研究課題/領域番号 |
22K00378
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡辺 克昭 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (10182908)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | アクターネットワーク / ポストヒューマン / ニュー・マテリアリズム / 生成変化 / 異種混淆 / デモクラシー / 創造的進化 / ウィル・ワイルズ / 『ウェイ・イン』 / ホテル / ジャンクスペース |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、Bruno Latourらが提唱するアクターネットワーク理論を援用しつつ、ポストヒューマン文学において人間と「モノ」が織りなす錯綜した連関を分析することにより、異種混淆体が相互依存的な共生においていかに変容を遂げ、デモクラシーをどのように変質させていくか、来るべき「デモス」のありようを炙り出そうとするものである。現代思想の知見を積極的に援用し、バイオポリティクスの実相を立体的に俯瞰するとともに、異種混淆をめぐる文学的想像力が、いかに複合的に生命、政治、種、経済と関わっているか分析を行う。
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研究実績の概要 |
本年度は、二つの学会のシンポジウムにおいて、アクターネットワーク理論(ANT)がいかに文学研究に応用できるか、以下の発表を行なった。 日本ソール・ベロー協会第35回大会シンポジウム、「“A Silver Dish”を読む」(2023年9月2日、大阪大学)においては、「「世界は善なるものに満ちて」―「銀の皿」における「生」の創造的進化」と題する発表を行なった。本発表では、ソール・ベローの「銀の皿」の主人公の若き日のエピファニーを導きの糸として、この小説を貫通する「生」の弾みがいかに「創造的進化」を遂げていくか、分析を行なった。教会の鐘の音に誘われ老父を悼むウッディが、身体/具現(エンボディー)化された諸々のマテリアルといかに分かち難い関係を切り結び、キリスト教的「善」をも脱構築する壮大なヴィジョンを確信するに至ったのか、父から子へと継承されていく生命の生成変化のありようをデモクラシーとの関係において炙り出した。 日本アメリカ文学会第65回関西支部大会フォーラム、「AI と小説との出会い」(2023年12月2日、京都女子大学)では、「ウィンストンは「生の跳躍」の夢を見るか?ーダン・ブラウンの『オリジン』におけるアクターネットワークの生成」と題する発表を行なった。この小説は、生命の創造と進化を表象する未完の聖堂、サグラダ・ファミリアと、二層の頭脳を繋ぎ合わせて進歩し続けるスーパー・コンピュータの間に親和性を見出すことにより、神と自然と科学が織りなす関係をエネルギーの拡散という普遍原理から問い直している。本発表では、アンリ・ベルクソンの「創造的進化」を援用しつつ、A Iが多彩な「芸術/技巧/術策(アート)」を駆使することにより、いかに「生の跳躍」と向き合うのか、 弾力性に富んだ螺旋のごとき生命とポストヒューマンのインターフェイスについて考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点において、ほぼ当初の計画通り年次計画を遂行することができ、全体として目標は概ね達成されつつある。 人間と非-人間のハイブリッドなデザインは、様々な分野を巻き込んで加速度的に深化しており、われわれは好むと好まざるとに関わらず、日常的にそうした複雑で入り組んだハイブリッドな布置の連関に巻き込まれている。本研究が依拠するクリティカル・ポストヒューマニズムとアクターネットワーク理論は、エイジェントとしての人間と非-人間やマテリアルとの協働的アソシエーションという点において通底する部分が少なからず見られる。しかしながら、これら二つの理論的枠組みを有機的に接合しつつ、デモクラシーとの関係において炙り出そうとする文学・文化研究は、これまでほとんどなかったと言ってよい。本研究が進捗するにつれ、異種混淆によってデザインされる集合体が人類をいずれへと導き、人類はどのようなエイジェンシーを備えたポストヒューマンへと移行しつつあるのかという問いが含みもつ意味が、一層明確に明らかになりつつある。 今後とも進捗状況を的確に把握し、研究期間中に一定の成果が得られるよう調整をはかりたい。計画が当初計画通りに進まないときの対応としては、分析対象とする作家、メディアをさらに絞り込むなど、計画全体の整合性が損なわれないよう、適宜柔軟に組み替えを行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
人間は世界に外在し、世界を客観的に捉えることができるという従前の人間観は幻想に過ぎず、われわれは動植物やモノと共に織りなされるアクターネットワークの一部を構成しているに過ぎない。このようなANTの視座は、人新世における人類の地球への圧倒的な影響力と人類の絶滅の危機というパラドックスを解きほぐし、デモクラシーの未来を探る際、貴重な手がかりを与えてくれる。デジタル・テクノロジーを前提に制度設計されてきたわけではないデモクラシーが、アルゴリズムによって駆動されるかもしれない近未来において、いかに命脈を保つことができるのか。来るべきデモクラシーの問題点と展望を異種混淆的な文脈において探ることが、今後の研究を推進していくうえで重要な鍵となる。 次年度以降も、これまでポストヒューマン文学として俎上に載せられることがなかった多様なジャンルとメディアに跨るテクストも積極的に取り上げ、人間と非-人間が織りなす網目を、来るべきデモクラシーの問題系との関係において、さらに丁寧に解きほぐしていきたい。
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