研究課題/領域番号 |
22K00394
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
松宮 園子 関西学院大学, 社会学部, 教授 (30368550)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
|
キーワード | 英文学 / ミドルブラウ / アガサ・クリスティ / 英米文学 / ミドルブラウ研究 / 悪の諸相 |
研究開始時の研究の概要 |
拡大を続ける戦間期研究の中でも特に21世紀に入り発展が著しいミドルブラウ文化研究の一環として、1920年代から70年代の長きに亘り活躍した「ミステリの女王」アガサ・クリスティが描く「悪」の諸相の変遷を、ファシズムの台頭、ホロコーストの衝撃、同時代におけるマスメディアによる犯罪表象の氾濫と関連づけながら辿る。ハンナ・アーレントの「凡庸な悪」の概念を巡る議論を補助線に、一般社会に生きる「平凡な」市民が犯す悪というテーマに所謂「ハイブラウ」なテクストとは異なる種々のアプローチでクリスティが取り組んだ長大な軌跡を精査する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、拡大を続ける戦間期研究の中でも特に21世紀に入り発展が著しいミドルブラウ文化研究の一環として、1920年代から70年代の長きに亘り活躍した「ミステリの女王」アガサ・クリスティが描く「悪」の諸相の変遷を、ファシズムの台頭、ホロコーストの衝撃、同時代におけるマスメディアによる犯罪表象の氾濫と関連づけながら辿るものである。 2023年度の実績としては、まず単著『欲望のポートレート――英語圏小説に見る肖像、人形、そしてヒューマノイド』(小鳥遊書房、2024年2月。全262頁)の出版が挙げられる。時代もジャンルも異なる作家たちがテクスト中に創造したポートレートが担う、ヒトとモノ、自己と他者、さらに現実と虚構の境界のもろさを突きつける特異な機能について考察した本書の中には、2021年度に雑誌発表した、クリスティの中期作品である『ホロー荘の殺人』に関する論考を大幅に加筆修正した第3章「抽象を目指す彫像:アガサ・クリスティ『ホロー荘の殺人』」、及び本研究全般と関わるハンナ・アーレントと絡め、「個人」の概念に関する彼女の議論とカズオ・イシグロの小説を扱った第5章「「私」になるヒューマノイド:カズオ・イシグロ『クララとお日さま』」が含まれている。 さらに、2024年3月9日に兵庫県の姫路文学館において開催された「第4回友の会研修講座」の講師として、「アガサ・クリスティの世界――「癒やし」としての推理小説」と題して講演を行い、研究成果の地域社会への還元に努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度においては、単著出版に伴い、当初の計画よりもクリスティ作品に関する新たな論文執筆は若干遅れているが、広範な一般読者及び聴衆を対象とした発信の面では大きな成果があげられており、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の意義は、これまでのクリスティ研究が時代、ジェンダー、倫理の面でやや限定的な視点に留まっている中、2つの大戦及びマスメディアにより多様化する犯罪表象の影響を精査しながら、クリスティがその長大なキャリアにおいて描き出した20世紀の悪の諸相を分析し、それが同時代の悪を巡る諸議論と如何に連関しているのかを考察することで、こうした批評的空白を補う点にある。第二次世界大戦とその後の社会、さらに現代に至るアダプテーション作品を精査することで、クリスティ研究の深化を図ると共に、本作家と密接に結びつけられてきたミドルブラウ文化全体が果たした当時の社会における倫理的意義の再検証に繋げていく。 2023年に新たに公開された映画 A Haunting in Venice において、クリスティの1969年の作品 Halloween Party が特に大胆に改変された事実も踏まえ、現代社会がクリスティの作品群を媒介しつつ悪と向き合い、時に消費していく現象について、さらに考察を深めていきたい。そして今回の単著出版によって会得した知識と経験をもとに、本研究の対外的な発信の手段としての単著執筆についても具体化させていきたい。
|