研究課題/領域番号 |
22K00249
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
野角 孝一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (50611084)
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研究分担者 |
吉岡 一洋 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (20553150)
荒井 経 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (60361739)
松島 朝秀 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (60533594)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70443900)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 絵金 / 芝居絵屏風 / 伽羅先代萩 御殿 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はこれまで注目されてこなかった絵金派の芝居絵屏風の小下図を基に、令和の時代に新たな芝居絵屏風の制作を行うと。さらにその方法を展覧会や論文などを通して広く発表し、一過性の研究ではなく次に制作を行う際の拠り所となることを目的としている。芝居絵屏風は昭和初期までに描かれたものを継承させることが精一杯で、新しく描くという発想自体がなかった。また、場当たり的な復元模写はあるが、本研究のように画家の経験と自然科学的な客観性に基づいて行う手法で芝居絵屏風を制作した事例はない。とりわけ本研究のように彩色されていない小下図を基に芝居絵屏風を制作することは全く新しい視点からの研究手法として創造性がある。
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研究実績の概要 |
絵金(絵師金蔵)は、幕末の狩野派で学んだ土佐の絵師である。祭礼において屋外で展示を行うという独自の様式を確立した絵金やその弟子達の「芝居絵屏風」が開帳される高知県各地の夏祭りは、全国的にも稀有な祭りとして注目されている。しかし、昭和8年を最後に新しい芝居絵屏風は制作されず、損傷の激しい芝居絵屏風を修理できないまま、祭礼そのものを取り止めた地区もある。その一方で絵金らの資料には芝居絵屏風になされていない小下図などの構想段階の作品群が数多く残されている。そこで本研究では未発掘の絵金らの小下図などを分析した上で、当時の彩色技法を使った新しい芝居絵屏風の制作を行う。 高知の各地の祭礼で展示される芝居絵屏風は慢性的な地域文化の継承者の減少や高齢化に加え、令和2年度からは新型コロナウイルスの影響により、祭礼が相次いで中止になった。これまでの調査では芝居絵屏風の開帳を一度でも取り止めると、そこから復活する事例は皆無であり、祭礼自体の存続も含めた文化の継承が危ぶまれている。 以上を踏まえ、本研究ではこれまで注目されてこなかった下図を基に、令和の時代に新たな芝居絵屏風の制作を行うと共に、その方法を展覧会や論文などを通して広く発表し、一過性の研究ではなく次に制作を行う際の拠り所となることを目的としている。芝居絵屏風は基本的に既存のものを継承させることが精一杯で、新しく描くという発想自体がなかった。本研究のように画家の経験と自然科学的な客観性に基づいて行う手法で芝居絵屏風を制作した事例はなく、独自性があると考えられる。また、郷土史・美術史研究との連携し、彩色されていない下図を基に芝居絵屏風を制作することは全く新しい視点からの学際的な研究である。 2022年度の成果として、研究対象である芝居絵屏風「伽羅先代萩 御殿」を想定復元した屏風の制作について、特に色材の分析と描画方法に関わるポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は研究対象となる博物館施設であるアクトランドに収蔵されている白描の下図の目視調査を研究分担者と共に行った。下図は実物大と考えられる大きさに描かれており、描かれた登場人物などから、芝居絵屏風の題材はしばしば描かれる「伽羅先代萩 御殿」であることが分かった。調査の際、デジタルカメラで研究対象の下図を撮影し、実物大の大きさに印刷したものを模本として準備した。 模本となる下図は、描かれた人物や動物が不自然なところで切り取られた構図となっている。これまでに調査した芝居絵屏風は人物の着物の一部が見切れていることはあっても、模本となる下図のように頭部が見切れる構図はなく、違和感がある。これにより、研究対象である模本となる下図が別の屏風の一部を写し取ったという可能性が指摘できる。まその裏付けとして、模本となる下図は滲み止めが施されていない紙に描かれており、彩色を行うための本画の下図ではなく、他の作品を写し取ったことが窺える。また、描かれた線は彩色された他の芝居絵屏風の線と比較して細いため、本画の線ではないことが推察される。 模本となる下図から本画である芝居絵屏風に制作するにあたって、線の特徴を掴むため、模写を行う必要がある。また模写によって人物の形や描かれた室内、屋外の描写などを含めた全体の構図を検討することができる。目視による調査および模写を行う中で判明したことは、他の「伽羅先代萩 御殿」と類似している部分がある一方で、作品全体として動きのある人物描写によって、場面を劇的に見せる類を見ない工夫がなされていることが窺えた。 以上を踏まえ、動きを意識した大まかな人物の線による描写を加筆・修正し、他の「伽羅先代萩 御殿」を鑑み、背景の描写などを描き加え、構図の検討がほぼ完了した。
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今後の研究の推進方策 |
模本となる下図に加筆・修正を加えた大下図の線の描写は、模本となる下図に近づけた線である。ここから彩色された他の芝居絵屏風の線のような太くしっかりとした線に替えていく必要がある。また、模本となる下図に描かれた線は即興で描かれており、障子や柱、床の間の線などは明らかに歪んでいる。また、人物の描写においても、形として理屈が合わない箇所が散見される。他の芝居絵屏風を参考に線の整理をする必要がある。 線の検討と共に、着物に描かれた文様の検討も必要となる。その方法として研究対象と同じ題目を描いた「伽羅先代萩 御殿」を参考に着物の色や描かれた文様を検討する。これまでの調査で、例えば人物が前後で描かれる場合、特に朱色で描かれた色面が隣同士に配置されることは少なく、計画的に描かれていることが窺える。芝居絵屏風の特徴である色彩の強さは、鮮やかな色材の使用ばかりではなく、配色にも気を配っている点にも起因する。 これを踏まえ、同じ色味の色面同士が接しないよう配色を計画すると共に、場合によっては下図の線の形を変更することも検討する必要がある。具体的な方法として、実物より小さい紙に大下図を写し、実際に彩色することによって色彩の計画を立てることとする。以上の工程を経て、大下図を完成させ、より他の芝居絵屏風に近い線となるように、運筆を繰り返し行う。 また、必要に応じて他の芝居絵屏風の調査を行う。特に印刷された資料ではわからない細かな描写などについては目視による調査を行い、色材の検討については、参考とする芝居絵屏風の科学調査を行う予定である。 支持体については、他の芝居絵屏風で用いられている竹紙を準備しており、滲み止めを施し、紙継ぎを行った上で、本紙として使用する。 以上を踏まえ、芝居絵屏風の本画の制作に入り、2023年度を目途に彩色まで完成させたい。
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