研究課題/領域番号 |
22K00653
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02090:日本語教育関連
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
塩入 すみ 熊本学園大学, 外国語学部, 教授 (60411039)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 外国人技能実習生 / 大学生 / 監理団体 / 共生 / 日本語教員養成課程 / 国際交流 / 異文化経験 / 受入れ事業主 / 支援制度 / 外国人散在地域 / 農業経営者 |
研究開始時の研究の概要 |
外国人散在地域における課題は、外国人技能実習生の言語環境の実態把握と、地域の実情に即した教育実践である。本研究は熊本県内の実習生監理団体等の協力を得て、実習生の言語環境の調査、その改善のための制度の計画と実行、評価と改善を行う。県内の実習生及び受入れ事業主双方のニーズを量的・質的に洗い出すとともに、熊本県全域を対象とした大学生と実習生との交流システムを構築することを目的とする。これにより実習生への支援だけでなく、大学生にとっての異文化体験、地域文化の発見といった効果も期待され、従来の日本語教室による支援とは異なる新たな共生のあり方を提言する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は以下の3点についてそれぞれ発展的な目的を設定し計画を遂行した。①実態のニーズの調査については実習生受入れ事業主、特に農業経営者へのインタビューを進め、これまでのデータを用いて異文化間教育学会において他の異文化間教育研究者との議論を深めた。令和4年度同学会の「象徴的移動」をテーマとした特定課題研究において、教育学や社会学などの領域の複数の異文化間教育研究者と議論を深め、一年にわたって頻繁な議論を行った。その成果は同学会で2回の公開研究発表と1回の全国大会発表、学会誌への論文掲載として実現した。成果の発表により異文化間教育研究や移動研究に係る研究者から貴重な意見や助言を得ることができ、今後の研究手法や方向性について影響を受けた。②熊本県内の実習生と地域の大学生との交流システムの構築については、昨年のJICA九州の協力を足掛かりに今年度は実習生監理団体くまかい協同組合との協力を継続し新たな交流プランを計画・実施した。定期的な実習生と日本語教員養成課程の大学生との交流活動のほか、くまかい協同組合での日本語教育実習の指導などを計画し、令和6年度実施の計画を作成し準備した。また実習生と日本人大学生の地域での交流拠点として市内コワーキングスペースにおいて料理やプレゼンなどの交流活動を実施し交流拠点の確立と地域社会への情報発信を行った。地域の交流拠点の確立に当たっては地域の国際交流関係者とのネットワークが形成され、実習生だけでなく地域の定住外国人(台湾企業関係者など)すべての交流拠点となりつつあり、当初の予想以上の成果と波及効果を生んでいる。今後人的ネットワークのシステムの構築は、大学生を含んだ地域全体で行う可能性も示唆された。③構築した交流システムの評価についてはJICAの委託事業者(株)アイシーネットの専門家、異文化間教育学会の社会学などの専門家からも評価と助言を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的①実態とニーズの把握に関しては、昨年度より行っている農業経営者へのインタビューのデータ分析に関して、異文化間教育学会特定課題のメンバーとして異文化間教育の諸専門家より助言を得て、複数の成果発表と学会誌への論文掲載が実現した。目的②熊本県内実習生大学生との交流システム構築については、昨年度までのJICA九州による協力から一歩進んで、実習生監理団体と大学日本語教員養成課程とが直接交流活動を共同で計画・実施することになり、昨年度からの移行は順調に進んだ。特に監理団体所属の日本語教員には日本語教員養成課程の学生への実践的指導なども受けることができ、次年度の新たな交流の可能性に広げることができた。大学生にとっても地域の実践的な職場の見学や実際の教師の指導を受ける経験は意義が大きく学生からの評価も非常に高かった。また、当該監理団体には渡日前の東南アジアでの送り出し機関の情報など、情報面でも大いに協力を得ており、活動全体はおおむね順調に進展している。ただし、コロナ後の影響はまだ続いており、実習生の入国時期がいまだに流動的なため交流計画を常にフレキシブルに対応させる必要はあるものの、当該監理団体関係者の協力により順調に進んでいる。また、地域の国際交流の拠点を据える試みとして市内コワーキングスペースにおいて複数回実習生と大学生の交流活動を行い、地域社会へも交流活動の情報を発信することができた。これにより熊本市内における新たな国際交流の拠点としてのスペースが徐々に定着しており、同時に同じスペースで展開している地域定住外国人との交流活動とともに、実習生を含めた地域外国人との交流拠点が確立されつつあり、それに対して大学、メディア、地域国際交流団体などからの支援も制度化され始めた。③の構築した交流システムへの評価は昨年度からJICA委託事業者の国際協力の専門家等による助言を継続的に得ている。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的別に今後の研究の推進方策を述べる。まず、目的①実態とニーズの把握について、農業経営者から他の業種の実習生受入れ事業主への調査も進める必要がある。事業主へのインタビュー調査は令和4年度の異文化間教育学会における成果の公表をさらに発展させ、他の学会での成果発表を行うと共に、これまでの一連の調査と活動をまとめた研究者による著作の準備を進めている。また、農業経営者の調査自体は大学院でのフィールドワークとして今後も継続的に進めていく予定である。次に、目的②熊本県内の実習生と地域の大学生との交流システム構築については、今後もJICA関係団体、桜十字病院、実習生監理団体など関係諸団体との協力を継続、発展させ、地域における交流活動の拠点と支援制度を確立・定着させていきたい。一方で、現在熊本県において地域外国人との交流・支援の制度化は、台湾TSMC進出による急速な共生の進むなかで喫緊の課題となっており、本研究の成果を活かし、熊本地域の国際交流拠点の確立と支援の制度化を進めたいと考えている。上述のコワーキングスペースでは、メディアなどの協力を得て定期的な市民の国際交流勉強会を開始し参加者も増加している。また、大学教育の面からは日本語教員養成課程におけるカリキュラム開発・教師養成、大学生のキャリア教育、グローバル人材育成といった教育的課題について発展させる予定である。大学生にとって実習生との交流活動による異文化体験は職業選択や卒業後のキャリアなど個人のライフコースにどう影響するかといった研究は「受入れ」の研究の一環として移動研究の分野において今後重視されることが予測される。最後に、目標③実践の評価と改善については、最終年度にはこれまで助言と評価を得ていた専門家に最終的な評価を依頼し、専門的な観点からの助言と評価を得る予定であるが、以後の調査と実践においても協力と助言を得ていきたい。
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