研究課題/領域番号 |
22K00407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
高木 眞佐子 杏林大学, 外国語学部, 教授 (60348620)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | キャクストン版『イソップ物語』 / ウィリアム・キャクストン / イソップ物語 / ポッジョ / William Caxton / Aesop |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、印刷工程で底本に施されたテクスト上やレイアウト上の工夫と問題点について、近年10年の間にキャクストン工房でのテクスト印刷工程についての研究で明らかになった知見を活かしつつ進めて行く。また、特に重要な考察点に、新しい『イソップ物語』が初等英語教育や幼児の訓育を重視していた点をくわえる。本研究は本文校訂にくわえて、初頭教育上の観点を加味してキャクストンが英国版にどういう工夫を施したか解明しようとするものである。キャクストン版『イソップ物語』が当時の英国社会で果たした役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
前年度からの研究のまとめとして、『アーサー王の死』におけるウィリアム・キャクストンの題材の扱い方について新たな検討を加えた。その結果、キャクストンはこれまで考えられていた以上に大きい改変を、現存するキャクストン版『アーサー王の死』のテクスト上で行っていた可能性を指摘することができた。これは『アーサー王の死』の書き換え問題においては画期的な発見であり、ウィリアム・キャクストンが、従来考えられていたよりも積極的に自身の印刷物に手心を加えていた可能性が高くなったといえる。 また、ウィリアム・キャクストンが、当時流行の詩や著作をどのように自分の印刷出版物に盛り込んだのかを知るために、『イングランド年代記』を題材に具体的な調査を行った。その結果、キャクストンはウェストミンスターにいながら様々な地域の最先端の言説に接する機会があり、必要に応じてそうした文物を印刷物に取り入れていることが明らかになった。 『イソップ物語』については、当初はキャクストン版と、シュタインヘーヴェル版との間に介在するフランス語版についての調査を進める予定であった。ジュリアン・マショーがドイツ語から翻訳した版には、フィリッピーラインハルトによる1480年出版のものと、ルーセットによる1482年出版のものが存在するが、キャクストンが使用したのはルーセット版であることがこれまでに確認されている。しかし2023年度には、どちらの版についても保有者からの許可が下りず、研究者は現存する実物を閲覧することができなかった。この結果、これまでにロッテ・ヘリンガ博士がText in Transit(2014)で発表している以上のことを実地研究で解明することはできなかった。そこで、キャクストンが独自に付け加えたとされるエピソードについての検討・分析を行い、キャクストンが英語版『イソップ物語』に加えた独自性について考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度には当初想定していた海外出張を行うことができなかったため、立案当初に計画調書に記した計画遂行のために必要なルーセット版と、キャクストン版とを比較するための閲覧を行うことができなかった。当該初期印刷刊本は極めて貴重であるだけでなく、焼け跡など痛々しく破損した状態のものであるため、限られた時間の範囲内で許可申請をすることは、極めて困難な状況になっている。 当該研究が最終年度であることを踏まえると、これ以上先方と膠着状態を続けるのは得策ではないため、当初の研究内容を変更するのが妥当であると考える。 これまでの研究の流れから考えると、キャクストンが英語で出版物を印刷する際、彼はどんな点に注意を払って独自の内容を付け加えたのか、という点が焦点となる。そうした点を前面に押し出した研究計画に、今から変更をする必要がある。幸いにも、『イングランド年代記』と『アーサー王の死』に見られるキャクストン独自の視点は、『イソップ物語』にキャクストンが盛り込んだ独自性を論じる上でも重要な具体例として取り上げるに足るものである。こうした状況を踏まえて、2024年度はキャクストン版『イソップ物語』をキャクストンがどのように成立させ、またそれをイングランドの読者がどのように受容したのかを、当時の社会背景を踏まえて改めて位置づけることを試みる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年には、慶應義塾大学の徳永聡子博士、イギリスDe Monfort大学の加藤誉子博士に最新のキャクストン研究についての知見を求め、『イソップ物語』成立の研究に活かしていく。 最終年度となる2024年度の研究では、社会史的なコンテクストでキャクストン版『イソップ物語』出版の意義を捉え直すことを主眼とするが、ヘリンガ博士による初期印刷本のフランス語版と英語版との比較研究についても追求していく。なぜならルーセット版には完全な形で残っているものはなく、多くの部分についてはこれまで通りフィリッピーラインハルト版に頼らざるをえないからである。このため、これまでフィリッピーラインハルト版とキャクストン版との違いとして理解されていたものについて、ルーセット版を想定しつつ洗い出しをしてみたい。それらの差異がルーセット版独特のものだという可能性があるからだ。実地検証ができないながらも、こうしたやり方でヘリンガ博士の比較研究を精査することにより、キャクストン版『イソップ物語』の翻訳の問題に精度を上げる試みも可能な限りしていきたい。 また、キャクストンが翻訳した内容に新たに追加したテクストの問題についても、従来の仮説に改めて検討を加える。これまで研究者が積み上げた研究から、新しい仮説が立てられる可能性もある。英語の『イソップ物語』にしか存在しない挿話もあることから、キャクストンによる独自の改変という問題に焦点を当てていきたい。 2024年度は英国に出張を行い、当地の研究者との交流を通じて、キャクストン版の発展についての新たな知見を得ることとしたい。また、学会において研究発表を行い、『イソップ物語』について得られた知識をまとまった形で発表する予定である。
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