研究課題/領域番号 |
22K00858
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷川 穣 京都大学, 文学研究科, 教授 (10362401)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 日曜学校 / 教化 / 錬成 / 児童 / 仏教 / 近代日本 / 宗教 / 教育 / 教育史 / 宗教史 / LFMI |
研究開始時の研究の概要 |
1930年代の訪日アメリカ人が残した、宗教教育および伝道・教育事業に関する記録群を分析し、その重要な歴史的意義を初めて解明する。具体的には、彼らが行った牧師・宣教師・仏教僧侶らへの宗教教育・日曜学校に関するインタビュー記録や、記録をまとめたレポート原稿、最終報告書に至る過程を実証的に考察し、報告書に対する日本人教育者・宗教者の反応、キリスト教・仏教の日曜学校運動の展開と変容を分析する。そこから日本の教育と宗教との接近が、総力戦を支える基盤形成に及んだ過程を、構造的に明らかにする。近代日本の教育と宗教の接近/乖離という波動から、現代世界の両者の関係がもつ問題を捉える視座を得ようという試みである。
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研究実績の概要 |
2023年度は、1930年代の日本における宗教と教育の関係史を考えるケーススタディとして、大阪府三島郡三箇牧村(現高槻市)の真宗本願寺派・正徳寺において開かれた仏教日曜学校を主たる検討対象として同寺所蔵文書を精査し、1935~36年に記された日誌を解読・考察を行った。その結果、大別して4つの視点を見出した。 第1に、設置に至る地域性。三島郡には本願寺派寺院に限っても1930年代半ばまでに20ほどの仏教日曜学校が存在し、先行する日曜学校からの影響を受けた可能性があること、そして当該日曜学校は同郡で盛んだった小作争議を起点とする農村部の地主・小作関係の融和を一つの目的として開設されたこと、を解明した。第2に、地域の小学校との関係。一般的に1935年11月文部次官通牒「宗教的情操の涵養に関する留意事項」が学校における宗教教育の実質上の解禁と見なされるが、それまでの宗教と教育の接点ともいうべき日曜学校の教師には、担ってきた宗教教化の役割が薄れるため、あまり歓迎されなかったという可能性が浮上した。第3に、日曜学校教師が抱えた具体的問題。テキストなど教化の内容ではなく、むしろ児童たちの出席状況や行儀の悪さが何より大きな課題として日誌に常々記された。教師は児童の内面へ立ち入る教化の不可能性を思い知り、国民体操など身体の斉一・統御を軸とした「錬成」へと至る。それは生真面目に「教え、変えられる」と強く期待し取り組んだ結果でもあり、総力戦体制の教育・教化面での基盤形成の過程そのものであるとの見解を得た。そして第4、日曜学校に通った児童の置かれた時代状況。第3に述べた期待や、日曜学校児童自身が本願寺派に地域の教化活動の末端として期待される存在でもあったことを解明した。 以上、仏教者による児童教化の事例と展望すべき論点を教師の感情にも立ち入りつつ考察し、学術論文にまとめ公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」にも記したように、2023年度は仏教日曜学校の事例研究を集中して行い、「それは「錬成」への道だったのか?――1930年代仏教日曜学校についての一考察――」(『京都大学文学部研究紀要』63号、2024年2月)の公表へと、想定以上に早く結実した。しかしながら他方で、予定していたアメリカ合衆国での史料調査は、諸事情により行うことができなかった。その点、キリスト教と教育の関係史を考察する目的上では若干停滞していると言わざるを得ない。以上、予想外の進展と停滞という両面を総合すれば、おおむね進展しているとの評価になろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後推進していくべき事柄として、やはりアメリカ合衆国での史料調査と、その成果を踏まえた研究のまとめが必要であろう。具体的には、1930年代日本を視察したプロテスタント平信徒調査団の団員で宗教教育の調査を担当したマグルーダー・サドラーの関係文書(彼が後に設立した大学が所蔵する個人文書)の調査に加え、不足していたジェンダーの観点を加えるべく、女性伝道の調査担当であったマーガレット・フォーサイスの残した調査団文書の調査(コロンビア大学バーク神学図書館)も行う。そして国内では、調査団の訪問した教会をいくつか選定・下調べを行った上で調査する。これらと並行して、すでに撮影した調査団文書の読解・分析結果をまとめて1930年代前半の日本での調査行程の全容を明らかにする。その作業を踏まえ、新規調査史料との関連性をおおむね見定め、調査団が日本の宗教と教育の関係に与えた歴史的影響とその意義について、一定の結論を出す。
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