研究課題/領域番号 |
22K01176
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05030:国際法学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西谷 祐子 京都大学, 法学研究科, 教授 (30301047)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 企業の社会的責任 / ビジネスと人権 / デュー・ディリジェンス / SDGs / 国際私法 / 気候変動訴訟 / 責任あるサプライチェーン / 国際社会の共通利益 |
研究開始時の研究の概要 |
グローバル化が進み国際取引が活発化する中で,先進国に本拠を置く多国籍企業がグローバル・サプライチェーンを展開し,途上国で子会社や請負業者等を通じて深刻な人権侵害や環境汚染が引き起こした場合に,いかにして親会社に責任を負わせるかが問題となっている。国際私法を用いた司法的救済には限界があり,国際人権法及び通商法,各国におけるデュー・ディリジェンス法,そしてソフトロ―の意義など,多様な法領域にも目配りをして解決策を検討する必要がある。本研究課題は,米国及び欧州との比較法的視点も踏まえて,企業の社会的責任を実現する方策について,多角的かつ分野横断的に検討する。
|
研究実績の概要 |
本研究課題は,グローバル化の中での企業の社会的・法的責任のあり方及びサプライチェー上での人権保障及び環境保護等のあり方について,比較法的視点を踏まえて検討することを目的としている。日本においても,企業のデューディリジェンスのあり方は,ユニクロ事件をきっかけとして関心が高まっており,2022年9月には経産省がガイドラインを公表している。日本では,法制化の動きはまだないが,欧州連合(EU)においては,EU指令を策定することで,域内市場において企業のデューディリジェンスの水準を平準化することが期待されており,2022年3月には欧州委員会提案が公表されたところである。日本においても今後は法制化を視野に入れた検討が必要になろう。 欧州委員会提案は,企業活動上の「ビジネスと人権」のみならず,気候変動への対策も対象としている。オランダ・ハーグ地方裁判所2021年5月26日シェル事件判決では,7つの環境保護団体が気候変動の要因になっているとして,ロイヤル・ダッチ・シェルに対して将来に向けたCO2排出量の削減を求めたところ,2030年までに2019年比で45%CO2の排出量を削減するよう命令が下され,注目を集めた。もっとも,私人間の気候変動訴訟において企業の不法行為責任を問おうとすると,因果関係,行為の違法性,損害の未発生,差止請求の可否,特定の企業だけを対象とすることの不公平さなどが問題となる。ドイツのハム・ラント上級裁判所では,ペルーの農民が温暖化とアンデス山脈の氷の溶解によって湖の水位が上昇しているとして,洪水対策費用の0.47%をドイツのRWE社に対して請求した事件が係属しており,どのような判決が下されるか注目される。気候変動については,欧州委員会提案も企業の不法行為責任を問わず,対策を促進することをめざしており,さらに検討を進めたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の事業計画を立てた段階から,ビジネスと人権の問題は注目を集めつつあったが,この間,さらにEUで法制化の動きが進み,国内外で様々な論稿が公表されるなど,議論が活発になっている。しかも日本国内についてみても,国際公法・国際私法の観点からだけではなく,憲法,行政法,会社法や消費者法などの多様な分野の学者がそれぞれの視点から議論するようになっており,注目すべき動きが出てきている。コロナ禍に対する対応と社会の再構築をめぐる様々な課題も,ビジネスと人権の視点から取り上げるのが有意義であろう。このような状況の中で,本事業計画はまさに時宜を得た研究課題を取り上げており,研究対象として様々な論稿が発表され,国内外の経済界及び政界の動向も活発になっていることから,十分な研究素材が提供されており,研究代表者が研究を遂行する中で常に多様な新しい課題を発見し,様々な方向から掘り下げる努力を行っている状況にある。このような次第で,本事業は順調に進んでおり,コンスタントに論稿も発表していることから,充実した成果を挙げることができると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
企業のデュー・ディリジェンスをめぐって国内外で様々な議論が進む中で,本事業においては,今後さらに比較法的視点からEU,スイス,米国などの動向を注視していくほか,アジア諸国においてどのような方向で議論が進むのか,研究を進めることを予定している。特に英国の影響下にあるマレーシア,シンガポール,香港などでは,英国と同様の現代奴隷禁止法制が検討されているとされ,他のフィリピンやベトナム,インドネシアなどの動向も含めて,アジアの発展の方向性を探ることにしたい。これは,いわゆるグローバルサウスの視点からの企業のデュー・ディリジェンスを問うという意味で,理論的観点から興味深い動向であるうえ,日本企業がアジアにおいてビジネスを展開する際にも実践的な意味をもつ問題である。その意味では,本事業において企業のデュー・ディリジェンスのあり方を広範な比較法的視点から考察することで,充実した研究成果を挙げることができると期待される。研究代表者は,2023年8月にシンガポールでの国際シンポジウムにて研究発表を行う際に,各国から参加する研究者とも積極的に交流する予定であり,東南アジア諸国の動向について詳しい研究者ともコンタクトを取り,意見交換を行うことを予定している。また,研究代表者は,英国の研究機関とも国際共同研究を行う中で,コロナ後の社会の再構築について考察し,欧州及びアジア諸国における「ビジネスと人権」の視点から責任あるサプライチェーンを構築する方策について検討を行っており,そこで得られる知見も本事業における研究へと昇華し,より大きな企業のデュー・ディリジェンスに関する問題として考察を深めていく予定である。
|