研究課題/領域番号 |
22K00958
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北村 陽子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (10533151)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 戦争障害者 / 世界大戦 / ジェンダー関係 / ドイツ史 / 社会福祉 / ジェンダー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では「支援器具」の発展と汎用化の論理を明らかにしたうえで、戦時下の社会政策が戦後には一般的な社会福祉施策として戦争によらない障害者も対象者に含めることで、社会国家の支援システムの一端を担うようになった過程を示す。こうした「支援器具」がもたらした社会的な変化と、その開発者と使用する当事者の関係性の変化をふまえて、モノから見た社会国家の形成という従来にはない視点からの社会国家像を提示する。
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研究実績の概要 |
本年度は第一次世界大戦中から戦後にかけての戦争障害者に対する義肢の支援に関して調査を進めた。国家的な方針として、戦争障害者は治療・リハビリののち、再度戦線に送られるか、軍務復帰が困難な場合は労働復帰が求められた。義肢の使用は、彼らが労働復帰するために不可欠であった。 具体的な事例は、同時代文献等を調査して明らかにした。戦争障害者への社会復帰のための職業教育を実践する過程で、四肢を欠損した場合にそれを補助する器具がされた。開戦前まで流通していた外国製(主にアメリカ合衆国製)が流入しなくなったため、ドイツ国内で開発する必要性に迫られて、1915年に義肢調査センターが設立されたことが明らかになった。このセンターは、戦時下のドイツ各地で開発された義肢の性能を調査し、基準を満たすものの製造を許可するシステムを構築していくもので、名称の変更を経て現在まで存続している。この組織が1919年にとりまとめた戦時期からの活動報告では、具体的な義肢の設計に始まり、その活用方法、戦争障害者の再就職の事例など、補装具である義肢を使う当事者の状況が描写されている。 第一次世界大戦中に進展した戦争障害者支援は、彼らを労働者として社会復帰させる方針をもとに構築された。障害部位によって、前職に戻るためにリハビリを行なう場合もあり、また前職復帰が困難な場合は自治体労働局との連携のもとで、別の職業に就けるように職業教育と必要なリハビリを受けられるようにする制度が、自治体ごとに進められた。ドイツ南西部のヴュルテンベルク王国では、1916年には義肢を用いてのリハビリや職業教育、実際に器具を装着して作業をする、といった社会復帰訓練に関する報告書がまとめられている。本年度はこれらの分析結果を取り入れて、第一次世界大戦期の戦争障害者の男性性に関しての論文を公刊し、また共著図書2冊への寄稿文と4本の研究報告文を著した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二つの世界大戦期を通して、ドイツで戦争障害者支援の一つである義肢が、どのように発展したかを、法規定の変化、器具の性能調査の方法、具体的な使用事例と補装具を使用する当事者の意識、補装具製作側の意図など、さまざまな側面から検討し、義肢が戦争障害者の行動を補助する器具から、より幅広い対象に向けた生活品となる過程を明らかにすることが、本研究課題の目的である。こうした課題を達成するために、本年度は対象期間の前半である第一次世界大戦期およびその後の状況を調査した。同時代文献と、以前別の課題で調査した際に確認した文書館史料を再度精査し、研究文献を読解することで、本年度の課題を解明することをめざした。 戦争障害者は、補装具を使用することで、労働力として「健常者」と同等になることが望まれていた。今回の文献調査から明らかになったことは、そうした「健常者」として、戦争障害者も男性としての役割である扶養者となることが社会から望まれ、また本人たちもそれを望んだこと、あるいは本人が望むように社会的な圧力にさらされていたことである。戦争障害者の社会への再統合に「労働」が不可欠であった点は、すでに以前公刊した単著で示したが、そのために必要な方策としての義肢の開発と性能の向上に関して、その端緒を今年度の調査で明らかにできた。 これら同時代文献を調査・分析した結果を、「戦争障害者の男性性」という視角から、学術論文として発表した。また戦争障害者支援の拡充とともに進展した障害者福祉の発展に関して、レントゲン照射による戦争障害者の診断・治療の功罪を含めて、共著図書(2)の寄稿文および研究報告文としてとりまとめた。戦争障害者支援を含めた、ドイツの社会政策一般の発展については、共著図書(1)で近代の歴史経路として叙述した。
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今後の研究の推進方策 |
二年度目には、第一次世界大戦後から第二次世界大戦期にかけての義肢の発展と、第二次世界大戦後の発展について、それぞれ調査を少しずつ進めていく予定である。いずれの時期に関しても、第一次世界大戦期に発展したさまざまな戦争障害者支援が、一般障害者向けにも適用され、裾野が広がっている。義肢に関しても同様に、対象者が徐々に増えたが、それは自費利用が可能な富裕層に限定されていたところから、社会保険適用者への無償あるいは低廉な価格での利用が認められることで、本来必要な人びとの手に渡るようになった。 それとは別に、戦争障害者の身体機能を維持・向上させるリハビリから発展した障害者スポーツは、すでに第一次世界大戦中から当事者のレクリエーションとして取り入れられていた。その障害者スポーツをもとに、戦争障害者だけでなく一般の身体障害者(生得や労災による)のリハビリと娯楽としての障害者スポーツが発展し、第二次世界大戦後にはパラリンピックが誕生する。そうした障害者スポーツの発展とともに、スポーツ競技に特化した義肢の開発も行なわれていく。同時に、労働生活への復帰のため、機能性を最優先とした第一次世界大戦期の義肢は、徐々にその外装をより人間の外観に近いものにするように変化されていく。 以上のような補装具発展の時間的な連続性を鑑みて、利用対象者の拡大、性能の変化に関して、第一次世界大戦後から20世紀後半までを射程に調査を進めていくことが、二年度目の課題となる。関連する同時代文献および研究文献の調査と、文書館史料の調査も同時に進めていくことを考えている。そうした調査の成果は、戦争の影響に関するドイツ語の論文集と、日本語の論文集に寄稿する予定である。
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