研究課題/領域番号 |
22K01111
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
仲正 昌樹 金沢大学, 法学系, 教授 (10303249)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
|
キーワード | ポストモダン法学 / 保守主義 / 法治国家 / 法の形式 / 生権力 / 政治神学 / 正常性 / 規範 / 異常性 / ホモ・サケル / 政教分離 / アーキテクチャ / ニューノーマル |
研究開始時の研究の概要 |
「規範」に従って行動する理性的な主体を前提とした近代法理論に代わる、ポストモダン法学の方法論を確立したうえで、それに対応する新しい正義論を呈示する。社会環境の中で生きる各個人に「普通さ normality」の感覚を身に付けさせるものとして、「法」を捉え直したうえで、「普通さ」を社会的想像力によって変容させる可能性とそのための基本的権利の必要性を、フェミニズム法学や医事法学の知見を踏まえて探究する。
|
研究実績の概要 |
研究課題の中核的なテーマであるカール・シュミットの法理論に見られる、法の規範=正常性(normality)の形成作用に関連する二つの論文『シュタールとシュミット』と『〈法〉的形式について―ーシュミットから見たゾームとシュタムラー』を、『金沢法学』で公表した。前者では、法思想的な保守主義とはいかなるもので、それが法治国家理念とどう関係するのか、異なったタイプのドイツの法学上の保守主義者であるシュタールとシュミットの対比を通して明らかにした。一九世紀前半のプロテスタントであるシュタールの場合、政教分離が前提になるのに対し、カトリックで危機の時代の法学者であるシュミットの場合、法治国家理念自体はさほど重要ではなく、むしろ主権者の下での政教一致、国家統合の重要性が強調されていることが分かった。後者の論文では、通常の法実証主義とは異なる、より具体性を帯びた意味での「法」の「形態(形式) Form」をめぐる議論が、どういう意味を持つか、カール・シュミットの問題提起を起点に考えた。シュミットが参照した、カトリックの位階制における「フォルム」概念を批判したルドルフ・ゾームと、法と経済の関係を、質料と形式の関係として捉え直そうとしたルドルフ・シュタムラーの議論をシュミットの視点から再考し、法を「フォルム」として捉えることが、法の社会的機能の理解にどのように関係するか明らかにした。また、これら二つの論考を将来の書籍化に向けて、他の研究者の意見を踏まえた修正すると共に、紀要論文としての分量上の制約から論じられなかった問題を、補論としてまとめている。前者については、ピーター・ドラッカーの「生きた保守主義」にのシュミット及びシュタールへの関係ついて、後者についてじは、ハンス・バリオンのカトリック的なゾーム主義の意義とシュミットに対する関係について論じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の中心的なテーマであるカール・シュミットの法理論について、従来の法学的なシュミット研究では明確になっていなかったベンヤミン、フーコー、アガンベンなどポストモダン系の社会理論との関係を、「正常=規範性」という観点から明らかにした後、シュミットの「法」概念の基礎をより掘り下げて明らかにすべく、一九世紀のプロテスタント系法哲学者・教会法学者であるフリードリヒ・ユリウス・シュタールとルドルフ・ゾームの体系との違いを研究し、シュミットの「法」理解が、彼独自のカトリシズム理解、特に位階制と表象をめぐる考察に根ざしていることを明らかにした。また、新カント学派のマールブルク学派の影響を受け、マルクス主義やウェーバー社会学と微妙な緊張関係にあり、日本の初期の法哲学にも大きな影響を与えたルドルフ・シュタムラーの法概念とシュミットの接点を探り、シュタムラーが、人々の生活を規制する「フォルム(形態)」としての「法」を、より正しい法への探求へと人々を駆り立てる進歩主義的なニュアンスをもったものとして捉えられているのに対し、シュミットにあっては「フォルム」としての「法」がそれまで通用し、生活に定着している「規範」を人々に保持させる保守的な性格のものとして把握されていることを明らかにした。こうした一連の研究を通して、シュミットの理論が、単に「主権者」による決断という形で、自由民主主義的=法実証主義的な法理論と対峙しているだけでなく、人々の日常性を具体的に規定する「規範=正常性」をいかに維持、再建するかを視野に入れた、包括的な法理論であることが見えてきた。ただし、シュミットに重点を置きすぎて、フーコーやポストモダン系の思想家、情報関連法についての考察がやや手薄になった感があるので、課題最終年度である2024年度には、その方面をより包括的にカバーする研究を進めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の完成年度である本年度は、これまでシュミットと彼に直接関係する法理論に関する考察に力を入れすぎて、人間のアイデンティティ形成や民主主義的プロセスを通しての相互変容をめぐるポストモダン系の法理論や情報法関連分野での考察が少し手薄になっていたので、この方面の研究を進めたい。具体的には、①「政治」を通常の意味での民主主義でも、シュミット的な意味での決断でもなく、また、ムフやラクラウのヘゲモニー論とも微妙に異なる「感性的なもの」の「パルタージュ(分与、分割)」という視点から捉えた、フランスの哲学者ランシエールの政治理論を、「法」との関係、特に、シュミットの決断主義的法理解との違いが分かるような形でとらえ直すことと、②公的空間における言論にによるヘゲモニー形成をめぐる闘争(ラクラウ=ムフ)が、市民のアイデンティティ形成、多数派/少数派の力関係にどのような影響を与えるか、言論の自由の人類史的な意味を問うムシャンガマの「言論の自由全史」や、憲法学者サンスティンのチョイス・アーキテクチャ論等との関係も踏まえながら、研究を進めていく。最終的に、「法」がその社会の「規範=正常性」をどのように構築・変容し、人々の主体性の形成にどのように関与するか、新型コロナ問題に際して浮上した「ニュー・ノーマル」をめぐる議論も踏まえながら、総合的なビジョンを示すことを試みたい。
|