研究課題/領域番号 |
22K00366
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02020:中国文学関連
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
林 香奈 京都府立大学, 文学部, 教授 (30272933)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 養浩堂詩集 / 日本雑事詩 / 黄遵憲 / 明治漢詩人 / 日本国志 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、従来の研究の中心であった政治や外交、漢学研究ではなく、詩による交流に焦点を絞り、黄遵憲ら清末文人と明治漢学者たちとの交流において、特に双方が中国古典詩をどのように理解し、伝え、創作に反映したかについて考察することを目指す。 こうした古典詩に対する理解や詩をめぐる交流が、その後、日中それぞれに新しい文学へと変質していく過程において、如何なる意味を持ち得たのかを検討することによって、「詩界革命」を提唱し、新たな詩作を展開した黄遵憲の詩観や、清末における詩の役割について再検証することに繋がると考える。
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研究実績の概要 |
清末詩人と幕末・明治の漢詩人との交流の一端を明らかにすべく、黄遵憲らが序跋や批評を寄せた漢詩文集の中から、特に宮島誠一郎らの漢詩集に対する批評に検討を加えた。宮島の『養浩堂詩集』については、すでに佐藤保「黄遵憲と宮島誠一郎 『養浩堂詩集』ノート」(『お茶の水女子大学中国文学会報』第10号、1991年)で概略がまとめられているが、早稲田大学および関西大学蔵本『養浩堂詩集』により改めて評語の遺漏や異同を調査した上で、宮島や他の日本漢詩人、例えば小野湖山や岡千仞らの詩集に対する黄らの評語を併せ見ながら、その傾向や意味について考察した。特に古詩の学習を重視する黄遵憲は、古詩特有の措辞を会得すべきだと主張しており、宮島自身の記述にもその指摘を踏まえた見解が示されている。また、宋詩に対する見解は清末詩人間で些かの違いが見られるものの、評語を見る限り優れた宋詩に通ずる「蒼」なる要素を含む日本漢詩に対しては共通して高い評価を与えており、力強さと老練の巧みさこそを重視する点では、軽薄に傾く日本漢詩を批判した黄遵憲の詩観に通ずるものであることが確認された。 また黄遵憲『日本雑事詩』定本200首のうち、絹織物・海産物・日本国志執筆経緯等を記した第196~200首について、詩および自注の詳細な訳注を作成した。今回の調査では、『日本雑事詩』自注にみえる珍しい魚や鳥の名称、海産物等について、『日本国志』に頻繁に引用される村瀬栲亭『芸苑日渉』との一致は見られず、『和漢三才図会』や『大和本草』等を参照した痕跡も確認できなかったため、黄遵憲が依拠した資料の特定は今後の課題として残されたが、黄遵憲が頻用する『格致鏡原』や『通雅』を併せ参照している可能性は窺われた。 また『日本雑事詩』諸本のうち、日本国内に所蔵されている同文館聚珍版(官本)について継続して調査を行うとともに、定本と王韜本との校勘を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
宮島誠一郎の『養浩堂詩集』に対する黄遵憲・何如璋らが加えた序跋や評語について調査・考察を行い、清末詩人と幕末・明治の漢詩人との漢詩をめぐる交流の様相と、黄遵憲らの詩観の一端について明らかにすることができた。なお、今回併せ参照した他の日本漢詩人の詩集に対する評語については、今後も調査・考察を継続する必要がある。 また黄遵憲の『日本雑事詩』については、定本の詩と自注の訳注稿作成作業は200首すべてを完了したが、執筆の際に依拠した資料(特に日本の資料)などは、今後も継続して調査する必要がある。 『日本雑事詩』諸本の校勘については、確認が必要となった中国国家図書館所蔵本等の調査が依然として難航しているが、まずは国内所蔵本の調査確認を行うとともに、王韜本により定本との校勘作業を行った。なお今年度訓点本との校勘を予定していたが、これは次年度以降の課題として残すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
日本漢詩文集に対する黄遵憲らの序跋や評語等を継続して調査するとともに、幕末・明治の漢詩人たちとの筆談記録等も参照しながら、黄遵憲が日本漢詩人に特に伝授した古典詩観や他の清末文人との詩に対する考え方の違い、日本漢詩人の受容の様相をひきつづき考察する。 また『日本雑事詩』定本200首の検討作業はひとまず完了したことから、定本編集段階で削除され収載されなかった、或いは定本の段階で書き換えが行われている詩や自注を対象に、原本間の異同の有無の確認、定本および『日本国志』との比較・検討を行いながら、詳細な訳注の作成を行い、原本から定本への書き換えの意図を探る。同時に黄遵憲が『日本雑事詩』執筆時に依拠した資料の調査・特定に引き続きつとめる。 併せて定本の跋文に記されている『日本雑事詩』諸本に関する記事の再検証を行うとともに、調査が難航している中国国家図書館等蔵本の官本・定本に関する調査を進め、諸本間の異同を確認するために、定本と訓点本等との校勘を行う予定である。
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