研究課題/領域番号 |
22K01243
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
千手 崇史 近畿大学, 経営学部, 准教授 (80631499)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 業務財産検査役(業務執行検査役) / 商法・会社法 / 非訟事件手続法 / 株主の情報開示請求権 / 制度趣旨・位置づけ / 監査役 / イギリス会社法(Companies Act) / 業務財産検査役 / 商法改正 / 会社法 / 司法権 / 株主の情報収集権 / 情報開示請求権 / 会社調査権 / イギリス検査役(Inspector) / イギリス法 |
研究開始時の研究の概要 |
会社不祥事が疑われるとき、株主は取締役に対して権利行使(責任追及など)が可能だが、その根拠となる資料・情報が必要である。日本法は会社内部の情報を直接株主が取得する制度が機能しているが、これは情報漏洩の危険を伴う。一方、日本法は裁判所が弁護士を選任して会社を調査させる「検査役」制度も併有し、これは情報漏洩の危険が極めて少ないにも関わらず殆ど用いられない。 本研究は、検査役制度のモデルであり、今でもスムーズに機能しているイギリス検査役との徹底的な比較を通して、日本検査役の機能不全の原因、これを機能させるのに必要な要因を見出し、日本検査役制度の再構築を提言するというものである。
|
研究実績の概要 |
本研究は、会社の不祥事が疑われる場合などに「株主が会社の情報をいかにして得るか」というテーマに関するもので、以前若手研究の科研費(19K13576)を受けて遂行していた研究の続きとなる。若手研究の過程で、守秘義務を負った第三者(弁護士など)に会社情報を調査させる業務財産検査役の仕組みに可能性を感じ、本科研費を用いてさらなる研究を進めている。【1】日本において検査役の利用を妨げる原因は何か、【2】母法であるイギリス法におい検査役制度の利用を促進する要因はあるのかという本研究の二つの柱のうち、2023年度は【1】の研究を続行し、研究成果を「なぜ日本の株式会社における業務財産検査役はあまり利用されなくなっているのか?― 制度の変遷と制度趣旨・位置づけの見えざる変化 ― 」(商経学叢70巻3号91頁以下(2023))として公表した。同稿は、明治23年商法の立法時から現代までの日本の業務財産検査役制度の規定の変化・判例の変遷にとどまらず、各改正時の時代背景や周辺諸制度の動き、また表に表れにくい制度趣旨や学説の変化に至るまで丹念に調査検討したものである。通常の論文5本分の長編となり、先行研究が見落としていた点も複数盛り込むことができた。 研究の結果、検査役制度の利用を妨げる原因はこの制度の性質そのものにあること、一方それは本制度の長所でもあるが見逃されがちであることが判明した。内容について、本研究は論文別刷りを郵送する形で90名を超える研究者や実務家へと送付し、概ね高い評価を得ている。 また、2023年度は検査役制度に関連の深い会計帳簿閲覧権についての研究を深める機会も賜り、研究成果につき判例研究「「実質的競業関係」の拒絶事由に該当するとして会計帳簿閲覧・謄写請求が退けられた事例(東京地判令和2年3月4日) 」(月刊税務事例55巻12号72頁以下(2023))として公表できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
遅れている理由は概ね2022年度と同様である。第一に、これの前提となる若手研究がコロナウイルスの影響で大幅に遅れ、その遅れを本研究が引き継ぐ形となっており、遅れを取り戻すべく最大限の努力を続けている。第二に、2023年度も調査過程で当初想定していなかった検討事項に多く気づいたが、これらもきちんと検討することが学会や社会へ貢献することに繋がると考え、遅れを厭わず検討することとした。前掲商経学叢70巻3号の拙稿が10万文字を超える長編になったのはそのためである。検討期間も当初予定より大幅にかかってしまったが、申請者はそれには意味があったと考えている。同稿の脱稿後直ちに、「外国法において検査役(やそれと同じ機能を営む)制度の利用を促進する要因」を探るために、母法であるイギリス法の仕組みとイギリスの検査役等を取り巻く法規制の変遷を中心に、イギリスのEC加盟とEU脱退(Brexit)の時点におけるEU法の様子とイギリス会社法へ与えた影響に至るまで意欲的に調査を続けている。イギリス法についても検討すべき事項が当初より多く見つかっているが、残り時間との関係でできるだけ効率よく(但し、無用に研究を簡略化せず必要な論点にはきちんと労力を割いて)研究を続ける計画である。なお、本報告の時点ではイギリス法の論点の一つについて8000文字程度執筆しており、前年度よりも多くの資料を既に収集している。現在の研究を発展させた研究成果を一つでも多く公表できるように全身全霊を尽くす。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の前提となる若手研究において、イギリス検査役についての現行法の概要と主要な判例の紹介は簡単に済ませている(商経学叢69巻2号191頁以下(2022))。同稿で、日本の検査役とイギリス検査役の法的性質の違いも簡単に紹介した。 本研究においては、上記研究を出発点として、その先にある個別論点について、国内でまだ紹介されていない点を特に重点的に調査・検討の対象とする予定である。日本法上の業務財産検査役とイギリス会社法上の検査役との間の顕著な違いである検査役の調査権の範囲、また、調査の過程で検査役が調査対象会社の秘密情報に触れてしまった場合の扱いの違いなどが特に興味深く、日本の検査役について何らかの示唆を与えうるのではないかと現時点で感じている。もっとも、かかる先入観に過度に囚われることなく、「日本の企業社会のために現在何を論ずるべきか」という広い視野に立ったうえで調査検討を続ける。その際には、当然のことながら「日本の検査役をさらに実務で活用する方策」についての視点も忘れないよう心がける。なお、イギリス会社法についても日本法同様に、複数ある法律の大きな転換点の前後について、それぞれの文献を数多く入手して比較検討を開始しており、また、現在はイギリス法に影響を与えた可能性のあるEC法・EU法に至るまで範囲を広げて調査を行っている。2024年度は当該研究をさらに意欲的に推進することを計画している。
|