研究課題/領域番号 |
22K00641
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02090:日本語教育関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小山 悟 九州大学, 留学生センター, 准教授 (50284576)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 日本語教育 / 批判的思考 / コンテントベース / デザイン実験 / 知識構成型ジグソー法 |
研究開始時の研究の概要 |
筆者はこれまで、その日学習した内容について1人静かに質問を考えさせることで学生たちの批判的思考を促す方法(質問実践)について研究してきたが、本研究はそれとは対照的に、知識構成型ジグソー法をベースとした教え合いと話し合いの活動を通じて学生たちの批判的思考を促す新たな教授法を開発するこが目標である。知識構成型ジグソー法は参加者全員に均等に役割と責任を持たせることで知識の統合と理解の深化に繋がる深い対話を引き起こそうとするものであるが、母語以外の言語で話さなければならない留学生の場合には様々な工夫が必要となる。本研究ではそれを授業デザインの基本原則(レシピ)としてまとめることが最終目標である。
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研究実績の概要 |
本研究は、コンテントベースの日本語授業(CBI)に「知識構成型ジグソー法」(三宅 2011)をベースにした「教え合い」と「話し合い」の活動を導入することで、日本語学習者(主として大学生)の批判的思考を促す新たな教授法を開発しようとするものである。本研究費の交付前に行った予備調査では、小山(2019)の研究知見に基づき、それまで1度きりで終わらせていたジグソー学習を視点を変えて3度繰り返す授業デザインへと変更し、各回の合間に揺さぶり発問を行うことで、学生たちの思考を深めさせようと試みた。しかし、調査終了後に録画データの分析を行ったところ、資料の説明と理解に手間取り、課題の答えを考える話し合いはほとんど行われていないことが明らかになった。そのため、初年度(2022年度)の調査では、これまで授業内で行っていた資料の読解を予習として行わせ、それによって浮いた時間を「何をどう説明するか」の相談と、説明の予行練習に費やせるようにした。結果、ジグソー活動では、前年度のような「話し合いをすることなく、時間切れ終了」となるような事態は生じず、課題の答えを考える話し合いも絶え間なく、活発に行われるようになった。その一方で、各回の「まとめ」の記述には学生独自の考えや解釈を示したものまでは見られず、「思考の深さ」という点で課題が明らかになった。そこで2年目(2023年度)の調査では、①前日の学習内容を思い起こさせる小テスト形式の復習の時間を設ける、②まとめの記述を宿題にし、何をどう考えるかの指示もより具体的にする、③翌日の授業で全員の記述を名前を伏せて開示・共有するなどの工夫を行ったが、学生独自の考えや解釈を含んだ記述は未だ見られず、さらなる改良が必要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究課題は、①学生たちが自分の担当する資料について、聞き手の理解状況を確認するなどしながら的確に説明できるようになるにはどうすればよいのか(教え合い)、②資料から得た情報を適宜参照しつつ、他者との話し合いを通して独自の答えを作り出せるようにするのはどうすればよいか(話し合い)の2点である。前者については、「研究実績の概要」でも述べたように、2022年度に行った調査では、資料の読解を予習として行わせることで話し合いは活発に行われるようになり、かつ、質問紙調査の結果から学生の思考を一定程度刺激できていたことが確認できた。一方、後者については、各回の「まとめ」の記述には学生独自の考えや解釈を示したものまでは見られず、「思考の深さ」という点でまだ課題が残っている。ただ、これについてもこの後の「今後の研究の推進方策」で述べるように、改善の鍵は見つけていることから「概ね順調に進行している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べた2つの課題のうち、未解決となっている「資料から得た情報を適宜参照しつつ、他者との話し合いを通して独自の答えを作り出せるようにするのはどうすればよいか」が今年度の課題である。道田(2005)は、批判的に思考すること自体は決して難しいものではないが、その分野に関する知識や経験があまりない場合や、いつもやっていることで「こうすれば 大抵うまくいく」と思っている場合に難しくなることを指摘しており、本調査の結果も後者に起因すると考えられる。すなわち、「国民食化の条件・法則」という授業のテーマが身近で親しみやすいがゆえに、常識からなかなか抜け出せないのではないかということである。加えて、大学受験を暗記主義と結果主義で乗り切ってきた学生たちの中には「答えは資料の中に書かれているもの」と思い込んでいる者が少なくなく、話し合いも互いが読んだ資料の内容を簡潔にまとめただけで終わらせてしまう(答えが出たと勘違いしてしまう)ことが度々あった。過去2年は学生たちの思考を揺さぶる問いを投げかけることで思考を深めさせようと工夫してきたが、それだけでは不十分で、何をどう考えるのかを具体的に指導するところから始める必要があることが、学期終了後の学生の振り返りコメントなどから伺えた。よって、「資料をいくら読み返してもそこに答えはなく、答えは資料で学んだ知識を活かしつつ、各自(または各グループ)で独自に作り上げるものである」ということを、問いを投げかけるだけでなく、どのように考えるかを具体的に教えながら指導し、その成果を検証することが今年度の課題である。
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