研究課題/領域番号 |
22K00459
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
熊谷 謙介 神奈川大学, 国際日本学部, 教授 (20583438)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 世紀末 / ポストヒューマン / 精神分析 / 身体 / 動物 |
研究開始時の研究の概要 |
文学・芸術研究として本研究は、①19世紀後半フランスにおける神経をめぐる言説を、精神医学、生理学、生物学、文明論(デカダンス・「頽廃」論など)、哲学、心理学を中心に収集・概観し、②これらの言説との関係で、同時代の文学・芸術作品やそれを論ずる批評がどのように展開したのかを分析する。
この視点により、神経をめぐる問いが病理の表象に還元されず、知覚一般をめぐる問いとなる。人文科学の多様な領域と関連づけることで、主体をつかさどるものとは何か、外的刺激の積み重ねであるのならば、人間は偶然性に支配され刻一刻と変容する存在なのではないかという、現在にも通じる問題へと接続する。
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研究実績の概要 |
フランス19世紀末文学に見られる神経による知覚の表象や、そこから生み出される主体概念について分析を行った。なかでも本年度は「非人間」の主題、とくに動物表象とジェンダーの絡み合いについて研究を進め、神経文学と関連づけた。 2023年夏にドイツ・ベルギー・フランスで研究調査を行い、図書館等で資料読解を進めるとともに、美術作品を調査し神経表象を考える上での視点を確実にした。ケルンでは、世紀転換期における神経症の問題を考える上で重要なアンソール、ムンク、シュトゥック、ルドン等の絵画を分析した。リエージュでは、象徴主義との関連で重要なリエージュの歴史をたどり、アール・ヌーヴォーの工芸品を分析した。ゲントでは、フラマン語圏のベルギー絵画を通覧し、とくにアンソールとヤン・トロープの作品を分析した。パリでは近代芸術における版画の意義について考える展覧会を見学し、版画芸術と神経表象との連関を考える視座を得た。 研究成果としては、①神経文学論の2作目として、特異な女性作家ラシルドの小説『動物女』を、神経症-動物表象-女性性という3つの視点から読み解いた。『動物女』のアクチュアリティを探るとともに、ポストヒューマンというモチーフが19世紀末に先駆的に見られることを示した。(「神経文学論(2)-ラシルド『動物女』における「心なき」女と獣なるもの」)。 ②動物とジェンダーの絡み合いを広く分析するものとして、欧米の文脈から現代日本文学までカバーする論集を編集・執筆した。理論的枠組みを示す序文と、松浦理英子『犬身』論の執筆を担当した。(『動物xジェンダー-マルチスピーシーズ物語の森へ』) ③講演として、ヴェールのダンスを発明したロイ・フラーと詩人マラルメの美学との関連を、ジェンダーや文字の観点から論じた「象形文字とセクシュアリティのあいだで-マラルメとロイ・フラーに見るフランス世紀転換期のダンス」などがある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外での研究調査も無事進めることができており、また本研究に関連する論文・著作も順調に発表できているように思われる。口頭での発表も十分に実施している。
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今後の研究の推進方策 |
神経を通じた知覚という観点から、反省的意識をもつ確固とした主体という枠組みを超えた、「非人間」の表象について考察を続ける中で、2023年度はそれを動物とジェンダーの観点から考察してきた。この調査を進めるうちに、別の非人間的存在とも言える、植物のテーマが前景化していった。こうした視角によって、中途段階にあったユイスマンスの作品分析も進み始めており、2024年度においては『仮泊En rade』における、人間が形作る秩序を揺り動かす植物と神経表象の関係の分析を主題にして、神経文学論の3作目としたい。 また研究分担者となっている「「現代の起点」としてのフランス象徴主義の総合的研究」(基盤研究(B)、2021-2025年度)では、象徴主義文学のジェンダー的側面の研究を担当しており、2024年度も秋に研究発表を予定している。こうした発表の機会を利用して、本研究「心の終焉」についても象徴主義や世紀末文学の視座から考察し、論文などの形で発表していくことを目指している。
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