研究課題/領域番号 |
22K01099
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 神田外語大学 |
研究代表者 |
奥田 若菜 神田外語大学, 外国語学部, 准教授 (10547904)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 人工中絶 / 感染症 / 優生思想 / 信仰 / 格差 / ブラジル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ブラジル社会の優生思想と関連事象の全体像をつかむことを目的としている。 具体的には、中絶の非刑罰化論争、障害胎児の選別中絶をめぐる動きを取り上げ、①歴史、②変遷、③現状の3つの問題設定のもと、調査分析を行う。 ①歴史では、ブラジルでナショナリズムとともに広がった優生思想が具体的な政策に結びつかなかった要因を検証する。②変遷では、優生的な選別中絶の容認過程に焦点をあてる。 ブラジルでは中絶は刑罰の対象となっているが2010年代以降、選別中絶を進める動きがある。中絶と障害がいつどのように結びついたのかを考察する。③現状では、著しい経済格差がリプロダクティブ・ヘルスに及ぼす影響を明らかにする。
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研究実績の概要 |
ブラジル社会の優生思想と関連事象の全体像をつかむため、中絶の非刑罰化論争、障害胎児の選別中絶をめぐる動きに焦点を当て、①歴史、②変遷、③現状の3つの問題設定のもと、調査分析を行っている。 2023年度は、本研究に必要な情報や人的ネットワークの構築を行った。帰国後に、それらの情報の分析を行ったほか、複数の調査対象者へオンラインでのインタビュー(複数回)を実施した。特に近年顕著である感染症流行が及ぼす中絶議論への影響に注目して調査を進めた。その成果として、ブラジルの感染症(ハンセン病や、ジカ熱・デング熱などの蚊媒介感染症、新型コロナウイルス感染症)による影響の現状分析と感染症史に関して、関連する科研プロジェクト「感染症の人間学」第三回総会(2024年2月)にて鼎談メンバーの一人として、主にブラジルにおける感染症と社会格差の関連性、中絶議論への影響について発表を行った。感染症の専門家や歴史家、文化人類学者との意見交換を行うことで、今後の研究に関する示唆を得た。 また、ブラジルの公衆衛生史に関して文献調査およびインタビューを実施した。その成果の一部を、シンポジウム「ブラジルの貧困女性とリプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(京都外国語大学ラテンアメリカ研究センター主催)にて、「2000年代以降のブラジルの公衆衛生と出産・妊娠・中絶をめぐる議論」と題して発表した(2024年3月)。20世紀初頭からのブラジルの公衆衛生政策の傾向を、年代ごとに明らかにした。シンポジウムに出席したブラジル研究者や公衆衛生の専門家と意見交換を行った。 さらに、2024年度に実施予定の2回の現地調査に向けて、事前準備を行った。調査対象となる施設(病院などの医療関係施設)を選定しつつ、関係者(医療関係者や公衆衛生分野の研究者)と連絡を取り準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の流行と日本政府の出入国制限等があったため、初年度は現地調査を断念した。しかしながら、その後はブラジルでの現地調査を実施できており、順調に進展している。現地調査の回数は予定よりも少なくなったものの、(パンデミックの影響により)オンラインでのインタビューやデータ収集が容易になり、現地の研究者や調査対象者への聞き取りが随時行えるようになっている。 本研究課題に関連する科研プロジェクトにもメンバーとして参加しており、研究者らと意見交換や研究会を実施したり、発表を行うことは、本研究の進展にも寄与している。 現時点までの成果については、すでに口頭発表を行ったほか、論文(書籍原稿)も執筆中である。 2024年度に予定している2度の現地調査に向けて、現地の関係者とも連絡を取り合っており、申請の段階で予定していた施設等への訪問が実現予定である。これらのことから、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえたうえで、2024年度は8月と2月にブラジルの複数都市での現地調査を実施する予定である。現在、2度の現地調査に向けて、資料分析のほか、訪問予定施設や関係者との日程調整を進めており、順調に準備が進んでいる。 ブラジルではハンセン病患者の隔離と、患者と子供との引き離しが政策として実施された(2000年代に政府が正式謝罪)。政策としての不妊手術や中絶はなかったものの、非公式には中絶・死産目的の薬剤サリドマイドの摂取があったと言われているが、その詳細は明らかではない。2024年度の調査では、ブラジルの複数の旧隔離施設やMorhanなどの患者団体・支援団体を対象に、調査を行う。 合法中絶(ブラジルでは中絶は禁止されているが一部のケースでは合法)を実施する施設を訪問するほか、中絶合法化運動の活動家へのインタビューを実施し、プロチョイス団体内の異なる見解を具体的に収集する。意見対立や合法化運動の戦略形成の過程を明らかにすることを試みる。 2度の現地調査期間中のみでは十分に聞き取りが行えない場合は、調査によって得た人的ネットワークを活用して、帰国後に日本からオンラインでのインタビューを実施する。それによって、不足したデータの補足を行う。2024年度後半に、ブラジルの中絶合法化運動の中心人物(研究者)が日本に長期滞在する予定であり、関連する科研プロジェクトとも協働しながら、研究を進めて行く。また、中南米をフィールドとする公衆衛生分野の研究者との勉強会を2024年度も開催するほか、ブラジル研究者との研究会に引き続き参加する。
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