研究課題/領域番号 |
22K00849
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 沖縄大学 |
研究代表者 |
前田 舟子 沖縄大学, 経法商学部, 准教授 (70802859)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 清代 / 琉球 / 満文档案 / 表奏文 / 翻訳 / 満文 / 档案 / 外交 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、『清代琉球国王表奏文書選録』所収の152件の満文表奏文を日本語訳し、中国から海外へ流出した琉球関係档案の追跡を行う。その日本語訳した琉球の満文档案と『歴代宝案』の漢文文書とを比較し、文脈や視点にどれほどの差異があるのかを考察する。また、満文档案を作成した清朝側の意図を探り、清朝の対琉球外交における見解を明らかにする。そして、漢文と満文のそれぞれが表出する中琉関係史を捉え、琉球史研究における満文档案の重要性を位置づける。
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研究実績の概要 |
本研究は、中国第一歴史档案館が所蔵する琉球関係満文档案の翻訳を行うもので、初年度は『清代琉球国王表奏文書選録』の満文のローマ字転写と日本語訳の校正作業を行った。本研究の開始以前にはすでに、中国第一歴史档案館研究員である郭美蘭氏の協力を得て、『清代琉球国王表奏文書選録』の満文のローマ字転写と中国語訳は一通り完成させていたため、それらを参考にして、沖縄県教育庁文化財課史料編集班の主導の下で日本語訳を完成させるべく作業を行った。 今年度まではコロナ禍の影響もあり、史料編集班および作業部会の先生方と対面で検討することは一度も叶わなかったが、どうにかオンラインを繋いで、全152件の満文档案のうち16件までの文書の校正を終了させることができた。とはいえ、残りの期間ですべての校正作業を終えることは現時点では難しいため、2年目以降は作業効率を上げるべく、編集方針を協議しながら全訳完成を目指していきたいと考えている。 翻訳作業を進めるにあたり、特に漢文でも難解とされる表文に多く引用されている儒教古典の用語や概念を解読するため、儒教の古典テキストである四書五経の満洲語訳を購入して読み込んだり、中国や台湾で刊行されている満文档案に関する先行研究を入手して理解を深めたりしている。また、琉球関係ではないが、清代に中国皇帝が朱筆で直接書き入れた指示や意見(朱批)が、「満文朱批奏折」として中国第一歴史档案館から中国語訳が刊行されているため、それらも参考史料として活用した。 また他に、公益財団法人東洋文庫にて清代の琉球に関する絵図を閲覧した。『長崎版画集』に収録されている「大清人朝鮮人琉球人阿蘭陀人魯西亜人」には、琉球人を描いた人物画があり、清代(江戸時代)の琉球人の服装や髪型が実際の琉球人のものとどれほどの異同があるのか検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、『清代琉球国王表奏文書選録』の翻訳作業とその校正を行うにあたり、全体の統一事項を検討することに時間を要した。というのも、琉球の表奏文は琉球役人が認めた漢文の文書であり、清朝皇帝に呈出されたあとで内閣によって満文に翻訳され、満漢合璧の形に整えられたものだからである。日本語訳の際に、原文の漢文訳(『歴代宝案』の文書)と満文訳とで異なるニュアンスをどう表現するのかが議論となった。また、四書五経などの儒教古典を引用して作成される表文において、古代の漢語表現を満洲語に翻訳した際、漢語の語義がかみ砕かれて表現されることもあり、日本語訳でどこまで双方の語意を表現できるかが課題となった。このように、細かい訳出問題が多く浮上したが、1年間を通して議論してきたことで、ようやく全体の翻訳方針が固まり、作業も円滑に進むようになった。とはいえ、現時点でまだ16件までしか校正していないため、2年目には全体の半分にあたる80件くらいまでは完成させたいと考えている。 また、翻訳に際して特に時間を要するのは註釈である。これまで、原文となる琉球の『歴代宝案』に収録されている漢文には、1989年から沖縄県が読みくだし文と註釈を施す作業を行ってきた。2022年に全15冊の訳注本が出揃ったが、そこには難解な漢語を講釈する訳注が豊富に施されているため、それらを参照しながら満洲語の語意説明としての註釈を整える作業を行った。ただし、漢語にはない満洲語独自の用語も多く、満洲人の軍事・社会組織の概念や固有名詞をそのまま琉球の組織に当てはめると、いくつかの齟齬が出てしまうこともあった。そうした、直訳では表現できない用語をどこまで意訳するのか、といった問題についても議論を重ねてきた。その結果、ようやくある程度の凡例が固まったので、次年度以降は今よりも作業が進むと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降は、目標として全体のおよそ半分もしくは三分の二に当たる第17号から第100号くらいまでは翻訳したいと考えている。初年度で長い時間をかけて翻訳作業の方針を固めてきたこともあり、翻訳作業自体は円滑に進むと考えているが、問題は訳注を施す作業である。そのためにも、琉球とは直接の関係はなくても、清代の満文档案を日本語訳または中国語訳している先行研究を参考にしながら内容を検討していきたいと考えている。 また、今年度からは在外調査も比較的容易になると予想されるので、可能であれば積極的に中国や台湾に赴いて実物の満文档案を閲覧したり、関連する先行研究を収集したりしながら満文档案に対する理解を深めていきたいと考えている。また、翻訳を行う中で、清朝側が琉球の漢文文書の内容をどのように理解し、どのように捉えていたのかという清朝目線の琉球王国像も垣間見られるため、それを論文にまとめて発表したいと考えている。 ただし、今年度の翻訳における課題点として、全体の日本語調整が挙げられる。最終的には沖縄県教育庁文化財課より刊行したいと考えているため、より現代語に近い日本語訳を心がける必要がある。そうした調整も今年度は検討を重ねながら仕上げていきたいと考えている。
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