研究開始時の研究の概要 |
本研究は,言語資料の集積であるコーパスを活用し,「コーパス基盤的」立場〔特定の仮説について, その仮説が正しいかどうかをコーパスを用いて検証する〕及び,「コーパス駆動的」立場〔コーパスデータに触発されて, 通常の言語直観による内省のみでは発掘することの困難な新たな言語事実を発見し, 既成の理論にとらわれず一般化を試みる〕の両面から,先行研究はもとより適宜統計値などの客観的データを援用しながら,日本人英語学習者が誤りやすい現代英語のシノニム〔類義表現〕・語法に関して,母語話者が無意識のうちに行っている語句・表現の使い分けを分析・記述してゆくものである。
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研究実績の概要 |
(1) Swan (1980) Practical English Usage〔初版, §352〕では, just nowは過去形と用いるとする. また, Alexander (1994) Right Word Wrong Word〔p. 105〕も, *He('s) just now phoned.のような現在完了形におけるjust nowを認めない. 専門家向けのLeech (2004) Meaning and the English Verb〔第3版, p. 46〕も, 現在完了形や過去形と用いられるrecentlyやjustと対比しながら, just nowは過去形と用いるとする. 一方, Swan (2005)〔第3版, §307.3〕では, ユーザーからの指摘があったのか, just nowが文中位で現在完了形か過去形と用いられるという記述になった〔2016,第4版も同様). just now+現在完了形は, 最も検索が容易な文中位に限ってみても, Wordbanks Online〔0.06%〕, COCA〔0.29%〕などの大規模コーパスをはじめ, English-Corpora.org上の話し言葉を集めたCorpus of American Soap Opera〔0.11%〕, The TV Corpus〔0.09%〕, The Movie Corpus〔0.10%〕などでその割合は極めて低い. 現代英語の通時的な流れを観察できるCOHAで同様な条件で検索してみても, 文中位just nowの完了形の頻度に増加傾向はない. 生起位置に関わらず, COCAでjust nowを200例無作為抽出しても現在完了は5例で2.5%に過ぎない. 現在完了とjust nowの共起は現時点では((非標準))的なもの見てよいだろう. (2) recentlyは通例過去形と, 時に現在完了形と用いるが, 現在の(完了)状態を意識するときは現在形be動詞+recently+(過去分詞)形容詞が用いられることがある〔e.g. divorced, married, widowed, engaged, deceased; single, pregnant, etc.〕.古い時代の英語では, be+自動詞の過去分詞の形が完了形として用いられたことが想起される. divorcedに至っては, was [were] recently divorced>is [are] recently divorced>(got) divorced recentlyの順で頻度は低くなる.
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