研究課題/領域番号 |
22K00555
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
今泉 志奈子 愛媛大学, 法文学部, 教授 (90324839)
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研究分担者 |
藤縄 康弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (60253291)
米田 信子 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (90352955)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 事象の所有 / 経験主主語 / 非意図的使役主 / 不利益解釈 / 関与の概念 / 動詞の自他交替 / 適用形 / 統語論と意味論・語用論とのインターフェイス / 動詞の自他交替現象 / 経験者・関与者 / 事象(コト)の所有 / 日・英・ドイツ語比較対照 / バントゥ諸語の自他交替現象 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、動詞の自他交替現象を「関与」「経験」の視点から見直し、日本語、ドイツ語・英語等のゲルマン語系言語、スワヒリ語等のバントゥ諸語等の広範な記述研究の成果を理論的に整備することを目的とする。具体的には、他動詞の反使役化や脱使役化による自動詞派生を仮定する従来の研究では、関与者項・経験者項の具現化にはたらくメカニズムについて未整理の部分が残ることを指摘するとともに、自動詞文にも行為者や経験者が具現する(=他動詞と比べてヴァレンスが減らない)現象を言語横断的に検証することによって、述語の種類と項の具現化にかかる制約が言語間でどこまでパラメータ化されているかを明らかにしていく。
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研究実績の概要 |
プロジェクト2年目にあたり、日本語、英語、ドイツ語、スワヒリ語等のバントゥ諸語における自・他動詞の交替現象を軸に「関与・経験」の概念が重要に関わるデータの整備を進めるとともに、成果の一部を発表し、最終年度に向けての課題を明らかにすることができた。昨年度末に完成した代表者(今泉)、分担者2名(藤縄、米田)と研究協力者1名(高橋美穂)による共著論文「状態変化動詞と事象の所有―経験主の語彙表示をめぐって―」が10月に刊行された。今泉(日・英語、統括)は、心性的与格("ethical dative")に着目し、与格で挿入される経験主のふるまいを分析した論文を完成、査読を経て掲載が決定した(2025年度中に刊行予定)。また、日本語動詞「飛ばす」が非意図的使役主を取る現象に着目し、「飛ばす」の多義性に関する論考を進めている。藤縄(ドイツ語)は、時制の助動詞としての haben (have) と sein (be) について、自由与格の事例や過去時制との比較を通じて、統語論と意味論の接点で果たす役割を再検討した。その結果、これら助動詞が項構造やアスペクトになす貢献は従来考えられていたほど大きくないことが判明した。米田(バントゥ諸語)は、スワヒリ語の適用形構文を「事象の所有」の観点から再考した。スワヒリ語でもマテンゴ語でも動詞を適用形に派生させることでヴァレンスが1つ増えるのが基本だが、ヴァレンスが増えない場合もある。増えない場合についてはこれまで「例外的」な用法とされ十分に検討されてこなかったが、事象の所有の概念を用いることによって、ヴァレンスが増える場合と統一的に説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトは、前身となる2018年度基盤研究(C)「所有・所在概念の連続性とその言語化にはたらく諸条件に関する言語横断的比較対照研究(18K00538)」の成果として、「所有」概念の輪郭がある程度明確化されたことを出発点とし、「所有」を軸に「関与」「経験」概念の語彙表示レベルにおける位置づけを明らかにすることを目標としてスタートしたものである。2023年度は、初年度末に開催した「所有・関与・経験」研究報告会(於:愛媛大学)における、日・英・ドイツ語・バントゥー諸語における経験主の意味範囲とその具現化をめぐる活発な討論を起点に、「経験主概念の語彙表示」「非意図的使役主の具現化」を共通課題として、それぞれの担当言語における、より詳細な記述的データを整備するとともに、メンバーによる成果の一部の発表・論文化が順調に進んでいる。また、2023年10月にはメンバー全員による共著論文が刊行され、本プロジェクトの中間地点においてその成果を世に問うという意味でも特に有意義であった。なお、メンバーのスケジュール調整が難しくなったことから、年度末に予定していた研究報告会は、2024年6月開催とし、現在準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2024年度は、ひきつづきデータべースのさらなる充実と理論的整備をはかるとともに、口頭発表や論文による成果報告をすすめる。また、6月にメンバーによる研究報告会を開催し、進捗状況ならびに今後の課題を確認するとともに、年度末にはプロジェクト全体をふりかえる成果報告会を開催する。具体的には、各言語の自他交替現象のなかで、ヴァレンスが減らない(もしくは増える)現象をめぐる論文がまとまり、経験主についての新たな知見を提示できたことをひとつの契機とし、より広範囲の「使役主」「経験主」とその意図性が関与する現象についての調査・研究を進める。英語に関しては、シェイクスピア作品に見られる心性的与格("ethical dative")に関するデータ整備と経験主の文法的ふるまいに関する分析を継続し、日本語に関しては、動詞「飛ばす」の非意図的使役主を主語に取る現象に分析対象を広げる(今泉)。ドイツ語については、引き続き時制の助動詞としての haben (have) と sein (be) に取り組む。本来これら助動詞を用いた迂言的な完了形が意味するはずの《現在完了》読みが助動詞を用いない単純な過去形でも示され得る事実に着目し、それらの情報構造や事象構造への貢献を明らかにすることを目指す(藤縄)。バントゥ諸語に関しては、2023年度に行った分析をスワヒリ語以外のバントゥ諸語に拡大する。そのためにケニアとタンザニアでスワヒリ語以外のバントゥ諸語の適用形構文のデータを収集する。また8月にタンザニアで開催される国際バントゥ諸語学会において成果発表を行う(米田)。さらに、年度末には、研究協力者を含め、メンバー全員が揃って、プロジェクト全体の研究を公表する成果報告会を開催予定である。
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