研究課題/領域番号 |
22K00975
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 武蔵大学 (2023) 城西大学 (2022) |
研究代表者 |
石井 龍太 武蔵大学, 人文学部, 教授 (00712655)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 琉球諸島 / 中世 / 近世琉球 / 民衆史 / 周縁史 / 囲壁 / 近世 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はこれまで沖縄島の政治史中心に描かれて来た中近世期の琉球史について、民衆史・周縁史の観点から再検討することを目的とする。琉球諸島とひとまとめにすることが困難な特徴を周辺諸島は多く有するが、調査研究例が豊富とは言えない。本研究では具体的な対象として宮古島の特徴的な囲壁集落を取り上げる。囲壁を伴うことから沖縄島を中心に分布したグスクに類するものと捉えられてきたが相違点が多く、むしろ中国南部の集落に類例があるとも報告されている。具体的な遺跡調査を通じて個々の遺跡の性格を明らかにし、今まで検討されて来なかった中近世琉球の民衆史・周縁史を追究して、新たな歴史像を描き出すことを最終的な目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、グスク時代、特に考古学的研究が不調な近世琉球期への移行期を、民衆史、周縁史の観点から追究することにある。そのための具体的な方法として、宮古島に所在する囲壁を伴う遺跡を実際に調査し、不足している基礎資料の拡充を図りつつ、上記の目的に近づいていくことを計画した。 2023年度は、宮古島北部に所在する狩俣集落と、南部のクバカ城跡の両遺跡で発掘調査を実施した。囲壁を焦点化しつつ、その内部で展開した人間活動にも注目した。 狩俣集落は近代期まで集落が囲壁されていたとされるが、実際に壁があったとされる東、西、南面の他、北部の丘陵上にも自然礫と人工的な石積みを組み合わせた壁が構築され、かつその内側には集落の聖域が営まれている。現在は祭祀が中断されて木々に覆われ、崩壊しつつある状況である。2023年度には、丘陵上の発掘調査を実施した。文献資料では17世紀には宮古島中に広がっていたとされる狩俣の祭祀だが、発掘地点を見る限りでは近世以前に遡らせて考えることは難しく、連綿と続けられる中で新しい要素が次々と加わっていることを確認した。 また南部のクバカ城跡では、残存する良好な石積みの年代を把握すべく、4本のトレンチを設定して発掘調査を実施した。残念ながら石積みの年代を明確化することは出来なかったが、中世期から太平洋戦争期に至る幅広い時期の遺物と、食糧残滓と考えられる貝類を確認した。遺跡の年代幅を押さえると共に、集落・城郭から太平洋戦争を経て公園化していくという、地域の中で果たされて来たクバカ城跡の役割の変化を具体的に追うことが出来た。これは宮古島の辿った中世~近現代史の縮図とも言えよう。 そして最終年度に当たる2024年度に向け、新たな調査とアウトリーチ活動の具体的な計画を作成し、関係者と共有、協議し了承を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初具体的な調査対象として定めた狩俣集落、クバカ城跡における発掘調査を、前年度から引き続き進めることが出来、調査蓄積が豊富とは言えない琉球の中世民衆史の基礎資料を増加させることが出来た。 またその結果として、文献資料や表採資料から推察されて来た囲壁集落のあり方をより具体的に浮かび上がらせ、今日の状態に至るまでの歴史的変遷にも踏み込むことが出来た。中世期を持って活動を停止し、住民は内陸移動したとされる先島諸島の囲壁遺跡だが、クバカ城跡に見る様に、その後も役割を変えつつ存続する例があることを、具体的な変遷過程と共に示すことが出来た。 そして調査の進展の中で、新たな課題を見出すことも出来た。クバカ城跡の変遷と比して、狩俣集落はもっと複雑な変遷を経て今日に至っていると考えなくてはならないであろう。丘陵上の祭祀空間は中世期より新しく、しかしそのすぐ下に設けられた「ザー」と呼ばれる祭祀施設は、過去の研究代表者らの調査によって15世紀後半以前に遡り得ることが明らかになっている。また2023年度春に発掘した狩俣集落の丘陵上に位置する「ティンドゥ」と呼ばれる石積みは、琉球諸島内には類例が見当たらないものの、対馬にみられる天道祭祀と共通点があることを確認し、新たな課題を浮かび上がらせることが出来た。その解明には、琉球諸島間の調査、比較研究を継続すると共に、環東シナ海地域にまたがって広域分布する信仰の調査研究という大きな作業に踏み込む必要があるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は最終年度に当たることから、これまでの調査成果を振り返りつつ、夏までは発掘調査を実施し、後半は総括に当てることを考えている。 具体的な計画として、まず年度前半は狩俣集落における調査を実施する。木々に覆われ、崩壊の危険にある遺跡から優先的に調査して記録を残し、囲壁集落内で展開した人間活動の歴史に踏み込むことを目的とする。出土資料、検出遺構を分析し、論文、学会発表の準備を進める。 また例年機会をとらえて実施して来た、博物館展示を通じたアウトリーチ活動についても実施していく。既に武蔵大学図書館、沖縄県立博物館・美術館、宮古島市歴史文化資料館での展示を、9月から12月にかけて実施する。関係者との協議を済ませ、今後はより広く多くの方々に研究成果を伝えられるよう、具体的な展示の内容を詰めていく予定である。
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