研究課題/領域番号 |
22K00873
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
大隅 清陽 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (80252378)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 律令制 / 公民制 / 大化改新 / 大宝律令 |
研究開始時の研究の概要 |
日本律令制の形成が、大化改新を起点とし、近江令、飛鳥浄御原令を経て大宝律令に結実するとの坂本太郎以来の通説は、近江令否定論、改新否定論による批判をうけてきたが、近年吉川真司は、飛鳥石神遺跡出土木簡の五十戸記載を根拠に、二つの否定論を再否定して、律令制的な公民制の成立を大化期に求めている。研究代表者は、北宋天聖令の分析などを通じ、「プレ律令制」論や「大宝令画期説」などの自説を展開して吉川説を批判してきたが、本研究はそれをさらに発展させ、部民制から公民制への転換が、部民支配ミヤケがコホリノミヤケ(評・郡家)に統合され、いわゆる後期評が成立する7世紀末に求められることを示そうとするものである。
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研究実績の概要 |
研究開始年度にあたる令和4年度には、本研究課題の主たるテーマである「律令制」と「公民制」に関わる内容の国際学会での発表1件に加え、東アジアにおける「律令制」の位相についても論じる啓発的論文1点、大宝律令の施行後間もなく成立した『古事記』『日本書紀』に記された伝承から、律令国家による全国支配が成立する前提を考察した共著書1点の成果を得た。 慶北大学校人文学術院・HK+(プラス)事業団開催の第5回国際学術大会「木簡に反映された古代東アジアの法制と行政制度」(開催地:大韓民国済州島)にオンライン参加して行った指定討論「木簡からみた古代日本の法制と行政制度-8世紀後半の荷札木簡を中心に-」は、桑田訓也氏による同題の報告に対する指定討論者として発表したもので、7世紀後半から8世紀にかけての日本の荷札木簡について、貢進物に荷札を付ける法的な根拠、荷札の記載と地方行政組織の関係の変遷、8世紀後半の荷札木簡と専当国郡司制との関係という観点から、木簡という一次資料と律令などに規定された法制との関係について考察した。 また『教育実践学研究(山梨大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要)』28号所載の論文「歴史研究と教育実践のあいだ-教員免許状更新講習での実践例から-」では、律令国家の成立と一体のものとして生まれた「日本」の国号を通じて、東アジアにおける日本律令制の位相について考察し、吉村武彦・川尻秋生・松木邦彦編『シリーズ地域の古代日本 東国と信越』(KADOKAWA)所収の論文「ヤマトタケル東征伝承とアヅマ」では、記紀所収の伝承を律令制期を含む地域史の文脈で検討することにより、律令制的な全国支配の前史を検討し、それが律令制下の記紀にまとめられる経緯を考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績のうち、「律令制」と「公民制」という本研究課題に直接関わるのは、慶北大学校人文学術院・HK+(プラス)事業団開催の第5回国際学術大会「木簡に反映された古代東アジアの法制と行政制度」での指定討論「木簡からみた古代日本の法制と行政制度-8世紀後半の荷札木簡を中心に-」であり、7世紀後半から8世紀にかけての日本の荷札木簡について、貢進物に荷札を付ける法的な根拠、荷札の記載と地方行政組織の関係の変遷、8世紀後半の荷札木簡と専当国郡司制との関係という観点から、木簡という一次資料と律令などに規定された法制との関係について考察している。 特に7世紀後半における公民制成立に関わる論点としては、奈良県石神遺跡出土の乙丑年(665)の木簡について、近江令の制定や庚午年籍の勘造以前に、大宝令制下の里と同名の五十戸が見えることから、律令制的な公民支配の成立を大化期まで遡らせる吉川真司氏や市大樹氏らの見解に疑問を呈した。北宋天聖令にも依拠しつつ唐日の賦役令の調庸墨書銘に関する規定を比較しつつ、古代日本においては、地方行政制度の整備は戸籍制度の成立と密接に関連するものの、両者は必ずしも一体ではなく、互いに独立し時間差をもって形成されたことに注意する必要があり、8世紀の荷札木簡と乙丑年の木簡には、何らかの段階差があったと考えるべきであると主張している。 また論文「歴史研究と教育実践のあいだ」と、共著書『シリーズ地域の古代日本 東国と信越』所収の論文「ヤマトタケル東征伝承とアヅマ」でも、東アジアにおける日本律令制の位相やその成立意義について論じ、今後の研究の基礎を固めることができた。 以上の理由から、全体として、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
唐代史研究会事務局より、今年度夏に刊行予定の『唐代史研究』26号に浜田久美子著『日本古代の外交と礼制』(吉川弘文館、2022年)の書評を依頼されている。同書は研究代表者が旧著『律令官制と礼秩序の研究』(吉川弘文館、2011年)で律令制を礼制との二元構造として捉えたことを批判的に継承し、外交における礼秩序のありかたを律令に規定されない外部をも含めて検討しようとするものである。公民制を主題とする本研究課題とは研究視角が異なるが、書評を通じて、改めて日本律令制の特質についての考察を深めたい。 また、昨年度国際研究大会での指定討論を依頼された慶北大学校人文学術院・HK+(プラス)事業団からは、国外の研究者を招聘して行う専門家招聘講演を依頼され、「木簡からみた東アジアの精神世界」という年度のテーマにそった講演を12月に行う予定である。具体的な内容はこれから検討するが、東アジアの律令制研究をめぐる諸問題を、本研究課題のテーマである公民制・民衆支配や、日本・韓国の古代木簡の比較も含めて論ずることにしたいと考えている。 律令制的な公民支配の成立を、研究代表者の提唱する「プレ律令制」の概念、特に「人の支配」と「土地の支配」を媒介する代制を「稲の支配」に注目して検討し、令制前のミヤケ制との連続面と不連続面から考察するという課題についても、上記の招聘講演に加えて、代制の事例を含む資財帳などの寺領関係資料や、近江国安評家とみられる西河原遺跡、武蔵国橘樹郡家である橘樹官衙遺跡群など、評制段階に遡る地方官衙遺跡の検討をすることで、部民支配ミヤケがコホリノミヤケとしての評・郡家に統合されてゆく過程を跡付けることを試みたい。
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