研究課題/領域番号 |
22K00752
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02100:外国語教育関連
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (40368270)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 話し言葉文法 / 統語融合 / 非標準用法 / インタラクション / 文法指導 / 発話の共同構築 / 共同発話 / やりとり / 言語活動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、英語会話での自然なやりとり能力育成のために、「発話の共同構築」という観点を指導法や言語活動に取り入れる方法を模索することである。 第一に、相手の発話を繰り返したり、言い換えたり、付け加えたりするなど、相手と共同で発話を構築していると見られる言語現象について分析・調査する。調査には話し言葉コーパスや映画・テレビドラマを用いる。 第二に、上記の言語研究結果を英語教育に応用し、発話の共同構築という視点を取り込んだ指導法や言語活動、タスクを考案する。相手の発話を意識させ、それに基づいた発話産出を促すような指導法や言語活動を考案し、学習者の協調的やりとり能力の向上に寄与したい。
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研究実績の概要 |
当該年度も、英語会話において話者同士がどのように発話を共同構築しているかということを明らかにするために話し言葉文法研究を進め、英語教育への応用に向けた試みも行った。 研究成果の1つとして、話し言葉に見られる「統語融合」という逸脱的構文に着目した論文を公表した。That's what you need is satisfaction.のような発話は、発話の始まりはthat's+wh節が予測されるにも関わらず、それとは異なるwh節+is ...という形式で終了している。このような統語形式の融合は書き言葉に基づいた既存の文法的枠組では非標準用法と見なされるが、[that’s what ... is]というフレーズは、話し言葉で高い頻度と安定性を持つ。つまり、発話途中で構造が乱れた運用上のエラーというよりも、話し言葉文法の一部として定着していると言える。本論文では、この形式が話し言葉で創発して固定化・慣習化する背景に、談話の方向性の調整や対人関係の配慮や交渉、ターン交替のコントロールなど話し言葉特有の談話的・語用論的要因があることを明らかにした。 さらに、立命館大学・国際言語文化研究所シンポジウムで、話し言葉文法研究を包括的にとらえる枠組の構築を試み、話し言葉文法の記述がどのように英語教育に貢献し得るかについて話した。規範的文法で認められていなかった非標準形式が、話し言葉で容認性を獲得していくことがあること、話し言葉で容認される程度には違いがあり、同じ形式でも変則性の認識や容認可能性は一律ではないこと、話し言葉に見られる非標準形式が分布や頻度の点において安定性があれば、話し言葉では「標準用法」と言えること、などを提示した。関西外国語大学・英語教員のための夏期リフレッシャーコースでは、コミュニケーションに寄与する文法の考え方やインタラクションを意識した文法指導方法の提案を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、英語会話において話者同士がどのように発話を共同構築しているか、会話データを用いて調査・分析し、その結果を英語教育に応用する方法を模索することである。英語の話し言葉文法研究と英語教育面の研究を二本柱に置いており、現在までの研究では、特に前者の話し言葉文法記述を進めることができた。 発話の共同構築現象としては、一般的に、相手の発話の言い換えや先取り、付け加え、さらには相づちや付加疑問などが考えられる。当該年度に調査した「統語融合」という逸脱的構文[that's what ... is]は、話し手に関わる要因から引き起こされるものなので、一見、話者同士の発話の共同構築現象とは関係が薄いと思われる。しかし、会話データ分析によって、相手とのやりとりの中でこの構造が誘引されていると推測できる例が見られ、会話に見られるこのような非標準用法と共同構築という概念との関連性が示唆された。 例えば、[that's what ... is]のthatは照応機能というよりむしろ、相手の発話とのつながりを示しながら、ターンの競合が起こっている中でターン獲得を図る相互行為的機能があることがわかった。さらに、that's what ... が先行談話を指すのではなく、後の談話を予測する機能を持つことについて話者間で認識を共有しながら、動的な相互行為の中でこの構造が立ち現れている例も見てとれた。 この研究によって、会話の共同構築という概念を大きく捉えることで話し言葉文法の射程が広がり、より統合的な話し言葉文法記述が可能になり得るという成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、話し言葉文法の包括的記述にさらに取り組みながら、英語教育への応用という側面からの研究も積極的に行いたいと考えている。特に、会話の共同構築という観点から、授業でのインタラクション指導方法や教材の開発を行うための理論的基盤を構築したい。 教材のモデル会話に発話の共同構築現象がどの程度、含まれているか、さらに、やりとりの活動やタスクが話者同士の発話の言語的つながりを想定しているかいないか、という点についての調査は有効だろう。やりとりの活動は、返答の内容や構造を想定しない一問一答形式か、内容や構造の縛りが全くない自由会話かのどちらかになりやすい。どちらの形式も、相手の話したことを踏襲して自分の発話を組み立てさせるような問題設定とはなっていない。やりとりの活動にどのような統制を組み込むかが課題である。 特に、本研究構想時に得ていた「発話は共同で構築されていることを意識化させる『気づき』や観察の活動」と「相手の発話を踏襲したり引き込んだりする言語方略を実践して習得するための活動」という2つの着眼点を利用するつもりである。最終的には、それまでに習得した語彙や文法を、会話でのやりとりという新たな側面から捉え直す機会を提供し、相手の言葉を繰り返すだけでも十分なやりとりになり得ることに気づかせて、英語での会話参加者として自信を持たせられるような指導法や活動を考案したいと考えている。
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