研究課題/領域番号 |
22K01277
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
橋口 賢一 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (40361943)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 身体拘束 / 精神科病院 / 不法行為 / 身体的拘束 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は,精神科病院における身体拘束に関する民事責任の総合的検討にある。身体拘束を巡っては現状肯定派と否定派の対立があるが,近時現れた名古屋高裁金沢支判令和2年12月16日が注目される。病院管理者に負担を顧みずそれを回避すべく組織変革に努めたかという観点から判断したものであり,いわゆる組織過失論とリンクさせ理論構築できれば,膠着状態にある現状を打破できそうである。 本研究は,上記も含めた従来の裁判例や学説の議論動向,議論の蓄積があるドイツの議論動向から一定の示唆を得て,精神科病院における身体拘束に係る妥当な民事責任論の構築,また制度上対応できない点には望ましい立法論を提示するものである。
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研究実績の概要 |
研究業績の概要は,下記の2点に纏めることができる。 第1に,本年度も,昨年度に引き続き,身体的拘束の違法性が争点となった裁判例のみならず,関連する(裁)判例の検討も行った。その中でもとりわけ,精神科病院に任意入院しようとする患者に対する入院先の選択機会の保障に係る説明義務について判示した最高裁令和5年1月27日判決に着目した。同判決は,医療水準内の措置であっても,他の医療機関に比して患者への危険性が特に高ければ,患者の生命身体法益に鑑み説明義務の内容となるとしたほか,医療水準を上回る措置であっても,患者の意向が医師に具体的に示されていれば説明義務の対象になりうるとしたものである。 公刊した評釈では,真っ先に精神保健福祉法20条に基づいて,自傷他害防止策の程度だけでなく,患者の自律性をも考慮すべきとしている点に着目した。身体的拘束の絡む事案ではなかったが,この研究から示唆が得られた。すなわち,精神科病院における身体的拘束を含む諸々の措置にあっても,それを施すことにつき当該患者の意思を十分考慮に入れて判断しなければならないという点である。わが国の裁判例の傾向を纏める作業においては,精神保健福祉法法36・37条や厚労省の告示の解釈にばかり目がいきがちであるが,併せて,包括的同意については議論があるが,患者自身の意思をどのように違法性判断に取り込んでいくかという視点をより意識する必要性に思い至った次第である(自律性がキーワードの1つである成年後見制度改革にもリンクする視点である)。 第二に,精神保健福祉法改正に係る資料に当たり,精神科病院設置者の組織編成に関する言及が様々な場面で見られ,本研究の方向性と同じであることを確認することができた。これにより,本研究の注目する,名古屋高裁金沢支部令和2年12月16日判決は,この文脈に位置付けて理解するべきであると思うに至った次第である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況を「やや遅れている」とした理由としては,下記の2点を挙げることができる。 第1に,名古屋高裁金沢支部令和2年12月16日判決にとりわけ着目して,従来の一連の裁判例を(学説も参照しながら)纏めたものを2023年度中に公刊する予定で進めていくなかで,最高裁令和5年1月27日判決の研究で得られた示唆や,精神保健福祉法改正や「入院料の通則」への「身体拘束最小化」の基準追加が今後この領域に与える影響など,研究を纏めるにあたって避けては通れない検討課題が明らかになったからである。 第2に,本研究への示唆を得るべく,ドイツの議論の状況についても様々な資料に当たって調査しているが,直接参考になりそうな研究は未だ見つけられずにいるからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,以下の2点を考えている。 第1に,わが国における現状を取り纏めて,今後のあるべき解釈論を提示する。研究開始後も,精神科病院における身体的拘束の違法性に係る裁判例や関連する裁判例が引き続き出ているため(提訴についての報道もあった),それらをなるべく網羅して体系化するのと並行して,①患者自身の意思をどのように取り組むべきか(包括的同意の議論の推移も押さえながら),②精神保健福祉法改正を受けての解釈論の方向性のあり方,③「入院料の通則」に「身体拘束最小化」が基準として新設されたことの評価,などの課題を検討して自らの立場を確立する。 第2に,ドイツにおける議論を様々な史料にあたって引き続き調査して,示唆を得るように努め,得られた示唆を上記第1で述べた「あるべき解釈論」に反映させる。
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