研究課題/領域番号 |
22K00336
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 山形大学 (2023) 秋田大学 (2022) |
研究代表者 |
山崎 義光 山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (10311044)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 日本文学 / 20世紀 / 散文 / ジャンル / ルポルタージュ / 小説 / 表象 / 島木健作 / 日野啓三 |
研究開始時の研究の概要 |
20世紀半ばの日本ではグローバル化と大衆化の趨勢からルポルタージュ、ノンフィクションというジ ャンルが隆盛した。本研究は、ルポルタージュと小説というジャンルの関わりを現実性の表象という観点で考究する。具体的な焦点とするのは、第二次大戦の戦前戦中期における島木健作と、戦後の日野啓三の二人の文学者の営為である。両者は、ルポ・報道という事実の表象にかかわったが、他方で、それによって達することのできない現実性の表象を小説という言説ジャンルに求めた。事実と現実性との通底性と差違の観点から両ジャンル の接点と差違を捉え、20世紀における表象文化史の一側面を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究は、20世紀半ば、グローバル化と大衆化の趨勢から現れたルポルタージュというジャンルと小説による現実性の表象との関わりをテーマとする。ルポルタージュは、グローバルな国際情勢(戦争)の動きと国民・大衆との関係を結びつける役割を果たす、事実に基づいた表象のジャンルとして定着したものと見ることができる。 本年度は、日本で「ルポルタージュ」が発生・定着した動向を明らかにすることのなかに、戦前期の島木健作によるルポルタージュや小説を位置づける調査研究を進めた。ルポは社会的な出来事とその動向に取材する。ルポが隆盛した1930年代後半は戦争と満洲開拓が大きな出来事として関心を集めた。島木が現地を旅行し見聞を記録したのは後者だった。島木は、地方・満洲への見聞旅行にもとづいたルポルタージュとともに、国内における共同経営農村、開拓地としての北海道を題材とした小説を書いていた(『満洲紀行』『運命の人』『嵐のなか』『礎』)。そもそも島木が注目した近代以後の「開拓」地は19-20世紀の国際情勢、産業とかかわり大衆の移動移住とかかわる。新たなに拓かれた「開拓地」は、伝統をもたない近代的な共同社会の形成に関わる。島木がルポルタージュや小説で表象したのは、社会情勢とともに変わりゆく「地方」生活であり、また新たに形成される社会関係の場としての開拓地・共同経営農村だった。こうした関心のもと、「開拓」を近代史のなかでどう捉えるかにかかわる問題について研究会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ルポルタージュ」という散文カテゴリーの用語が一般的となった1937年頃までの経緯に関する基礎的調査研究を継続して行った。成果をまとめる準備中である。1930年代までに、プロレタリア文化運動のなかで形成されたルポルタージュというカテゴリーが、その発生的な事情を背景化しながら一般化して戦後に至る。この経緯に関する調査研究進展させる計画である。 本年度は、1930年代後半における島木健作のルポルタージュと小説が主題とした「開拓」地・共同経営農村について、19-20世紀の近代史という視角から、「開拓」地とは何か、どのような政治的経済的社会情勢とかかわって大衆の移動移住を導くことになったのかについて調査研究をおこなった。これを通じて、アメリカ大陸、ロシアからベーリング海にいたる陸上海上の未開地への冒険や開拓が行われていた19世紀における国際情勢などとの関わりをぬきに北海道開拓も、その後の満洲開拓も考えられないとの認識を深めた。グローバル化と産業構造の変化、産業と居住地の変化、国際情勢と勢力圏争いという近代の複合的な動向から「開拓」とは何かを巨視的な視点で捉え直すことが必要であるとの認識を得た。そして、島木がルポや小説で主題とした「開拓」のモチーフを、グローバル化のなかでのローカルな協働社会の形成として捉え直す視点を得た。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き島木健作と開拓地・協同社会の表象を観点に調査研究をすすめる。とともに、1945年以後のルポルタージュを日野啓三に焦点をあてて調査研究をおこなう。これによって、戦前から戦後に連続する社会表象のジャンルとしてのルポルタージュと小説との関係に関する研究をすすめる。日野は報道における「事実」をめぐる議論を『ベトナム報道』(1966)で論じた。この議論は、「現実」の社会表象をめぐる戦前期プロレタリア文学と芸術派の議論から、戦中におけるプロパガンダの問題にいたるまで、戦前戦中、既に起こっていた議論との連続性において考えられる。事実を「事実」たらしめるのは、それへの関心や欲求、利害をめぐる係争と深くかかわり、社会を理解する理念的理論的あるいは戦略的な枠組みと、それに適合する映像や言説によって表象された事実との結合が要件となる。「事実」の報道としてのルポルタージュと、見聞した事実に取材しながらもフィクションとして表象する「小説」の接点と差異の問題を、20世紀前半の議論と接続しながら、日野の評論を起点に考究する。
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