研究課題/領域番号 |
22K00292
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 祐子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (80278803)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 社会的再生産 / 1930年前後 / 左翼文化運動 / 女性作家 / プロレタリア文学 / 再生産 |
研究開始時の研究の概要 |
生産領域と再生産領域の区分は、公領域と私領域の区分に連動するとともに「ジェンダー」化され、主として女性が担う領域とされてきた。左翼文化運動は「階級」を基盤として展開し、その関心を 生産領域に集中させてきた。本研究では、生産領域の成立に不可欠な「構成的外部」として再生産領域を意味付け、左翼文化思想・運動における再生産領域の配置を分析するとともに、生産中心主義批判および再生産領域に関わる思考の可能性について検討する。「階級」と 「ジェンダー」の交差性に目を向け左翼文化運動の全体像を明らかにするとともに、左翼文化とブルショア文化との連動性について検討し、1930年前後の文化的特質を解明する。
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研究実績の概要 |
2022年度は、宮本百合子の「乳房」(『中央公論』、1935年5月)を対象として、女性によって担われた社会運動の内実について検討し、国際シンポジウム「吼えろアジア」(2022年7月30-31日、於立命館大学)において発表した(「社会的再生産を可視化する 宮本百合子「乳房」におけるリアリズムと情動」)。無産者託児所を描いた「乳房」は、左翼運動のなかで周縁化されてきた社会的再生産領域を運動の内側に組み込むと同時に、ケアの倫理とつながる特質を抽出したことを、明らかにした。また「乳房」は、ソビエトで学んだ社会的再生産に関わる制度を日本に紹介してきた宮本百合子が、日本での実践を小説化したもので、その後ソビエトで翻訳されている。左翼文化運動における社会的再生産に関わる知見と実践が、ソビエトから日本へ、そしてまたソビエトへと、流通した事例としても注目した。 また、理論的な問題点の検討のため、名古屋大学大学院人文学研究科附属超域文化社会センターと共催で、国際シンポジウム「ケアの倫理と人文学」(2023年1月28-29日、於名古屋大学)を共催した。ケアの倫理は、社会的再生産についての考察において、きわめて重要な理論的支柱となるものである。シンポジウムでは、先端的な研究者による多面的な報告により、多くの知見を得た。また、同シンポジウムで、近年注目が高まっているヤングケアラーの問題を取り上げ、現代女性作家がいかにケアを描いているかについて考察し、報告を行った(「関係の余白を広げる 現代女性作家が描くケア」)。ケアを実践する当事者が、問題の解消ではなく、いかにケアを持続していくかという問題に直面しているということを、小説を通して考察した。社会的再生産は持続的に実践することが不可欠であり、持続性という視点については1930年代の社会運動についても検討すべき課題として、次年度以降、考察を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1930年代の左翼文化運動を対象とした具体的な分析と、理論的枠組みという、両面について検討を進めることができた。とくに宮本百合子「乳房」についての分析においては、再生産領域がいかに組み込まれているかという問題を、表象の水準と現実の実践の水準、双方を視野に入れながら検討することができた。本研究計画では、生殖、ケア労働、自然、という三つの領域についての検討を進めるが、「乳房」の考察は、ケア労働に関する分析として行った。理論的枠組みとしては、ケアの倫理と現実の可視化の二つの水準をより明瞭にすることの必要性について、知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、「生殖」に関わる問題群、人口の再生産に関わる社会的再生産について、検討を進める。妊娠や出産、母性、産児制限など、表象と実体の両側面から分析するとともに、女性の主体形成や物語の形式などについて検討する。加えて、次世代として未来を比喩する「子ども」の表象と、育児というケア労働との関わりについて検討していく。またこれまで、左翼文化運動のなかで、マルキシズムの流れを中心に考察してきたが、アナキズムについても考察の対象とする。アナキズムは、今後の検討課題である自然という問題群との繋がりが深い。アナキズムについては、1930年代以前、1920年代での展開も大きいので、時間的に対象を広げて考察を進める。
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