研究課題/領域番号 |
22K00437
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02030:英文学および英語圏文学関連
|
研究機関 | 東京工芸大学 (2023) 愛知大学 (2022) |
研究代表者 |
石井 麻璃絵 東京工芸大学, 芸術学部, 助教 (90832022)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
|
キーワード | モビリティ / モダニティ / アイデンティティ / 空間 / ジェンダー / モビリティー / モダニティー / アイデンティティー / ヘテロトピア / 19世紀イギリス小説 / 移動性 / 女性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、シャーロット・ブロンテ、エリザベス・ギャスケル、チャールズ・ディケンズ、ウィルキー・コリンズ、ジョージ・エリオットらヴィクトリア朝の代表的作家の女性主人公の作品を取り上げ、「空間」と「移動性」理論の視点から、個人と空間の問題を分析することである。当時の女性たちが厳しい社会規範といかに交渉しながら、どのような物理的な移動にともなっていかなる精神的な心情の移動性を経験していくのか、そしてそれとともに彼女たちのアイデンティティーの確立を含めた空間はどのように変化、拡大、あるいは新たに創造されるのかを探求する。
|
研究実績の概要 |
19世紀イギリス文学に描かれる個人と空間の関係の複雑性、多様化を研究するにあたり、ミッシェル・フーコーが唱えた「ヘテロトピア」の空間論を作品分析に取り入れた。その結果を、「『ヴィレット』におけるヘテロトピアの空間とヒロインのアイデンティティ」(日本ブロンテ協会『ブロンテ・スタディーズ』第7巻3号、2023年12月)にまとめた。また、近代化する19世紀イギリス社会において、「歩行」が女性にとって自由や自立を体感し、自然との調和を楽しむ機会となることで、ジェンダーや階級のアイデンティティに影響を与えることを、「『シャーリー』を読み直す~『シャーリー』におけるヒロインの歩行と近代化」(日本ブロンテ協会第38回大会シンポジウム、2023年10月)において考察、発表した。更に、これまでの研究の集大成として、博士論文 ‘Mobility, Modernity, and Space in Jane Eyre, Villette, and North and South’を明治学院大学大学院に提出した(2024年3月)。「移動性(mobility)」の研究は、地理学者ティム・クレスウェルが「移動性とは近代とは何であるかの中心にある」と唱え、社会学者アンソニー・ギデンズが「エイデンティティは移動性によって生産、実施される」と説き、移動性を社会的に生産された動きと見なす考察が昨今ますます盛んである。その一方、移動性を取り入れた文学批評、作品分析はまだ十分にされていない。19世紀イギリス文学の代表的な作家であるシャーロット・ブロンテとエリザベス・ギャスケルの作品を分析することは、産業化や都市化によって物や人の移動の文化が発展した当時の人々、特に女性の空間、時間に関する認識の変化を考察するうえで重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、19世紀ヴィクトリア朝時代における近代化と女性の空間、移動性、アイデンティティの関係の多様化を探求することである。本年(2023年度)は、博士論文において、本研究で最も重要な一次資料であるエリザベス・ギャスケルの『北と南』と、シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』と『ヴィレット』を題材に、女性のアイデンティティと空間、移動性、近代化の関係を探り、まとめたことで大変意義深い一年となった。結果、ヒロインたちが近代化に自身を適応させていく、もしくは身を引きノスタルジーにふける姿から、19世紀のミドルクラスの女性の移動性が空間と相互作用し、空間を作り出し、ジェンダー、階級、社会の制約と交渉し、近代化する社会のなかでいかに自身のアイデンティティを確立していくかを考察することができた。現在、ギャスケルの『クランフォード』(1851-1853)を題材に、同じ手法とテーマで研究を進めており、更にギャスケルの『妻たちと娘たち』(1864-1866)、ウィルキー・コリンズの『ノー・ネーム』(1862)を考察する予定である。また、本年は、アンリ・ルフェーブル、リンダ・マクドウェル、ドリーン・マッシーらによる空間とジェンダーの関係の分析に加え、ミッシェル・フーコーの空間論を作品分析に新しく取り入れることで、美術館や劇場、祭りや船、鏡といった、通常の時間と空間のルールに従わない空間である「ヘテロトピア」についての考察を進めた。フーコーのヘテロトピアの空間論は、ジョージ・エリオットの『フロス川の水車場』(1860)の空間を分析するのに役立つと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の3年目は、エリザベス・ギャスケルの『妻たちと娘たち』(1864-1866)と『クランフォード』(1851-1853)の考察を進める。そのため、日本ギャスケル協会への投稿を準備している。2024年4月に『ギャスケル論集』に投稿し、10月に岩手県立大学アイーナキャンパスで開催される日本ギャスケル協会第36回大会に参加する予定である。また、研究範囲を広げ、ウィルキー・コリンズの『ノー・ネーム』(1862)とジョージ・エリオットの『フロス川の水車場』(1860)を考察する。博士論文で考察した馬車や列車、船による移動の変化の研究は、時間軸と空間軸の点でより複雑化、多様化した移動性が、いかに文学作品のなかで表象されているか探究することを可能にすると考える。
|