研究実績の概要 |
本研究は、これまで真正面から捉えられることが少なかった英語における音韻のさまざまな揺れのうち特に強勢や音節に焦点を当て、その真の原因を探ろうとするものである。今年度は主に強勢に関する問題に取り組んだ。 英語の接尾辞が強勢付与に深く関わることは広く知られており、例えばFudge (1984)は-ableをApplicable, hOspitable(主強勢音節の母音を大文字で表す。)のように2つ前の音節に主強勢を与えるとしている。ところがこの2語にはapplIcable, hospItableという形もあり、またここに分類される接尾辞は-cide, -gonなど強母音を含む1音節であるものが多いが、-ableは2音節で強母音も含んでいない。-cide, -gonのような接尾辞の場合は直前 in(sEcti)(cide), (hExa)(gon)のような2音節フットが形成されると考えると主強勢の位置が説明されるが、-ableはこのような説明ができない。報告者は、Shakespeare作品に現れる語の当時の発音を再構したCrystal (2016)が -able で終わる語の多くをこの接尾辞の第1音節に副次強勢を持つとしていることに着目し、もともと-cide, -gonなどと同様に(Admi)(rable), (Appli)(cable),(hOspi)(table)のようなフット構造を有していたが、後に語末フットの副次強勢が消失したことによって(Appli)cable, (hOspi)tableのような例外的な構造が生じたと考えた。この考えは強勢が必ずしも共時的な分節素列に基づいて付与されるのではないことを示している。また、applIcable, hospItableのような形は、例外的な構造を回避するためにフットが再構成されて生じたと考えられる。
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