研究課題/領域番号 |
22K00999
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03060:文化財科学関連
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
飯岡 稚佳子 東京藝術大学, 大学美術館, 学芸研究員 (70875608)
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研究分担者 |
岡嶋 克典 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60377108)
田口 智子 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90755472)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 皮革文化財 / 動物種 / 鞣し剤種 / AI / 深層学習 / 人工知能 / 画像認識 / 動物種同定 / 鞣し剤 |
研究開始時の研究の概要 |
皮革は動物種・鞣し剤種によって見た目や柔軟性、耐熱性、耐候性、機械的性質などが異なるにも関わらず、皮革文化財では同一の保存修復処置が行われている。これは、非破壊で客観的な動物種・鞣し剤種の識別方法が確立していないことに起因すると考えられる。 本研究では人工知能(AI)による最新の画像認識技術を用いることで、非破壊かつ客観的に皮革の動物種・鞣し剤種を識別するシステムを構築する。システムは、①未劣化サンプルの識別、②劣化サンプルの識別、③皮革文化財の画像データの識別と、段階的な学習と検証実験を繰り返すことで識別精度を高め、最終的に皮革文化財への適用を目指す。
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研究実績の概要 |
本課題では、AIによる画像認識技術を使用した非破壊・簡便であり客観的で精度の高い皮革の動物種・鞣し剤種の識別システムを開発し、現存する皮革文化財の動物種・鞣し剤種識別に実際に応用するための研究を進めている。初年度は皮革サンプルを使用して画像認識技術に必要な基本的な識別システムを構築したが、今年度は本システムの文化財への適用が可能か検証した。破壊分析の許可が得られている個人蔵の皮革文化財2点(革台帳・革小物)について液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS/MS)により動物種を同定し、革台帳では牛革、革小物では鹿革が使用されていることが明らかとなった。構築した識別システムを使用して皮革文化財2点の動物種及び鞣し剤の同定を試みたところ、正答率は9.4%であり、皮革サンプルでの同定結果と比べて正答率は低下した。そのため今後、識別システムの精度を更に高めるためにこれまでの博物館での調査結果を反映させた劣化サンプルを作製し、それらの画像を既存のシステムに追加学習させることが必要と考えられた。 更に現存する皮革文化財の劣化状況の確認及び毛穴画像取得のため、函館市立博物館やマタギ資料館、東京藝術大学大学美術館、玉川大学教育博物館にて資料調査を行った。調査を行った多くの皮革文化財について使用された動物種は不明であるものの、毛穴の状況は摩耗による擦れなどによる長期的な影響を受けていると考えられた。また函館市立博物館所蔵の皮革文化財は本島には存在しないトナカイやアザラシなどの革が、青森県マタギ資料館所蔵の皮革文化財はカモシカの革が使用されており、皮革文化財に使用される動物は地域による特性が生じることが明らかとなった。現在は当初想定していた牛・豚・鹿の3動物種だけではなく幅広い動物種の毛穴サンプルを取得するため、最終年度において海外調査先との連携を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の計画通り、破壊試験の許可を得た皮革文化財についてLC/MS/MSにより動物種を同定することができた。また、想定より多くの博物館や美術館にて皮革文化財の毛穴画像を取得することができた。それらの成果は文化財保存修復学会や、東京藝術大学大学美術館年報にて報告した。皮革文化財の動物種及び鞣し剤同定のAIシステムによる正答率は、皮革サンプルにおける正答率と比較して低い値を示したが、博物館での調査により劣化の傾向を把握できており、システムの修正のための下準備は整っている。そのため、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は国内の博物館・美術館にて皮革文化財の毛穴画像を数多く取得することが出来たが、8割方は動物種や鞣し剤種が不明でありAIシステムに学習させるデータとしては利用が出来なかった。更に動物種が判明している残り2割の皮革文化財であっても、既存システムで標準とした牛・豚・鹿革以外の動物皮革が使用されているものも多く、現行システムのままでは皮革文化財に適用することが困難であった。 こうした課題から最終年度は標準とした牛・豚・鹿以外の動物の毛穴画像を取得するため、ドイツにある世界最大級の皮革博物館で調査を実施し、魚類や爬虫類の皮を含む多種多様な毛穴画像を取得する予定である。さらに、博物館・美術館で収集した皮革文化財の経年劣化を再現した皮革サンプルを作製しAIシステムへ追加学習させ、検証と修正とを繰り返すことで精度を高め、最終的に皮革文化財への適用を可能なシステムを構築することを目的とする。最終年度に得られた成果は学会で報告する予定である。
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