研究課題/領域番号 |
22K01103
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
|
研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
嘉原 優子 中部大学, 人文学部, 教授 (70333169)
|
研究分担者 |
柳谷 啓子 中部大学, 人文学部, 教授 (00220195)
山本 裕子 愛知淑徳大学, 交流文化学部, 教授 (20410657)
大谷 かがり 中部大学, 看護実習センター, 助教 (60535805)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 老年介護 / 異文化間介護 / インドネシア / 日本語 / コミュニケーション / 文化 / 宗教 / 持続可能性 / 超高齢化社会 / 異文化介護 / インドネシア人 / 異文化理解 / 日本語教育 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、異文化間老介護において生じる社会的文化的障壁を文化人類学的知見によって克服することを目指す応答の人類学的研究である。 「介護」は身体接触が不可避な領域であるため、帰属する社会・文化によって異なるパーソナルスペースや身体観、食事や入浴、排泄をめぐる衛生観念に関する理解が必要不可欠である。また望ましいとされる介護者と被介護者の関係性の相違や「老い」や「死」の捉え方を考慮に入れる必要がある。本研究では、インドネシアと日本における異文化間老年介護に惹起される重層的な困難さと解決すべき社会的文化的課題を示し、持続可能な老年介護教育のあり方を提言する。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、異文化間老年介護において生じる社会的・文化的問題を、文化人類学、医療人類学、宗教学、社会学、日本語教育学といった学際的観点から明らかにし、その解決策を検討するものである。2023年度は、2022年に来日し、愛知県内の施設で就労中のインドネシア人看護職員4名への継続的インタビューを実施し、就労内容の理解やコミュニケーション上の問題、社会生活を送る上での困難点などの聞き取りを行った。2年目に入った彼らが日々の経験の中で理解し対応できるようになった問題や経験を積んだことによって新たに生ずる困難点などを記録した。 日本とインドネシアのそれぞれ500人前後の若年層を対象に「老人観・身体観・衛生観」に関するアンケート調査を看護・介護を学ぶ集団、日本語を学ぶ集団、それ以外の集団に行った。その集計結果をもとに、介護に知識のある集団とそうでない集団や両国の若年層における老年介護をめぐる意識の差異について、検討・意見交換を行なっている。 8月、2月には、ジャカルタとバリの複数の技能実習生送り出し機関の協力を得て、来日前研修の実態を観察・記録し、機関責任者、研修にあたる指導者へのインタビューを実施した。近年、急激に送り出し機関が多数設立され、指導者の中には日本語教育を学んでいない者、指導力不足な者も見られるが、多くが日本へ好意的な人々で、生徒たちを日本に送り出すことに熱意を持って取り組んでいることがわかった。機関のカリキュラムや教授システムを確認することで、日本語能力試験N4取得のための指導に終始し、実用的な日本語能力の習得には至っていないことが明らかになった。そのような中でも日本からの採用の申し入れは引きも切らず、連日、対面のみならずリモート面談も実施され、採用が決まっていく実態を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャカルタ・バリの技能実習実習生送り出し機関の協力を得て、日本入国前の日本語研修調査を実施することができた。送り出し機関の多くが全寮制で、日本語の授業を中心に日本の文化、社会生活を送る上でのマナーを学び、規則正しい共同生活の中で研修を受けている実態を確認した。生徒は、18歳から20代半ばまでが多く、食事の用意や洗濯、掃除等も彼ら自身で行なっている。朝礼時など集団行動が必要なときは、動きも発声もかつての日本の軍隊のようで、その時代錯誤に違和感を感じることもあった。そこまで厳しく集団行動を叩き込む意図について指導者に確認すると、ここまでやっておくと実習生が日本で困ることがないからとのことであった。 生徒たちの就学動機は、かつては「日本に憧れて」という回答が多かったが、現在では経済的な理由によるもので、ジャカルタやバリといった大都市の機関には、インドネシア全土から集まっており、日本についての予備知識がほとんどないまま送り出し機関に入学した生徒も多いことが明らかになった。 インドネシアでも徐々に「介護」という概念が認められつつあるが、老年介護事情は従来とはあまり変わらず、インドネシア人には「年寄りの面倒は家でみる」ことが理想であり、施設に預けることを極端に忌避する傾向が強いことがわかった。しかし、それは、施設に問題があるからというよりも、彼らが身内を一人きりにすることを良しとしないこと、すなわち価値観が理由であると考えられる。 現在、日本で介護職として就労しているインドネシア人は、概ね日本の施設の規範に順応していっているが、就労や就労の継続は個人的資質によるところが大きいと思われる。外国人介護福祉士をめぐる制度のあり方について、彼らの就労実態を把握した上で改正することの必要性が明らかであることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、インドネシア人大学生と日本人大学生を対象に行った「老人観・身体観・衛生観」のアンケートの結果をそれぞれにまとめ、科研メンバー各自がそれぞれの学問領域において双方を分析・比較を行い、論文を発表する。 国内のインドネシア人介護福祉職員受入機関において、来日後の研修にオブザーバーとして参加し、施設側が抱えている不安や懸案事項について確認する。インドネシア人介護職員との間に生じている諸問題を記録し、解決策についてともに検討する。また、愛知県下の外国人介護職員の就労する老人介護施設において、彼らと利用者のやり取りを観察し、記録する。双方へのインタビューも予定している。 11月には中部大学にて国際シンポジウム「異文化間老年介護における文化的障壁について考えるーインドネシア人介護職人材を中心にー」(仮題)を開催する。インドネシア・マハサラスワティ大学からベティ・アリトナン氏(日本語教育)を招き、国内からは小笠原広実氏(医療法人偕行会)、合地幸子氏(東洋大学)をゲスト・スピーカーとして招く予定である。本科研メンバーである嘉原優子は異文化間老年介護に関する基調講演を行い、山本裕子はインドネシア人介護職に必要な日本語教育について、柳谷啓子は会話の意味内容の重層性について、大谷かがりは老年介護上の諸問題について、それぞれの学問領域に基づき研究成果を発表する。他に、ジャカルタの送り出し機関の生徒を対象に、リモートで日本語フリートークの講師としてボランティア活動をしている大学生からの情報提供も検討している。 これまでの調査結果をもとに、科研メンバーそれぞれが学会発表、論文発表などで、研究成果を発表するとともに、国際シンポジウムについては報告書を作成する。 引き続き、2022年に来日したインドネシア人介護職員に対して、経験を積むことによって起こる意識の変遷について追跡調査を実施する。
|