研究課題/領域番号 |
22K00905
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
原田 正俊 関西大学, 文学部, 教授 (40278883)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 中世後期仏教 / 女性と仏教 / 尼五山 / 景愛寺 / 都市景観 / 無外如大 / 寺院法 / 法会 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の中世仏教史研究は中世前期の研究が中心に行われてきたが、本研究では中世後期仏教の特色を明らかにすることを目的とする。室町時代には幕府の保護のもと五山禅宗が全国的に展開するが、この過程で寺院組織、法会・儀式などの新たな体系が広がった。禅宗の在り方は諸宗にも影響を及ぼしていき、この一連の動向を解明していく。浄土系諸宗・法華宗も独自の展開をみせていき、諸宗間の法会・思想の影響関係を解明していく。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、単著『中世仏教の再編と禅宗』(法藏館)を刊行した。本書においては、中世仏教が14世紀以降どのような形で再編されていくかを論じたもので、既発表の論文をもとにしながら本科研の課題設定のもと整理してまとめたものである。これによって中世後期仏教の体制は、禅宗の台頭によって顕密諸宗をあわせて再編がなされるという構図を明確にすることができた。 仏教法会・儀式の面でも禅宗の影響力は大きく、大陸からの清規に基づいた葬儀・施餓鬼などが社会に広がり、やがて天皇の葬儀や足利将軍家の葬儀も禅宗の清規にもとづいた儀礼が行われることを示した。足利将軍家をはじめその近親者の葬儀、さらには追善も禅宗様で行われることになり、地方の守護大名、国人層にも禅宗の法会は受容されていった。 禅僧がいとなむ法会が増大することによって、禅僧・禅寺の数も増大していった。洛中洛外の都市景観についても、洛西嵯峨に天龍寺が造営されたことは歴史的にも大きな転換点であり、嵯峨に元々あった顕密寺院を圧倒する形で大規模な禅寺・塔頭・寺庵が建ち並び土倉・酒屋など金融業者も集住して新たな都市を形成した。京都は、平安時代以来、延暦寺と天台三門跡の影響が大きかったが、禅宗勢力が割り込んできたことは中世都市京都において大きな画期であった。 また、女性への教化についても禅宗の影響は大きかった。京都には現在も尼門跡として中世以来の伝統を伝える禅宗系の寺院がある。そのなかでも尼五山第一位として有名な景愛寺関係の史料調査を行い、収集して分析を加えた。こうした尼寺へは公家の娘が入寺していき、周辺には多数の尼寺が存在したことがわかり、こうした尼寺と尼五山第一位景愛寺の構造的な関係性を考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中世後期仏教の特色を法会・都市景観などの面からその変容過程を明らかにすることができた。単著を刊行することによってその到達点を示し、研究をより広く社会に知ってもらえるよう努力した。個別論文執筆時には不足していた点も補足することもでき、全体を見渡した形で不足する論点にも気付くことができた。これらは、今後の課題として個別論文をまとめることによって埋めていく予定である。 中世には多数の女性宗教者が活動するが、顕密八宗では多くの女性はあくまで受け身の立場に置かれ、後家尼に代表されるように、人生のなかで晩年を過ごす身の処し方であった。いわば、信者として立場に留まっていた。しかし、13世紀半ば以降、律宗の尼僧は増加していく傾向があり、これについては既に研究がある。同時に禅宗の尼僧も増加していくのであり、この実態解明は中世後期仏教を考える上でも不可欠の論点である。尼僧たちがどういった寺院組織のもと宗教活動をおこなっていたのかは重要な点であり、この一端を伝法意識や尼僧の再生産・修学の観点から実態解明を進めた。彼女たちが禅宗の法系に連なることで、宗教者としての自覚を持ち、禅宗の清規にもとづいた法会を営み、頂相や法衣など宗教的な象徴物を作成、保持していたことがわかった。自立した宗教者としての尼僧の成長を解明することができた。 一方、洛中洛外に点在する尼寺は、室町幕府・朝廷のもとで政策的に作られた尼五山を中心に置くように制度化された。尼僧も男僧の五山と同様に尼五山に出世する体制である。しかしこれには限界があり、尼僧たちは尼僧教団として男僧に対して独立した組織を確立することはできなかった。 こういった視点で中世後期仏教の体制を明らかにした研究はこれまでになく、ジェンダーの視点も加えて中世仏教史を再考することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
中世仏教の転換時期である14世紀半ば以降の変化の動向を中心に研究を進めていく。思想面の研究を進め、特に当時影響力が大きかった夢窓疎石の思想を明らかにしていく。夢窓は公武の尊崇を集めた人物で知られるが、南都仏教・天台宗・真言宗など顕密八宗と対抗関係を持った点が重要で、こうした側面について史料を収集しながら考察を進めていく。さらに浄土宗からの批判も出てきており、当時論争の渦中の人物であった。同時に当時の浄土宗側の教学のありかたをみることもでき、この一連の動きをみながら中世後期仏教の思想動向を明らかにしていく予定である。 夢窓については、これまで伝記研究も一定度あるが、禅僧としての事績を顕彰するものが多く、南北朝時代の仏教界の状況や思想的な潮流をふまえての研究は少なく、夢窓の思想とその後世への影響を時代の中に位置づけていく作業を進めていく。 次に、仏教諸宗派を通じて盛んであった授戒についての史料収集を進めていく。授戒は僧侶になるためのものだけではなく、一般の在俗の人々にも広く与えられるものとなっていき、授戒会は中世後期社会において重要な法会の一つとして位置づけられるとの見通しを持っている。各宗派における一般の人々への授戒についての思想を明らかにすると共に地方を含め社会への広がりを調査していく。 法会関係では、中世前期の国家的仏事法会の研究は多数あるが、中世後期については国家的な仏事法会は衰退していくといった言及ですまされている傾向がある。近年、中世後期における室町幕府と密教修法の関係はかなり解明されているが、追善、年中行事など多様な法会が展開されたことは十分に考察されていない。こうした法会の展開過程を明らかにしていく。 また、禅宗の清規にもとづいた法会は諸宗へも影響を及ぼしており、清規関係史料の収集と諸宗の法会史料の収集を進めていく。
|