研究課題/領域番号 |
22K00433
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
金田 迪子 実践女子大学, 文学部, 助教 (30876941)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 英米文学 / 現代演劇 / イギリス演劇 / 視覚文化 / 画像論的転回 / キャリル・チャーチル / イアン・スピンク / 現代舞踊 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、現代イギリス演劇を、1990年代以降の人文学分野における視覚文化・表象への関心の高まりを指す「画像論的転回」の文脈に照らして検証し、作品に見られる個人の社会的認識や審美的態度の変化を含む認識論的な変容の様相を明らかにすることである。1990年代に美術史研究の文脈で提起された「画像論的転回」は、人文学分野を席巻してきた「言語論的転回」に代わり、視覚表象が言語という表象体系に代わり存在感を増したことを指摘する概念である。本研究では、比較的近年注目が集まり始めているこの概念を新しい分析の軸として導入することにより、1990年代以降の現代イギリス演劇の作品の新たな文化史的な位置づけを検討する。
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研究実績の概要 |
本研究は、現代イギリス演劇を、1990年代以降の「画像論的転回」の文脈に照らして検討し、作品および作家の語りから読み取ることのできる社会的認識や審美的態度を含む個人の認識論的変容の様相を明らかにすることを目指す。本研究はまず、これまで視覚文化・表象との関わりが詳細に検討されてこなかった現代イギリスの劇作家や戯曲の経時的変容の一部を明らかにする。また本研究は文学研究と視覚文化・表象研究の2領域を接続し、とりわけポストコロナの新しい生活様式において映像文化に注目が集まる中、個人の自己認識・自己構築に視覚文化がもたらす影響を可視化し、視覚文化・表象と社会をめぐる諸問題に対して現代イギリスの劇作家や戯曲がさまざまな示唆を与えうることを示すという意義がある。 本年度の研究の成果としては、(1)キャリル・チャーチル(Caryl Churchill, 1938-)と現代舞踊家イアン・スピンク(1947-2023)の共同制作作品である映像作品Fugue(1988)の映像資料を英British Film Instituteで閲覧し、スクリプトの書き起こしとそれに基づく考察を行うことができたこと(2)本研究の対象となる1990年代以降という時代の政治的・社会的な分析を行うための理論的枠組みを検討した結果、「ポスト政治」の概念を通して本研究をより広範な政治的・社会的文脈に位置づけられうる可能性が確認できたこと、の2点が大きい。また、当初の研究計画の内には具体的に含めていなかったが、(3)イアン・スピンクの舞踊作品に関する資料を収集することができた。一方で、(4)視覚表象分野における「画像論的展回」の理論・論考の検討については、次年度以降も継続して行う必要がある。本年度の研究成果の一部は、2023年11月に開催された日本英文学会関東支部第23回大会における口頭発表で公開を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では当初(1)1990年代以降を特徴づける視覚文化・表象の特定(2022年度)(2)イギリス人劇作家の語りにおける視覚文化・表象への言及の収集(2023年度)(3)戯曲と視覚文化・表象の関わりの分析(2024年度から2025年度)と段階的に研究を進めていくことを検討していたが、計画よりやや遅れている。その大きな理由としては、(1)の段階で予定していた、現代イギリスの演劇・パフォーマンスに関する映像資料を所蔵・管理している主要なアーカイヴであるThe V&A National Video Archive of Performanceが改装工事に入っており、2025年度まで資料が一般公開されないことが大きい。しかし一方で、(2)に関連する成果として、本年度(2023年度)の研究では、英National Resource Centre for Dance, University of Surreyが発行しているProceedingに掲載されたロングインタビュー等、キャリル・チャーチルの共同制作者であるイアン・スピンクに関する資料を予想外に多く収集することができた。また一方で、Fugue(1988)の映像資料の分析結果と書き起こしスクリプトに関する調査を行うことで、本研究で今後検討していくべき1990年代の視覚文化の置かれた状況をめぐる課題として①ブレア労働党政権下におけるアーツ・カウンシルによる現代舞踊への助成の増額の問題が確認できただけでなく、②1990年代の「ポスト政治」的状況における政治演劇と実験演劇の関係といった重要な観点を確認することができた。そのため、当初の予定とは異なるものの、計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を受けて、今後の研究では以下の課題を重点的に進めることを検討している。(1)イギリスの現代舞踊家イアン・スピンクおよびその周辺の舞踊家・ダンスカンパニーに関する資料の収集、(2)イギリスの現代舞踊の1990年代以降の展開の調査、(3)ブレア労働党政権下のアーツ・カウンシルを中心とした文化芸術助成とイギリスの現代演劇・現代舞踊の関係の調査、(4)1990年代の「ポストドラマ演劇」ないし「ポストドラマティック演劇」と政治演劇の関係に関する議論の調査、また、引き続き(4)イギリス人劇作家の語りにおける視覚文化・表象への言及の収集、(5)「画像論的展回」に関する理論・論考を検討する作業も進める。これらの課題に基づき研究を進めることを通して、1990年代以降の現代イギリス演劇の展開において「画像論的転回」を認めることはできるのか、またもし認められるのであればそれを取り巻く政治的・経済的・美学的な文脈はどのようなものであるのか、そしてそのような「画像論的展回」がもたらした認識論的な変容の様相はいかなるものであるのか、といった点について、2025年度の完成を目指して資料収集・調査・考察を引き続き深めていきたい。
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