研究課題/領域番号 |
22K00396
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
古木 圭子 奈良大学, 文学部, 教授 (80259738)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | アメリカ演劇 / キャンプ / パロディ / ジェンダー / セクシュアリティ / アダプテーション / ジェンダーパフォーマンス / 演劇における詩的想像力 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、キャンプの誇張や人工性が、アメリカ演劇の女性登場人物を通して時に笑いや自虐性を引き起こし、観客との対話を引き出す要素となることを明らかにする。Annette Saddikは、Williamsの「不自然な」女性登場人物は、複雑な内面を持つがゆえに観客の期待を裏切り、それが彼女らをより「自然な」存在にすると指摘する。その誇張性(キャンプ)が孤立感と愛情への飢餓の裏返しとすれば、それは彼女らの複雑な内面の具現化であり、活発な精神の活動であり、だからこそ観客の期待に反する意外性を秘め、その裏切りの中に笑いと共に共感が芽生える。その点をアメリカ演劇の女性登場人物の分析を通して明確にしたい。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、Tennessee Williams (1911-1983) およびEdward Albee (1928-2016)の戯曲を中心として、アメリカ演劇におけるキャンプおよびパロディの要素とセクシュアリティ、ジェンダーの関係を明らかにすることである。 2022年度においては、WilliamsのStreetcarと、2021年度に発表された詩”Kicks”におけるBlancheの比較分析を行った。2023年度は、その研究をさらに進め、"Kicks”がStreetcarのパロディ作品として機能している点も明らかにした。Williamsは、戯曲から詩へと形式の転換をはかり、慈悲の心を尊ぶと共に、Stanleyに果敢に挑み続けるBlancheの強靭な資質も表面化させた。そしてそれこそが、演劇の舞台だけには留まらない、芸術家としての彼の多面性を示している。 さらに本年度は、戯曲から詩への文学形式の移行が時にパロディという要素を含むという観点から、小説から映画へのアダプテーションというテーマにも取り組んだ。具体的には、アジア系アメリカ人小説家Kevin Kwanの小説 Crazy Rich Asiansの映画版が、全アジア系キャストによるハリウッド映画として注目を集めた一方、「アジア系人種」を「白人化」したという批判を受け、ジェンダー表象を、映画の舞台となっているシンガポール富裕層社会の現実とは異なるように書き換え、その結果として原作のパロディ化を生み出しているかという点を指摘した。当研究の成果は、所属するアジア系アメリカ文学会でのシンポジウムでの口頭発表、および学会誌(AALA Journal 第29号)掲載の論文「『クレイジー・リッチ・アジアンズ』におけるジェンダー表象――小説と映画の相違」という形で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には、米国ニューヨークへの海外出張が実現し、研究は概ね順調に進んだ。特に、Williams, Albee の戯曲のBroadway、Off-Broadwayにおける初演およびリバイバル上演に関する劇評を収集し、各上演の演出がどのようにキャンプ、パロディの要素を可視化,舞台化しているかということについて調査を行った。 さらに、劇作家Annie Baker (1981- ) の戯曲に関する劇評を多く収集し、最新作 The Infinite Life (2023) を、オフ・ブロードウェイで鑑賞する機会を得た。BakerはThe Flick(2013)によりピューリッツァー賞を受賞しているが、The Flickと同様、The Infinite Life にも「沈黙」と「静止」という要素が顕著である。そのような要素は WilliamsのStreetcarやAlbeeのVirginia Woolfの女性主人公たちに見られる饒舌さとは対比されるように思われるが、根本的には「ことば」の不確かさ、コミュニケーションの困難さを強調しているという点において、Williams, Albeeの描く女性主人公と共通点がみられる。というのも、StreetcarのBlanche、Virginia WoolfのMarthaの絶え間ない「語り」は、他者の無理解から生じる孤独感の裏返しと捉えられるからである。 本年度は、Williamsの未完の詩”Kicks”の詳細な分析を進めることで、それまでの研究において捉えてきたStreetcarにおけるBlanche像およびそのキャンプ的要素に関して、新たな側面を見出した。その成果については、「テネシー・ウィリアムズの詩的想像力―「キックス」と『欲望という名の電車』をめぐって」として論文が完成し、2024年度内に著書(共著)として出版が予定されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画においては、Williamsの詩的想像力とジェンダーの関係に関する考察をさらに進め、劇作家間および作品間の対話という要素について分析を行う。またWilliamsの作品において、演劇、詩、小説、映画(化)という文学(文化)ジャンルがどのように相互作用し、また”Kicks”とStreetcarの関係にみられるように、時にあるジャンルが他のジャンルのパロディとなっている様相についても考察を進める。 さらに、アメリカ演劇における「場所」とジェンダーの問題についても考察する。Williamsの戯曲においては、芸術家が創作活動の危機に瀕した際の逃避先として、ホテルが用いられることが多い。とりわけSweet Bird of Youth (1959) では、第一、三幕のアクションのすべてがホテルの部屋で繰り広げられる。主人公で有名な舞台俳優のAlexandraは、時の流れがもたらす美貌と才能の衰えという危機に直面できず、ジゴロの男性Chanceとホテルに避難する。性的魅力を武器に年配の女性に経済支援を乞うChanceもまた、若さと魅力を奪ってゆく時の流れに怯える。しかし、Alexandraがホテルを去った後に舞台へのカムバックを目指すのとは対照的に、Chanceには去勢という残酷な運命が待ち受ける。本戯曲の基礎となった一幕劇 ”The Enemy, Time”との関連も視野に入れつつ、芸術家の逃避および復活を促す場所としてのホテルの存在について考察を進める。また、Alexandra にみられるキャンプ、パロディの要素についても分析を行う。本研究の成果は、2024年9月に予定されている英米文化学会大会にて研究発表を行う予定であり、その後論文として成果をまとめ、共著として出版する計画である。
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