研究課題/領域番号 |
22K00449
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松田 浩則 神戸大学, 人文学研究科, 名誉教授 (00219445)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
|
キーワード | ポール・ヴァレリー / エロス / カトリーヌ・ポッジ / 手紙 / 日記 / ルネ・ヴォーティエ / 書簡 / 知性 / エクリチュール |
研究開始時の研究の概要 |
ポール・ヴァレリーの公的に「作品」として出版された著作物ばかりでなく、日記『カイエ』や、彼が愛人といわれた女性たち(ロヴィラ夫人、カトリーヌ・ポッジ、ルネ・ヴォーティエ、ジャン・ヴォワリエ)と交わした「恋文」といった私的書き物、さらに彼女たちとの交流をきっかけに書かれた作品群、さらには彼女たちの著作物や日記などの分析を通して、彼がいかに「知性」と「エロス」との相克の中で執筆活動をおこなったのか、そのメカニズム全体を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究では、パリのフランス国立図書館に所蔵されているポール・ヴァレリー(1871-1945)の『魅惑草稿』(Manuscrits des Charmes)と『カトリーヌ・ポッジ文書』(dossier de K.)などの詳細な調査と読解の試みを通して、ポッジとの出会いをきっかけとして、1920年以降のヴァレリーのエクリチュール(書き方)がどのように劇的に変化したのか、知性とエロスの相克が、それまでのヴァレリーのエクリチュールのあり方にどのような根本的な問いを投げかけ、新しいエクリチュールの創出に繋がったのかを究明していく。換言すれば、ヴァレリー自ら「知的絶対主義」と呼ぶ「ムッシュー・テスト」を一頂点とした青年期のエクリチュールが、ポッジとの経験を経ることによって、どのような戦術の練り直しを迫られたのかを明らかにする。 従来、ポッジがヴァレリーに及ぼした痕跡としては、『魅惑』に収められている「ナルシス断章」において、それまでの詩の流れを断ち切るように突如出現する男女の交わりを示唆する場面を指摘する研究者が多かった。しかし、『魅惑』の草稿をより詳細に読んでいくと、「アポロンの巫女」「蛇の素描」「死をいつわる女」、その他の詩篇の中にも、ポッジの影が差していることが草稿段階から確実に指摘できる。しかも、そこには、エロスを極力排したムッシュー・テスト的なエクリチュールを投げ捨てて、もうひとつ別のエクリチュールへ向かおうとする意志が明確に出ている。こうした変化を分析することにより、これまで支配的だった「地中海的明晰さを備えた知識人」というヴァレリーの姿を一新できるように思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍によりフランスへの出張はできないでいたが、2024年3月に一週間ほどコート・ダジュール大学で資料を収集することができた。全体的には順調に研究計画は進んでいる。とりわけカトリーヌ・ポッジの日記とヴァレリーへの手紙の解読がかなり進んだので、1920年代のヴァレリーの活動を明確にとらえられるようになってきた。資料の収集や解読とともに新しい知見も得られた。また論文の執筆もほぼ順調に進んでいるので、いずれ単行本として出版したいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目標を達成するために、まずは、コート・ダジュール大学とフランス国立図書館が所蔵しているヴァレリーの『カトリーヌ・ポッジ関連書類』を精査し、数次にわたる加筆修正のある原稿をデータベース化していく必要がある。そのうえで、可能な範囲内で日本ヴァレリー研究会のWeb上での公開を行う予定である。それと並行して、『魅惑』とほぼ同時期に書かれた1920年代のヴァレリーの作品、とりわけ詩的散文や対話形式の作品にも注目しつつ、知性とエロスの相克がヴァレリーに投げかけた問題の広がり全体を考察対象とした研究論文を数本執筆し成果を公表する予定である。また、ヴァレリーにエクリチュールの戦略変更を迫ったカトリーヌ・ポッジと彼との往復書簡集やポッジの日記がヴァレリーの作品制作の内情を明らかにしていることを考慮して、論文の執筆に最大限取り込んでいく予定である。
|