研究課題/領域番号 |
22K00276
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 叡啓大学 |
研究代表者 |
水島 希 叡啓大学, ソーシャルシステムデザイン学部, 准教授 (60432035)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | フェミニスト科学技術論 / 市民放射能測定 / 新物質主義 / 市民科学 / エージェンシー的実在論 / マテリアル・フェミニズム / 装置 |
研究開始時の研究の概要 |
市民らが身の回りの放射能を測定する市民放射能測定は、日本の代表的な市民科学の1つである。一方で、原発事故による放射線被曝の評価をめぐっては、市民と主流の科学(国および職業科学者)との間に対立がある。この対立は、線量限度など「基準」をめぐる見解の相違において顕著だが、市民科学においては測定装置の選択や測定方法、測定対象の違いとして現れている。ではなぜ市民科学は主流の科学とは異なる装置を用い、異なる物を測定するのか。本研究ではマテリアル・フェミニズムの立場から、市民科学の測定実践における「装置」と物質のあり方に注目した分析を行い、対立の根底にあるリアリティの違いを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の代表的な市民科学の1つである市民放射能測定における測定実践を、放射能測定器といった「装置」や放射性物質などの「物」を通じて理解することである。とりわけ、主流の科学への抵抗や代替的手段として発展してきた市民科学の意義を分析するため、主流の科学が持つ二元論的な区分への批判的理論を展開してきたフェミニスト科学技術論の分析枠組みを援用する。 初年度である本年度は、下記の2点を中心に研究を進めた。 1)市民科学における放射能測定装置の歴史的推移:日本において、人々の生活環境の放射能測定が行われた歴史は1945年の原子爆弾投下に遡ることができる。広島および長崎の被害状況調査には携帯用測定器として、箔検電器、ガイガー計数器、ローリッツェン検電器が使用された(今中 2014)。また、当時、宇宙線計測器としてはすでに旧型となっていたネーヤ電位計が現場に持ち込まれ使用されている点は注目に値する(中根 2000)。1954年の第五福竜丸事件でも、ほぼ同様の機器が用いられている(筧 1984, 浜田 1995)。その後、50年代半ばより「原子力の平和利用」キャンペーンが行われる中、60年代には宇井純らの「公害原論」講座が開始されるなど後の市民科学の萌芽が見られる。50年代半ばから70年代にかけての放射能測定機器の研究開発と一般市民の利用可能性の検討がさらに必要である。 2)マテリアル・フェミニズムによる市民科学分析:本研究の分析枠組みとして、フェミニズム科学論研究者カレン・バラッドが理論物理学者ニールス・ボーアの量子論を元に提唱した Agential Realism (エージェンシー的実在論)を用いる。本年度はバラッドの基礎文献の確認と、Agential Realismのコア概念であるintra-action(内-作用)の本研究への適用可能性について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の計画に沿って下記を実施しており、概ね順調に進展している。 1)市民科学における放射能測定装置の歴史的推移: 初年度から2年目にかけて、放射能測定機器の導入・使用(および可能であれば開発)をめぐる経緯を、市民放射能測定室、及び、測定器メーカーを対象に調査することとしている。このうち、本年度は計画通り、(1)出版されている書籍、パンフレット、ニューズレター、メーカーによるカタログ、および、ホームページなどインターネット上の情報の収集を行った。また、これと平行し、市民科学との関連性を検討できるよう主流の科学の中での放射能測定器の導入・使用についても調査を行った。 2)マテリアル・フェミニズムによる市民科学分析: 初年度は、フェミニスト科学技術論の系譜を系統立てて整理し、その中の新物質主義アプローチの総称である「マテリアル・フェミニズム」についての理論研究を行い(1年目)、その後、特に「測定」measurementおよび「装置」apparatusについての分析を主軸に据えた、フェミニスト科学技術論の研究者カレン・バラッドによるエージェンシー的実在論(Agencial Realism: AR, Barad 2007)に着目し、ARを用いた市民科学の装置分析を行う(3年目)こととしていた。本年度は、計画を微調整し、まずカレン・バラッドによるエージェンシー的実在論の基礎研究を行った。特に、Agential Realismのコア概念であるintra-action(内-作用)が、他の科学技術論研究でどのように用いられているかを網羅的に調査し、本研究への適用可能性について検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究計画に沿い、下記を行う予定である。 1)市民科学における放射能測定装置の歴史的推移: 初年度から2年目にかけて、放射能測定機器の導入・使用(および可能であれば開発)をめぐる経緯を、市民放射能測定室、及び、測定器メーカーを対象に調査することとしている。このうち次年度は計画通り、(2)測定に関与した市民科学者・関係者、測定器メーカーの営業担当者・開発者への聞き取り調査を行い、市民放射能測定における装置の選択や、測定実践における独自の基準、それらの経時変化を記録する。また、こうした機器の選択に測定者としての女性がどのように関与しているかも調査する。さらに本年度の調査結果を踏まえ、特に1950年代半ばから1970年代にかけての放射能測定機器の研究開発と一般市民の利用可能性の検討を行う。 2)マテリアル・フェミニズムによる市民科学分析: 本年度取り組んだフェミニスト科学技術論の系譜整理を継続する。この系譜における新物質主義アプローチの総称である「マテリアル・フェミニズム」の位置付けについて論文執筆を行う。また次年度はカレン・バラッドによるエージェンシー的実在論を元に、「測定」measurementおよび「装置」apparatusについての分析を主軸に据え、実際の市民放射能測定について事例分析を行う。同時に、放射能測定以外の市民科学への拡張を検討する。
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