文書館で、音楽学校機関等の音楽理論の教授内容、19世紀のものを中心にゲネラルバス/パルティメント関連のカリキュラム資料やレクチャー資料、出版された教本・理論書、また未出版の手稿譜について資料調査・整理・収集を行い、どのようなパルティメント教育が行われ、また作曲・即興・演奏において、どのようなパルティメント実践が行われていたかその内容の分析を行う。 2. 資料の考察・発表:ゲネラルバス/パルティメントを主軸として、19世紀ドイツ語圏とその前後を中心に音楽教育や、演奏実践方法を明らかにする。またこの資料収集の結果を分析・考察した研究成果を学会や論文で発表する予定である(2023年6月には日本音楽表現学会大会にて「パルティメント実践の試み」について学会で発表する予定)。 3. 即興演奏のワークショップ:ピアノ奏者のための、パルティメントを使用した即興ワークショップを開催する。プロフェショナルなピアニストや音楽大学のピアノ専攻学生などに参加してもらい、即興演奏における歴史的な枠組みを学んでもらいながら、実践できるようにする。18世紀から19世紀前半のいくつかのレパートリーや即興教授における海外の先例実践例を参考にしながら、パルティメントから和音や旋律を演奏する試みを行う。第三年次に実施する予定であったが、第二年次にも予備的な簡易版を実施し、次年度に活かすべく参加者からのフィードバックを通して改善点などを見出すことにする。
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