研究課題/領域番号 |
22K00289
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
出口 智之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10580821)
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研究分担者 |
荒井 真理亜 相愛大学, 人文学部, 教授 (90612424)
新井 由美 奈良工業高等専門学校, 一般教科, 准教授 (40756722)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 口絵 / 挿絵 / 木村荘八 / 石井鶴三 / 春陽会 / 『都の花』 / 『新著月刊』 / 新聞小説 / 樋口一葉 / 『小天地』 / 『サンデー毎日』 / 泉鏡花 / 小村雪岱 / 日本近代文学 / 書翰 / メディアミックス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、明治~昭和戦前期においても、いまだ作家たちが口絵・挿絵に下絵などで指示していたという、従来見すごされてきた事実を出発点に、絵画の機能や小説との協働的効果を捉えなおすものである。特に、検討する事例を著名な作者・作品に限定せず、『読売新聞』『大阪毎日新聞』といった重要な媒体を網羅的に調査すること、さらには挿絵画家が舞台演出を手がけたり、新聞社等の主導によって挿絵にもとづいた演劇が企画されたりした事例まで取上げて考察することを心がける。これにより、文学・絵画・演劇・出版報道のメディアミックスの状況を解明し、書翰などの一次資料の調査も加え、近代日本における口絵・挿絵文化の把握を刷新する。
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研究実績の概要 |
本課題に参加している出口・荒井・新井の3者に加え、富永真樹(青山学院大ほか非常勤)・鶴田奈月(東京大院生)の両氏との連携のもとに、信州大学附属図書館蔵の石井鶴三宛木村荘八書翰合計122点について、翻刻注釈を公開した。今回は大正12年から昭和7年の期間中に送られた封書・葉書を扱い、これによって両者が深く関わった春陽会の内部事情や、自由学園における美術教育の実際が明らかになった。 これに加え、明治期の口絵・挿絵の状況については、出口が文芸誌『都の花』全109号に挿入された挿絵全点を調査し、文学作品との関わりや制作の背景を網羅的に明らかにする論文を発表した。また、おなじく文芸誌『新著月刊』については、口絵の印刷技術という観点から、第2期『新小説』の口絵と比較する論文も発表している。出口はさらに、日本出版美術家連盟設立75周年記念展示に関与し、石井鶴三が中里介山と挿絵の著作権を争った昭和9年の「挿絵事件」を紹介しつつ、現代における著作権の問題を核として、活躍中の挿絵実作者との連携を図った。 また、新井は峯村至津子氏(京都女子大教授)とともに、吉村忠夫画・吉井勇歌『地獄変絵巻』を翻刻紹介したほか、昭和戦前期の新聞小説挿絵について、研究会にて発表を行った。前者は肉筆画、後者は新聞紙上における印刷画を扱い、この時期の文芸と挿絵の関わりについて解明を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核である、信州大学附属図書館所蔵の石井鶴三宛木村荘八書翰約400通の翻刻紹介については、ほぼ全点の翻字を完了し、うち122通について注釈を附して発表することができた。本年度の作業によって、荘八の全書翰(内容から日付を推定したものも含む)を年代順に排列したうえ、荘八と鶴三が深く関わった春陽会関係の人物や事項についての基礎的な調査もすでに完了している。この成果は、本年度発表した翻刻注釈に反映されているとともに、そのまま来年度公開予定の翻刻注釈に生かすことが可能である。本課題申請時の見通しでは、2024年度中に荘八書翰全点の翻刻注釈を完了する予定だったが、総点数の多さだけでなく、調査過程で明らかになった1通ずつの非常な長さ(今回紹介した中にも、1通で4000字を超えるものが複数あり、最大では5500字程度にものぼった)により、2024年度内に残る約280通をすべて紹介するのは困難である。しかし、上記のように基礎的な作業が完了していることを考えれば、2025年中には翻刻紹介を完了させられる見込みであり、この角度からの研究はおおむね順調に進捗していると言える。 本年度は3者が上記の作業に注力した一方、明治期の口絵・挿絵文化の解明を担当する出口は、この時期の主要文芸誌であった『都の花』『新著月刊』の口絵・挿絵に関する調査を完了し、すでに論文として発表している。昭和戦前期を担当する新井も、この時期に肉筆で制作された絵巻と新聞小説の挿絵という、性質の異なる対象を平行して研究し、順調な成果をあげている。荒井は上記木村荘八書翰の翻刻注釈で中心的な役割をはたし、そちらに注力したために、本来の担当範囲である大正期の口絵・挿絵については研究成果の公開にまでは至らなかったが、進めている調査の結果を2024年度内に公開できる見込みであり、全体としてはおおむね順調に進展していると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度中に、信州大学附属図書館蔵木村荘八書翰の残り約280通のうち、半数の140通から160通程度の翻刻紹介を見込んでいる。これは、上記のとおりすでに全点の仮翻字が完了し、おおむね年代順にしたリストも整備してあること、春陽会や自由学園等、書翰の内容と深く関わる組織に関する基礎的調査が進んでいることなどを考えれば、2023年度に紹介した122通という数からしても合理的な数字である。また、信州大学附属図書館側からも、引続き同様の方法で調査・研究・公開を行う許諾を得ている。 明治期を担当する出口は、特定の作品を取上げて口絵と本文をあわせた読解の可能性を試みるべく、泉鏡花作・富岡永洗画「清心庵」(明治30年)に関する論考を発表予定である。また、2024年度下半期には、2022年度から続けている『読売新聞』の絵入り小説に関する調査の成果発表に向けて、準備を整えてゆく予定である。
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