研究課題/領域番号 |
22K00917
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松重 充浩 日本大学, 文理学部, 教授 (00275380)
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研究分担者 |
塚瀬 進 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (80319095)
毛利 康秀 静岡英和学院大学, 人間社会学部, 教授 (90805996)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 満洲 / 張作霖 / メディア / 中国東北地域 / 日中関係 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、張作霖地方政権下の日本と中国の現地メディアが如何なる活動を展開し、それを通じて如何なる現地社会認識が喚起され、それが如何なる現地社会展開のダイナミズム発動の契機となって行くのかを、日中間の相互連関・相互変容という分析視角から明らかにするものである。 それは、従来の<抵抗or従属>という二項対立図式的な理解を越えて、現地認識の成立実態とそのダイナミズムを日中の諸主体間における相互連関・相互変容の実相局面から再構成するものであり、関係悪化が深刻する今日の日中関係にあって、より安定的な相互認識に向けて何が必要なのかを考察する上での好個な歴史的事例を提供するものともなっている。
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研究実績の概要 |
本研究は、張作霖地方政権下の日本と中国の現地メディアが如何なる活動を展開し、それを通じて如何なる現地社会認識が喚起され、それが如何なる現地社会展開のダイナミズム発動の契機となって行くのかを、日中間の相互連関・相互変容という分析視角から明らかにするものであるが、研究開始2年目にあたる令和5年度の研究実績概要は、以下の通りである。 先ず、初年度に引き続き、本研究遂行において必要不可欠な前提となる諸メディアから現地認識に関わる関連事実の摘出・整理とデータベース化を実施した。その成果は、「日本大学文理学部資料館展示会:記憶と記録のクロスロードとしての―黒崎コレクションの世界―」(令和6年1月10~25日開催)で公開した。同展示会は、2000点を超える絵葉書などの哈爾濱を中心とした諸記録からなる日本大学文理学部所蔵「黒崎コレクション」のビジュアル資料を、研究代表者と研究分担者らにより整理・公開したものであるが、そこには張作霖統治時代の記録も多数含まれており、本研究遂行の前提となる史資料環境整備を大きく進める成果となった。 また、収集・整理したデータに対する、日中間の相互連関・相互変容という視角からの分析も開始した。前述「黒崎コレクション」に関して、その成果の一端を示せば、ロシア革命後の日本側の所謂「北満」進出と張作霖地方政権による哈爾濱行政権回収運動が、単に日中間のナショナリズムをめぐる二項対立的な構造ではなく、相互依存と相互変容の内実をもって展開していたことが確認できた。加えて、研究分担者の塚瀬は、現地調査成果を掲載した現地メディア(満鉄の『調査時報』『調査月報』など)を利用しつつ、歴史継承体としての現地社会構造の分析を前年度に引き続き継続し、張作霖地方政権下における地域変容の歴史的位置づけの前提構築を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調」に進展していると判断した理由として、以下の2点をあげることができる。 第1点は、本研究遂行の前提となる資料環境の整備・充実を大きく進展させることができたことである。本研究の成否を大きく分ける重要な前提的条件は、現地認識の多様性を示すデータを如何により多く収集し、その内容を多様な視角から利用可能な形で整理しておくかにかかっている。一方的な力関係や二項対立的に見える事象構造が、実は多様で重層的な諸要素の相互連関・相互変容により支えられていることを顕在化させるためには、多様な視点からの記録をより多く集積しておくことが有効であると考えられるからである。この点に照らして、本年度に、膨大な「黒崎コレクション」を分析可能なレベルまで整理できたことは、大きな成果と位置付けることができよう。 第2点は、本研究の重要な柱である相互連関・相互変容という視角からの分析・考察を開始できたことである。より具体的には、昨年度来進めてきた新聞や雑誌などの各種メディアに記録された文字資料を、絵葉書、市街図、グラフ雑誌などのビジュアル資料が作成者の直接的な意図を離れる形で可視化させていた対象事象が内包する多様で重層的な「意味」に照らして再吟味することを通じて、潜在化していた相互連関と相互変容の実相を摘出する作業を開始できた点である。これこそ、本研究の最終年度にあたる次年度に向けての、重要な作業に着手できたことを意味しており、前述評価の根拠と考えたしだいである。 但し、研究代表者が学内役職(通信教育部長、評議員)上の責務から、想定外に発生した勤務校での業務の対応に忙殺されてしまい、研究分担者との十分な議論の時間を確保できなかった点は、本研究推進にマイナス的側面を持たせることとなり「おおむね」との評価の所以ともなっていることも付言しておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究であるが、次年度は本研究の最終年度にあたり、研究の取りまとめに向けて次の方策を通じて推進していく予定である。 まず、前年度に引き続き、集積した諸記録を駆使することで、日中双方の相互連関・相互変容過程の摘出を進めていく。より具体的には、研究代表者の松重が、主に各種メディアが記録する内容分析を行い、日中メディアが如何なる連関性を持ち、それが時系列的に如何に変容しているのかを実証的に把握する。また、研究分担者の塚瀬は、現地社会の展開過程を、歴史継承的な諸要素と照応させつつ分析し、現地社会実態形成の基層的規定要因を明らかにする。加えて、研究分担者の毛利は、絵葉書などの非文字データが包含する情報の摘出と、それが文字データと如何なる関連性を有しているのかを分析し、各メディア間の相互連関の重層的構造を明らかにする。 以上の作業成果を本研究の目的に即して取りまとめる作業を、松重、塚瀬、毛利の三名がそろっての討議を通じて遂行し、日中双方の現地メディアの現地認識形成実態と、それが同地域の展開に如何なる影響を与え、それは従来の同地域の歴史像再構成に如何に結びつくものなのかを明らかにしていく。 なお、以上の一連の研究過程において収集・整理された資料に関しては、適宜データベース化して適宜Web公開し、成果の社会還元を図っていく。
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