研究課題/領域番号 |
22K00379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中川 千帆 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (70452026)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 家庭教師 / センセーション小説 / 家庭 / ジェンダーイデオロギー / ヴィクトリア朝期 / 家 / 看護師 / 国家 / 軍隊的家庭性・家庭的軍隊性 / 犯罪小説 / 職業 / 女性探偵 |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀後半から20世紀の犯罪小説のなかの家庭教師・看護師・コンパニオンに注目する本研究は、19世紀の英米小説、特にゴシック小説・センセーション小説における彼女たちの描写と比較対照しながら、犯罪小説において家庭教師たちがジェンダーイデオロギーとどのように折衝している存在として描かれているのか探る研究である。中産階級の女性の職業としてより早く認められたこれらの職業の女性たちの表象を犯罪小説の中で探ることによって、本研究は19世紀後半から20世紀の英米の作家の想像力の中で女性の居場所と職業に関する概念を浮かび上がらせるものである。
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研究実績の概要 |
本年度は家庭教師と犯罪小説を中心に研究を行った。Patricia WentworthのMiss Silverシリーズに加え、家庭教師が重要な登場人物として描かれるMargery AllinghamとMary Stewartの作品を取り上げ、家庭という概念と女性の職業がどのように犯罪と関わっていくのかを分析した。ヴィクトリア朝期のgoverness novelsとその研究を参照し、犯罪小説というジャンルにおいて家庭教師をめぐるジェンダーイデオロギーがどのように変化したのか、それとも変化が見られないのかを議論の出発点としている。 元家庭教師が探偵となるMiss Silverシリーズは、物語を語るヒロインの立場から、犠牲者の立場から、または犯罪者の立場から女性と家庭の問題が浮かびあがってくる。Miss SilverシリーズやAllingham作品やStewart作品に描かれる家庭教師の姿は、女性が職業を持ち、かつ他人の家庭の中に入り込むことによって、彼女たちが複雑な立場に置かれ、かつその矛盾をすべて背負う役割になることがわかる。センセーション小説やゴシック小説の伝統と対比しながら研究したこの部分の研究に関しては、International Crime Fiction Associationの学会において発表を行った。 20世紀初頭の犯罪小説においてはヴィクトリア朝期はノスタルジアをもって語られるため、表面上では家庭教師を巡るジェンダーイデオロギーは肯定されているといえる。しかし、家庭教師を探偵としていること、そして同時に犯罪者の口から語られる犯行動機や社会に対する不満は、ジェンダーイデオロギーへの疑問を示すものである。したがって、黄金時代の犯罪小説は女性の在り方に対し、ノスタルジアを示すだけではなく、イデオロギーに対する抵抗も表現しているといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画自体はほぼ順調に進展している。令和5年度には、1年目にとりかかった看護師探偵を巡る研究に関してはブックレットのなかの一章として出版し、かつ2年目のテーマであった家庭教師を巡る犯罪小説についての発表を行った上で論文として発表した。しかし、校務との兼ね合いにより、Internationa Crime Fiction Associationの国際学会にはオンラインでしか参加できなかったため、自分の研究に対するフィードバックを十分に得られたとは言えない。その点から、ほぼ順調ではあるが、今後、変更や修正箇所が大きく出てくる可能性があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、家庭教師と犯罪小説というテーマで主にPatricia Wentworth作品についての研究を行った。その際、繰り返しArthur Conan DoyleのSherlock Holmesシリーズに言及してきたが、学会での研究発表においても、論文として発表する際においても、十分に分析して議論する余地がなかった。今後は、すでに論じた作品以外にも数多くの作品が残っているPatricia Wentworthを継続して研究を進めながら、あわせてConan Doyle作品を研究対象として取り上げる予定である。 その際、重要なポイントとなるのは、都市と地方、都市と犯罪小説、地方と犯罪小説の問題である。犯罪小説研究においては犯罪小説と都市の関係は十分に議論されてきているが、私が対象とする黄金時代の犯罪小説において都市ではなく地方・田舎が中心となる意味は、十分に議論され尽くされているとはいえない。家庭教師や看護師たちが分離された領域のイデオロギーを脅かすものでありながらも、女性らしいジェンダーを体現する存在として描かれてきたという矛盾と、彼女たちを中心的な登場人物とする"cozy mystery"が犯罪小説であり、安全で平和な閉じられた空間という幻想を裏切る物語であるという根本的な矛盾の二つには、深いつながりがあると考えてきた。その二つの関連が、地方・田舎という舞台の意味を考えることによって明らかになるのではないかと考えている。今後は、この部分について特にConan Doyleの小説と比較対照しながら議論し、黄金時代の犯罪小説における地方・田舎と女性の居場所の問題について分析していく予定である。
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