研究課題/領域番号 |
22K00924
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
荷見 守義 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (00333708)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 17世紀の危機 / 災傷 / 賑恤 / 制勅房 / 鄭和 / 勅書 / 兵部 / 監察官僚 / 呉三桂 / 档案 / 勅稿底簿 / 世界秩序・東アジア地域秩序の激動 / 地域矛盾 / 辺境統治 |
研究開始時の研究の概要 |
気候変動による地球規模での持続可能性が危うい現在、国家・社会はいかにそれに対応していかなければならないかということに関して、歴史上においても激しい気候変動に直面した事例を掘り起こして参照することは極めて大きな意味を持つ。17世紀、地球規模での寒冷化が襲う中、中国では明朝から清朝への王朝交替が起こるとともに、東アジア全域でも政治秩序の再編があったと考えられる。これを明朝の辺境地帯の統治がどのように変容したかを史料から裏付けることで、気候変動期の国家・社会の有り様を検討することが本研究の概要である。
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研究実績の概要 |
中国元朝から明朝にかけての生態環境と災害状況については、カナダのブリティッシュコロンビア大学のティモシー・ブルック教授による研究が先行研究として存在している。前年度に引き続いて、その論の当否を判断することを目指して実証的な観点から作業を継続している。ただ、その全容を検証するところまで作業は進んでいないが、明代において六波あるとされている災害が酷かった時期について、後半の万暦年間には災害と救済についてのまとまった史料を確認したので、ブルックが想定する災害が酷かった時期と必ずしも一致しないとしても、寒冷化による被害が拡がっていたことは想定できるであろうと考えている。確かにティモシーの解釈の通り、元代から明代にかけては生態環境が厳しい時期であり、災害も起こりやすいと考えることができる。この点、従来の明代史研究では意識されてこなかったことであるが、当時の史料を見てみると、災害に対する救済は皇帝の恩恵として施されるという回路に閉じ込められてしまっている場合が多いようではあるが、なお、細心の注意を払って分析を続ける必要があると考えている。 明末期は17世紀の危機にかかる時期であり、この時期の政策展開と災害の関連は主要テーマである。この時期の文書である档案を解析するための基礎作業として、官僚を新たに任命するための辞令である勅書について、档案として残存する勅書の分析作業を継続している。辞令としての勅書の実態解明を続け、その一端を論文として公刊することができた。官僚として誰を任命するか、中央官庁のどこの部署がその人事に関与するかは、従来、追及されていないが、政策の実態を観察する上で意味を持つ作業であると考えている。 また、明朝初期、第3代皇帝である永楽帝が対外活動ができた背景としては、明朝初期以降に緩やかに寒冷化が緩んだことがあり、この時期の鄭和の活動について新見解を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国元朝から明朝にかけての生態環境と災害状況については、カナダのブリティッシュコロンビア大学のティモシー・ブルック教授による先行研究があるが、これについてはかなり大雑把なところがあるので、本研究はその検証作業を続けており、その全容を検証し終えていないが、大幅に刊行の遅れた明代の気象・災害に関するデータ集が2022年度末になってやっと納品されたことがあって、今年度はやっとスピードを上げて分析作業を進めることができた。但し、本データ集はかなりなボリュームがあるため、なお消化するまでに一定の時間を要する見通しである。 このように、気象・災害に関するデータ整理の作業は徐々に巻き替えており、また、档案に関わる整理研究と執筆に関わる作業は順調に進んでおり、また従来、取り上げられることのなかった辞令としての勅書の解析に前年度、初めて取り組み、その成果の一部を公刊し始められたことは大きな成果であったが、今年度も引き続き各種典籍から勅書のデータを集めて分析し、公刊することができた。特に官僚の奏疏集には自己の関わった文書の記録が収録されていて、監察御史のように地方に派遣される官僚にとっては、その活動の原点である皇帝からの勅書が麗々しく大書して収録されていることは、勅書の重みを感じる営為である。以上のように、辞令としての勅書研究でやっと見えて来た官僚の任命風景であるが、ここに気象災害のような寒冷化の影響をどう織り込んでいくかがこれからの課題と感じている。 さらに災害データ整理との関連で注目すべきは、各種典籍史料の災害救済に関わる奏疏に含まれる災害とは、多く洪水、干害であるが、これら文書史料と編纂物を中心とするデータ集との災害傾向の相違を浮かび上がらせる作業はこれからの重要なテーマと考えているが、これらの成果をどのように学会発表、成果刊行に繋げていくかは、喫緊の課題であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、明代に関わる档案史料の解析から、17世紀の危機とそれへの明朝の政策対応を検証するところにある。現在は档案の解析は辞令である勅書という史料について、明朝末期から中期まで解析範囲を拡大し、執筆・公刊する作業を続けており、年度中に1編の論文を公刊し、もう1編の論文を投稿しているところである。档案解析については、今後、スピードアップして作業を進めていく予定でいる。なお、遅れの生じていた明代の気象・災害についてのデータ集の解析については、刊行が遅れていたデータ集が1年前にやっと刊行されたことからデータ解析の作業を集中しており、遅れを挽回してきている。文書館における史料調査については、公益財団法人東洋文庫を中心に文書解読及び史料収集活動を急いでおり、これまでの遅れを取り返しつつある。このように昨年度抱えた課題は徐々に解消しつつある。 今後の研究の推進方策としては、データ集が概ね編纂史料からの史料の抜粋を軸としているため、档案のような文書、個々の官僚が関与した奏疏などを集めた奏疏集や文集などの生の史料のデータには弱い。特に万暦年間の災害についてのよい史料を内閣文庫で発見しているので、これを起点として、編纂史料と文書等の史料との突き合わせでブルック教授による先行研究の災害のピークと、万暦年間の災害がどの程度合致するかしないかについて見識を深め、学会における研究発表、レフェリー誌への投稿に繋げていきたい。 今年度は永楽年間に永楽帝の下で大航海に乗り出した鄭和について、概説書ではあるが新たな見解を示すことができた。永楽帝の対外積極策は恐らくは元朝末期から引き続いた寒冷化が幾分か弱まったためであろうが、永楽期と寒冷化の問題は未知のテーマであり、ヒントになるような文書がないか探してみたい。 以上がこれまでの課題と今後の推進方策である。
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