研究課題/領域番号 |
22K01091
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 京都大学 (2023) 京都市立芸術大学 (2022) |
研究代表者 |
藤岡 洋 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定研究員 (80723014)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | デジタルアーカイビング / 西北タイ / 映像分析 / 再資料化 / 映像フィールドワーク / デジタルフィールドワーク / 8ミリ / 人文情報学 / デジタルアーカイブ / 北部タイ / 映像 |
研究開始時の研究の概要 |
調査資料として記録される動的映像(以下、映像)は調査完了後に活用される機会が極めて少ない。映像には時系列を固定化するというポテンシャルがあり、その特性を活かせば他種資料同様、調査後も映像は積極的に学術研究に寄与できるはずである。本研究はショット単位分析の結果に、野帳・聞き取り・写真・文献などの情報を取り込む編纂型映像資料インデックスの構築を目指す。 本研究対象は半世紀前に記録され、その後も恵まれた環境で保管されてきた西北タイ歴史文化調査団蒐集8mm映像である。昨今急速に進歩する映像編集技術と違い、映像資料には学術的な価値採掘法が未だ確立されていない。本研究は映像の再資料化モデルを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、1)研究対象である映像の記録当事者・関係者の聞き取り調査を通じて、2)映像を資料インデックス化するための編纂システムの開発を柱とする。 2023年度は、1)において当初の計画どおり続行できない事情が発生したため、2)に関する計画を前倒しして注力した。結果、想定通りの成果が実現できた。 1)に関しては、a)調査開始時にすでに91歳と高齢だったこのインフォーマントが急逝し、b) 今年度から研究代表者の生活・研究拠点が東京から京都へ移ったことにより、昨年度に計画した新たなインフォーマント(東京在住)へのインタビューが行なえなくなったこと、c)資料調査協定を結んできたで南山大学人類学博物館(名古屋 以下、博物館)で連携をとってきた学芸員2名が退職したことなどが重なり研究計画を変更せざるを得なくなった。 そこで、本年度の研究は 2) に比重をおくこととした。その結果、d) これまで未整理だった博物館所蔵の写真資料に対してシステムがその再整理化を促すことがわかっていたため、さらに地誌情報、音声、論文、別の映像、リンクと映像のショット/シーンへの関連付けが可能になった。これにより、インデックスとしての映像が資料としてより立体化され、また、他種資料からも映像が参考資料として活用できる可能性が開かれた。e) このシステムでは、映像がトリガーとなって他資料を引き寄せ、蓄積していくことになる。よって資料の全体量はデータベース化の過程においても量的・質的ともに漸次的に増加し、その量はゆうに博物館に収蔵されている資料の数を上回ることなる。そのため、データベースを規定するメタデータを可変的にする試みを提案した。 本年度の成果発信としては、映像に関する研究会に2回参加し、「デジタルアーカイヴィング構想から重出立証法を学んでみる」(大塚英志編『接続する柳田國男所収)を上梓した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、映像を資料インデックス化するための映像編纂システムの開発と並行して、積極的にインフォーマントからの聞き取りを積極的に進めていく計画であったが、研究代表者の研究所属機関が変わり今年度は本務に注力しなければならない状況になった。また、勤務地が東京から京都に変わったことも計画に影響した。前年に急逝された本研究資料の記録者でもある鈴木昭夫氏に代わり、当時調査団の通訳として途中から調査団に加わり、その後日本に帰化したシャン族出身の元調査団通訳と石川県在住の元調査団員にインタビュー協力を要請し承諾も受けていたが、上記理由によりインタビューは叶わなかった。 そこで、本年度の計画を見直し、次年度計画を前倒しして、映像をインデックスとする編纂システムの機能追加実装に注力した。結果、前年度までに実現していた写真資料だけでなく、1.地誌情報(GIS)、2.音声、3.論考(PDF)、4.別の映像、5.関連リンクが映像ショット/シーンに取り込み、他種資料を統合できるようになった。これにより、映像は単なる資料群のなかの一資料=資料映像でなく、多くのメディアに分散した他種資料を取り込み、より立体的な資料インデックス=映像資料として機能させる見込みがたったと考えている。 このシステム開発中には新たな課題も発見された。多種メディアの情報が統合化されることで、メタデータの可変性が担保される必要があることがわかった。この課題解決のためには、従来のメタデータを固定してからデータを蓄積・分析していくデータベース構築方法とは別のデータベース構築法の創出が必要となる。新たな課題が生まれたことも踏まえ、現在までの進捗状況を順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は映像に関するインタビューと映像以外の資料調査を積極的に行う、今年度計画を前倒ししたことで完成の目処のたった資料編纂システムを使いながら、1)遅れていたインフォーマントへのインタビューを通じてシーン・シークエンスを最終確定し、2)南山大学人類学博物館に赴いて資料インデックスの充実化が図れるかを検証する。 とりわけ、1) に関してはインフォーマントであり本研究資料である映像の撮影当時者でもあった研究協力者を亡くしたことは「生きた資料」が「史料」になってしまうほど影響力があることを改めて思い知らされた。本研究は急務であることを再確認した。 映像をインデックスとする資料編纂システムに関しては、本研究中に長足の進歩を遂げているAIを活用することも考えている。具体的にはインタビュー音声録音機能を追加し、AIによる自動文字起こし機能を実装することで、映像のショットないしシーンに紐づく生きた記憶をデータベースに残すことのできる資料整理と同時に資料が潜在的にもっていた可能性を表出させたいと考えている。 また、上記構想の元となった、増加していくデータ量に応じてのメタデータ変更を柔軟に行うための「可変型メタデータ」構想も実験的に実装に移していく予定である。具体的には複数の研究協力者(元調査団員、元調査団通訳、当該地の地域研究者)からそれぞれ提供された情報を共同で検討し、リアルタイムにメタデータを変更する試みである。その際には、南山大学人類学博物館との遠隔同時編集を行う実験も含まれる。研究協力者からは、本研究対象の調査から五十年が経過した北部タイ地方への還元も提案されている。現地メーファールアン財団への働きかけを通じて本研究成果が現在の調査地に還元・寄与できる可能性も検討する。
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