研究課題/領域番号 |
22K01170
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05030:国際法学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
嶋 拓哉 北海道大学, 法学研究科, 教授 (80377613)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | インターネット / 知財権侵害 / 不法行為 / 法定専属管轄 / 暗号資産取引 / 分散型台帳システム / 国際裁判管轄 / 準拠法 |
研究開始時の研究の概要 |
インターネット上の不法行為は地理的特定性に乏しい。他方,伝統的な抵触法体系では,裁判をいずれの国で行うか(国際裁判管轄),どの国の法に基づき実体判断を行うのか(法適用関係)といった問題は,「不法行為地」という地理的特定性を有する要素を基準として決定される。伝統的な法体系とインターネット利用の間にはこうした緊張関係が存在するが,本研究では,インターネット上の知財権侵害を対象に据えて,国際裁判管轄および法適用関係に関する課題を網羅的に検証するほか,オフラインを前提とする既存の法体系を見直し,オンライン上の侵害も包括する形で,不法行為を巡る新たな抵触法体系の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
令和4年度は本研究課題に関連して,特にインターネットが抵触法体系に及ぼす影響を中心的な題目として検証作業を行い,自身の見解を論文として公表するに至った。わが国の法体系では,オンラインとオフラインとで異なる法規制体系を用意しておらず,所謂二重性(duality)は存在しない。従って,オンライン上の活動であってもオフラインを前提とした一般規定による規律が及ぶこととなる。しかしながら,オフラインを基礎とするこれまでの抵触法では地理的連結点を重視してきたものの,オンライン上の活動は地理的要素が希薄であり地理的特定性に欠ける。それ故に伝統的な抵触法体系とインターネットの利用との間には緊張関係が生じることとなる。令和4年度の調査研究活動においては,民訴法3条の3第5号の国際裁判管轄規定,分散型台帳システムによる暗号資産取引,電子的な手段による域外送達や刑事手続における域外的な証拠収集と執行管轄権による制限との関係等について各々検討することを通じて,伝統的抵触法体系とオンライン上の活動との間に生じる,かかる緊張関係を具体的に説明し,かつ詳細に分析することが出来たと考えている。 次に,登録知財権を巡る国際的な法定専属管轄規定(民訴法3条の5第2・3項)を対象とする調査研究を実施し,その成果を論文として公表した。この規定を巡っては,立案担当者の見解及び通説は反射的効果を肯定するほか,登記・登録の移転・抹消請求訴訟をその対象に含めるが,本研究では,欧州連合ブリュッセルIbis規則24条等を対象とする比較法的視点をも採り入れた結果,いずれの点についても立案担当者の見解・通説は説得的とは言い難いとする見解に辿り着いた。 なお,本研究課題の周辺論点として,不法行為地管轄(民訴法3条の3第8号),不法行為準拠法(法の適用に関する通則法17条)に関する研究も実施し,判例評釈として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の感染拡大の影響等もあって,当初購入を予定していた書籍の刊行が遅れたり,資料収集のために必要な国内出張が延期される等の事情で調査研究活動が滞っている箇所があることは否めないものの,他方で,既に手許にある書籍・資料を活用することで,着手可能な箇所から順次,調査研究活動を実施している。 その結果,近時盛んになっているオンライン上の活動と伝統的な抵触法体系との緊張関係について,詳細な分析を加え,論文として公表することが出来た。その中で,地理的要素に希薄なオンライン上の活動と地理的連結点を重視する伝統的な抵触法体系とを対比し,そのギャップを如何に埋めていくべきかについて,考察に必要な視点を得ることが出来たと考えている。加えて,登録知財権を対象とする国際的な法定専属管轄規定について,立案担当者の見解及び通説とは異なる,独自の私見を構築し,同じく論文として公表することにも成功した。文献の入手や資料収集に制限がある中で,これらの成果を論文という形で公表出来たことは,本研究の滑り出しとしては上々ではないかと自己評価している。また,判例評釈等の比較的小規模な成果物ではあるものの,本研究課題の周辺事項(不法行為一般に関する国際裁判管轄と準拠法の問題等)に関する調査研究にも並行的に着手し,着実に成果を上げることが出来たとも考えている。 以上のことを踏まえると,本課題を巡る調査研究活動は概ね順調に進展しているものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の後半に至って,当初購入を予定していた書籍がようやく刊行され始め,次第にではあるが,本研究に必要な書籍や資料が手許に入るようになってきた。令和5年度においては,こうした文献を渉猟することにより,オンライン,オフラインを問わず,知財権侵害に起因する抵触法上の問題を採り上げて,検討を行うこととしたい。具体的には,国際的な不法行為地管轄(民訴法3条の3第8号),不法行為を巡る準拠法規定(法の適用に関する通則法17条以下)がその研究の中心になると思われるが,その中でも特に,知財権の属地主義原則がこれら抵触法規定に及ぼす影響について検討を加えることを予定している。わが国でも近時,知財法研究者から知財権の属地主義原則に対して懐疑的な見解が示されるに至っており,こうした実体法研究者による成果も織り込んで,この論点についてじっくりと腰を据えて取り組むこととしたい。 また,知財権侵害に止まらず,より広く不法行為一般に関する基本問題の検討も併せて実施する。知財権侵害と言っても,それは不法行為の一類型であり,不法行為一般に関する基本問題の精査は本研究の遂行にとっても必要不可欠である。不法行為一般に関する基本問題の精査に当たっては,現在の裁判実務および通説的見解の見直し・再検証を徹底的に行い,そのことを通じて理論的な問題点の洗い出しを行うこととしたい。
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