研究課題/領域番号 |
22K00544
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 大阪保健医療大学 |
研究代表者 |
松井 理直 大阪保健医療大学, 保健医療学部, 教授 (00273714)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 無声化母音 / 破裂音 / 閉鎖音 / C/Dモデル / 日本語音声 / 有声音 / 無声音 / 時間特性 / C/D モデル / electropalatography / 発声喉頭制御 / 日本語話し言葉コーパス / 口腔内調音動態 / 喉頭制御 / 生理学的指標 / 実験音声学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,C/D モデルをはじめとする定量的音声理論に貢献するものであると共に,音声教育や構音障害のリハビリテーションにおける効率的な訓練法の基礎データを提供するという点で,社会的異議を持っている.近代医療ではEBM (根拠に基づく医療) の考え方が重要であり,言語聴覚士が行う様々な検査や訓練に科学的根拠を与えることを目指すことで,言語学と医療をつなぐ学際的研究になることを願っている.
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研究実績の概要 |
今年度は、「日本語話し言葉コーパス」に含まれるコアデータの情報を元に、母音無声化を伴う日本語のタ行モーラ・カ行モーラの時間特性について分析を行い、次の結論を得た。(a) 母音無声化を伴うモーラの持続時間長は通常の母音を持つモーラの持続時間長より有意に短い。(b) 破擦の閉鎖部を除き、モーラの内部構造においても母音無声化という条件下で持続時間が短くなる。(c) 母音無声化を起こしたモーラにおいて、口腔内摩擦音源区間に母音の性質を残す。 これらの結果から、日本語における母音無声化は音声生成過程における一種の弱化と見なしてよいだろう。ただし、単純な弱化であれば破擦の閉鎖部も母音無声化が起こる条件下で持続時間が短くなるはずであるが、実際には母音無声化の条件下でむしろ長い持続時間を持つ。これは、日本語の破擦音が破裂音の変形バージョンではなく、閉鎖+摩擦という独立した制御を受けており、無声という発声の条件が閉鎖に対し一定の影響を与えている反映と考えられる。また、破擦音が閉鎖+摩擦という組み合わせで成立しているのであれば、昨年度に得た日本語の [p], [t], [k] が破裂音ではなく閉鎖音であるという結果とも整合性を持つ。 このことは、日本語の無声化母音の生成にも影響を与える。無声化母音の音響的実態は、無声摩擦音と変わりがない。しかし、[p], [t], [k] が閉鎖音である限り、閉鎖子音の開放は後続する母音によってもたらされるものであるため、無声化母音は破裂音開放部の延長ではなく(すなわち無声化母音は子音情報によって生成されるものではなく)、文字通り母音の一種としての存在価値を持つ。このことは、定量的音声モデルである C/D モデルのような枠組みにおいて、通常の母音でなくても定常的な構音状態を保持できる分節音であれば、音節の基底状態を構成できる可能性のあることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、母音無声化の実時間特性を通じて、本研究の目的である喉頭制御と口腔内制御のタイミングについて一定の知見を得ることができた。また、前年度に得られた結論である日本語の[p], [t], [k] が破裂音ではなく閉鎖音であるという結論も支持された。本年度に得られたもう1つの知見は、通常の母音でなくても定常的な構音状態を保持できる分節音であれば、音節の基底状態を構成できる可能性のあるというものであった。例えば、通常の母音が構音状態を一定に保ちながら呼気の続く限り発音し続けることができるように、[s] や [h] のような無声摩擦音も呼気が続く限り構音状態を持続させて発音すること可能である。したがって、日本語において無声摩擦音が音節の基底構造を成しており、これが無声化母音としての価値を持っていたり、あるいは無声破擦音の成立に影響している可能性を考慮しなければならない。この可能性の妥当性については、日本語における無声摩擦音の動態特性によって検討することができるだろう。本年度に研究に引き続き、本研究に続き、無声摩擦音の潮音洞帯および時間特性についても検討を行っていく予定である。これによって、日本語の破擦音が破裂音の変異として捉えられるか、あるいは複合的な調音方法として捉えるべきであるかという問題についても一定の解決を見ることができるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、コーパスを用いた研究と共に、エレクトロパラトグラフィおよびエレクトログロトグラフィ・光学的グロトグラフィといった生理学的手法を用いた実験を行い、次の点について研究を行っていく予定である。(a)無声摩擦音が音節の基底構造を構成し得るか。(b) 日本語の破擦音は破裂の変異であるか、あるいは複合的な調音方法であるか。(c) 喉頭制御は声帯振動の有無が本質であるのか、あるいは声門制御における披裂軟骨の外転・内転が本質であるのか。 特に (c) について注目しているのが、鹿児島方言などに見られる促音の性質である。鹿児島方言の促音は、東京方言・大阪方言などと異なり、鼻音や接近音といった共鳴子音に先行する位置でも生じうる。特に興味深いのが鼻音の前で生じる促音で、撥音との対立を維持するために、こうした場合の促音では声門の特殊な制御が行われている可能性が高い。こうした方言における生理学的調音制御などの生理学的実験も含めしながら、2024年度の研究を遂行する 予定である。
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