研究課題/領域番号 |
22K00972
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 俊夫 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 名誉教授 (10135387)
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研究分担者 |
佐藤 鋭一 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40609848)
奥野 充 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (50309887)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 放射性炭素年代測定 / 加速器質量分析 / 炭素14年代の暦年較正 / 海洋の炭素リザーバー効果 / 火山灰層序 / アリューシャン考古遺跡の火山灰編年 / モンゴロイドのアメリカ大陸への移動 / モンゴロイドのアリューシャン列島への移入 / モンゴロイドの太平洋沿いの南下移動 / 先史アリュート / アリューシャン列島 / 海洋リザーバ効果 / 人類のアメリカ大陸への拡散 |
研究開始時の研究の概要 |
先史モンゴロイド集団が、ベーリング海峡の氷の陸橋を渡ってユーラシア大陸からアメリカ大陸へ移動したルートとして、アラスカ中央部を南下したルートのほか、太平洋東海岸に沿って南下したルートが知られている。今回の調査対象となるアリューシャン列島は後者のルートの途中に位置する。本研究で調査予定のウナラスカ島やウムナック島は、その当時は海水面低下によりアメリカ大陸と陸続きであった。本研究は、AMS 14C年代測定法により、両島の周辺域に分布する先史時代の遺跡から発掘される試料の年代を求める。それをもとに、古代アリュートがこの地域に、いつ頃侵入して居住を始め、何時頃、どのように繁栄したのかの編年を確立する。
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研究実績の概要 |
本年度は、2023年8月に、アメリカ合衆国アラスカ州のダッチハーバーにあるアリューシャン博物館(MOA)のVirginia Hatfield博士のグループが主導して計画・実施したウナラスカ島の北東の岬から突き出た砂嘴状の半島の根元部に位置するUNL-055遺跡で行われた考古遺跡発掘調査に参加することができた。本研究の初年度(2022年度)には、コロナ禍の影響が残っており、また、為替レートの円安のためその年に予定されていた発掘調査への参加は断念した。今年度は、2年間の研究経費のほぼ全額を用いて、海外調査を実現することができた。現地調査を進めるなかで、アリューシャン列島に住むアリュートの人々については、初期にアジア大陸から移動してきた人々の生き残りか、その後に移動してきた人々に交代したのかなど、民族の移入・定住に関して様々な説が立てられ、それに基づく調査研究が現地にて進められていることが判明した。本研究の当初の研究計画では、このようなアリューシャン列島における先史アリュートの移入・定住を明らかにすることを目指したが、これらの全容の解明は時間的な制約や研究費の制限もあり、短期間でこれに対する結論を得ることは難しい状況である。そこで、限られた遺跡について、高精度の年代測定データを用いて、その遺跡への移入・定住の様相を明らかにすることになる。 本研究では、14C年代測定と火山灰編年の専門家が協力して、遺跡の高精度編年に臨む。遠距離の火山から、ウナラスカ島の南北数十kmとやや狭い範囲に降灰する火山灰を島のいくつかの露頭で観察し、火山灰の上下関係による編年から、考古遺跡の編年を行い、さらに遺跡から直接採取する考古試料の14C年代測定と合わせて遺跡の成り立ちに関する精度の高い時間情報を得る。このような時間情報を元に、アリューシャン列島における先史アリュートの移入・定住の解明に迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、アリューシャン列島に分布する先史アリュートの遺跡の調査は、実施できなかった。2020年から続いている新型コロナ感染問題や、為替レートの変動による対米ドルに対する円安の影響で航空運賃などの高騰等が重なったことによる。本年度は、昨年度に使用しなかった旅費を活用して、なんとか、米国アラスカ州のアリューシャン列島を現地調査することができた。2023年8月に、ウナラスカ島において、共同研究者らの考古遺跡発掘調査に合流して、遺跡露頭から14C年代測定試料を採取した。また、考古遺跡の露頭層準の火山灰編年のために、幾重にも重なる火山灰層の記載と火山灰試料を採取した。 また、前年度から進めてきた海産物試料の炭素14年代の暦年較正研究も引き続き検討した。最新のデータであるMarine20による暦年較正結果を、これまで使われてきたMarine13の結果と比較する研究を進めた。真脇遺跡のボーリングコア試料から回収された、同じ暦年代を示すはずの植物片と貝殻片のペアについて、Marine20を用いて得られた海洋炭素リザーバー年代を用いて貝殻試料の暦年較正をした結果は、植物片の暦年代とよく調和した。また、Marine13を用いて得られた海洋炭素リザーバー年代を用いて貝殻試料の暦年較正をした結果も、植物片の暦年代とよく調和した。すなわち、Marine20とMarine13のどちらの暦年較正データを用いても、暦年較正は、正しく行われることを確認した。アリューシャン列島産の海産物試料については、現在14C年代測定実施中の、植物片と貝殻片のペア試料の結果を用いて、現地の海洋炭素リザーバー年代を正確に求める予定であり、それを用いることによって、遺跡出土の貝試料から遺跡の暦年代を求めることができる。このように、ウナラスカ島の考古遺跡の編年を確立して、先史アリュートの移入・定住を検討する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年8月に、ウナラスカ島にて採取した試料の14C年代測定を実施する。併せて、10箇所以上の火山灰露頭に現れている火山灰層の同定から火山灰層序を確立し、また、火山灰の層間から採取した試料から14C年代を求めることにより、考古遺跡に現れる火山灰層から遺跡の年代を求めることができる。ウナラスカ島は、火山列島であるアリューシャン列島の最東部に位置し、列島に位置する大型の火山が噴火した際の火山灰層が充分に確認できる厚さに堆積している。目視による火山灰層の同定も可能であるが、科学的な手法で同定の確認を行うことにより実証的な解析を進める。米国の共同研究者には、火山灰層序の専門家はいないため、豊富に存在する火山灰層の年代決定への応用が遅れている。わずかに、火山灰露頭において、顕著な層厚を示し、現地では”Nateekin tephra”呼ばれている火山灰層は、ウナラスカ島のほとんどの火山灰露頭で確認され、暫定的に7000年前に堆積したものとされている。このような予察を考慮しつつ、火山灰層の解析を進める。 14C年代測定については、遺跡の同一層準から採取された植物試料と貝殻試料のペアをアリューシャン博物館から既に手に入れており、アリューシャン列島におけるローカルリザーバー年代を精度良く決めることができる。この解析を元にして、ウナラスカ島の考古遺跡 (site 055)から、2023年に採取された試料やアリューシャン博物館に保管されていた試料の14C年代測定を進める。こうしたデータや米国の考古学者の研究成果を考慮に入れて、アリューシャン列島における先史アリュートの人々の移入・定住・拡散の様子を捉えたい。 本年度は、この研究計画の最終年度になるため、年度末には、分析結果を持ち寄って研究集会を開催し、アリューシャン列島の考古遺跡の編年について議論を行う。
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