研究課題/領域番号 |
22K01020
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03070:博物館学関連
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研究機関 | 千葉県立中央博物館 |
研究代表者 |
奥野 淳兒 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (60280749)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 甲殻類 / 千葉県 / 深海 / 両側回遊 / 図鑑 / 海洋教育 / 自然史博物館 / 理科教育史 |
研究開始時の研究の概要 |
千葉の県立博物館という立場から、特にエビやカニなどの十脚甲殻類を題材とした海洋教育プログラムを開発する。従来の自然史博物館における海洋生物を扱った学習支援活動では、地域の歴史や特性と結びつけた海洋教育的アプローチがなされてきたとは言い難い。そこで本研究では (1) 郷土の海について伝える技術の向上、(2) 文献に基づく海洋生物教育史の振り返り、(3) 標本に基づく地域の海洋生物相の変遷の掌握、という視点から、十脚甲殻類とそれに関わる事柄を房総半島の海を多角的に理解するための教材として捉え、地域に根付いたオリジナリティ溢れる自然史博物館の海洋教育プログラムを構築する。
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研究実績の概要 |
令和4年度は、海洋教育プログラムの教材に適した千葉県産甲殻類を抽出するため、以下の基礎研究を行った。 1) 千葉県の太平洋岸ではキンメダイを漁獲するための立て縄漁が盛んである。この漁業では多数の深海性甲殻類が混獲されることから、地域産業と結びつけたプログラムの可能性を検討した。 2) 千葉県御宿町では、地元の水産ブランドであるイセエビをモチーフにしたご当地キャラクターが存在する。エビを使ったキャラクターが町民に親しまれているため、「それでは御宿町には何種類のエビがいるのか?」という問いかけは、特に子供たちに海や甲殻類への興味・関心を抱くきっかけになりやすいと考えられる。また、御宿には清水川、堺川、裾無川、久部川、上落合川の5河川があり、そのうち夷隅川水系の上流域に位置する上落合川を除く4河川では比較的短い流程で海に到達する。両側回遊性のエビ類相を調査した結果、ヌマエビ科4種、テナガエビ科4種の生息を確認した。これらのエビは、海岸線からやや離れた場所での町民の普段の生活に海が深く関わっていることを学ぶ教材となる。また、上落合川には陸封型のヌマエビ科1種、テナガエビ科1種を確認した。同じ町内の河川で生活環の全く異なるエビが生息していることは、環境の多様性を知るきっかけとなる。さらに、この調査中に外来生物として近年問題視されているミナミヌマエビ属の生息が町内で初めて確認でき、本種も人と自然の関わりを考えていく上での教材とすることができる。 3) 明治から昭和戦前に出版された図鑑類を調査した。これらに掲載されている十脚甲殻類は、三方を海に囲まれ、自然の豊かな地域である千葉県内で行われる磯の観察会などで現在でも普通に見られる。そのため、時間的経過から見た生物相の持続性を検証する教材となる。この視点から自然の豊かさを周知するため、図鑑を扱った博物館の企画展示の開催を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は千葉県に分布する多彩な甲殻類のうち、教材として地域住民に特性を伝えやすそうなテーマをいくつか絞り、それぞれについて基盤となる生物学的研究を進めた。同時に、各テーマのねらいや伝え方、利用するアイテムを検討した。 外房のキンメダイ漁で混獲されたカニの稀覯種については、学術論文として日本生物地理学会の英文誌 Biogeography 第24巻に報告した。その情報を博物館のホームページおよびSNSを利用して広報したところ、多くの人から関心を集めることができた。御宿町のエビ類を扱ったプログラムは、主な対象が小学校の児童であると考えられるため、学校関係者との協議を進めた。古い図鑑を使って甲殻類相の普遍性を伝えるため、明治時代から昭和戦中にかけて出版された図鑑の変遷を検討した。その結果、明治時代には水産と教育の分野で製作されていた図鑑類が、大正時代になると日本人の手による海洋生物学の自然史研究(記載分類)が進み、各分類群のモノグラフの出版が増えたことを経て、昭和に入り、自然史の成果が図鑑へ反映されたことにより掲載種は増え、利用を想定する対象者が多様化したという流れが見られることが明らかとなった。特に昭和初期には教育関係者によってフィールドで携帯しやすいようコンパクトにまとめられた海洋生物図鑑も出版された。このような図鑑は安価に設定されており、専門家ばかりでなく、児童・生徒でも入手しやすくなっていたため、海洋教育として機能していたと推察される。甲殻類に着目すると、この当時既に分類学的研究が進んでいたカニ類は充実した種数がこれらの図鑑に掲載されていることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
日本各地の砂浜海岸でスナガニ類の調査が進められ、地球温暖化による海水温の上昇に伴い、従来温帯性のスナガニだけが知られていた関東地方以北の海岸に南方種であるナンヨウスナガニとツノメガニが産し、これらの分布域の北上が認められている。近年、これらのカニ類の調査は、潮間帯上部という生息場所へのアクセスがしやすいこともあって、環境教育の教材とされるようになった (環日本海環境協力センター編, 2017)。千葉県では砂浜海岸にスナガニ類による巣穴が多数開孔していることが知られているが、十分な調査がなされていないため、ナンヨウスナガニとツノメガニが未記録の地域が多く残されている。従って、これら3種の分布状況を明らかにすることにより、千葉県でもスナガニ類の教材化が可能となるため、基礎調査を進めていく予定である。 また、御宿町におけるエビ類相調査では、これまでに採集がなされてこなかった海産エビ類の標本収集を行い、どのようなエビ類相を示す水域なのかを明らかにしていく。外房沿岸は暖流である黒潮と寒流である親潮の影響を受ける水域であるため、得られたエビ類の生物地理学的情報を教育プログラムに導入できるよう、検討する。同時に、漁業関係者への聞き取りなどは地元の児童が実施できるようなプログラムを構築する。
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