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予防原則の実体的統制―アメリカ環境法における「利用可能な最善の科学」論に注目して

研究課題

研究課題/領域番号 22K01282
研究種目

基盤研究(C)

配分区分基金
応募区分一般
審査区分 小区分05070:新領域法学関連
研究機関名古屋大学

研究代表者

赤渕 芳宏  名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (60452851)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
キーワード環境法 / 予防原則 / 利用可能な最善の科学 / リスク管理 / 絶滅の危機にある種に関する法律
研究開始時の研究の概要

環境法の基本原則の1つである予防原則は、科学的不確実性を伴うリスクの法的規律を許容する考えである。同原則をめぐっては、①それに基づく行政決定の手続や組織の適切さに着目するアプローチ、及び②それに基づく行政決定の中身の適切さに着目するアプローチから、その適用の統制のあり方が検討されている。
本研究は、②の実体的なアプローチのうち、行政決定の根拠となる科学的知見の適切さといった観点から、アメリカ環境法における〈利用可能な最善の科学〉概念に注目し考察を行う。科学的に不確実なリスクを規律する行政決定の統制にあたって同概念が果たす機能を同定し、これを予防原則の適用条件として採用することの妥当性を検討する。

研究実績の概要

2023年度は、次の2つの作業を進めた。
ひとつは、「利用可能な最善の科学」概念の解釈をめぐる裁判例の分析である。ここでは、気候変動に伴う環境変化によって北極域に生息する野生動物種が絶滅するおそれがあるとして、当該種を「絶滅の危機にある種に関する法律」(ESA)に基づく保護対象種に指定する行政決定が争われた裁判例を、対象として取り上げた。こうした行政決定は、比較的遠い将来(たとえば2100年)までに当該種が絶滅してしまうおそれがあることを理由とするものであり、こうした〈おそれ〉を根拠づける科学的知見には相当程度の不確実性が伴う。この点、分析対象とした近時の裁判例によれば、同法に基づく行政決定は「利用可能な最善の科学」に基づくものであることが求められるが、行政決定の根拠となる科学的知見が高い水準の〈確からしさ〉を備えていること(具体的には、気候変動による野生動物種への影響が定量的かつ確実的な知見をもって示されること)は、それが「利用可能」な知見であり、かつ「最善の」知見である限りにおいては、必ずしも要求されないと解されていることが確認された。
もうひとつとして、2022年度に引き続き、アメリカの環境法学説にみられる〈ESAでは予防原則が具体化されている〉との理解につき、その根拠を明らかにする作業を行った。これは、本研究を進めるにあたっての前提を再度確認しようとするものである。ここでは、連邦最高裁判所判決であるTenn. Valley Auth. v. Hill, 437 U.S. 153 (1978)が言及する「制度化された注意」(institutionalized caution)を予防原則と結びつける見解を吟味するべく、同判決が参照する同法の立法資料の調査を行い、それが科学的不確実性を伴う環境リスクをも射程に置くものと解されうるのかにつき検討を加えた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究2年目である2023年度には、前年度に引き続き、「利用可能な最善の科学」概念に関する裁判例および学術文献の渉猟と分析とを行うことを計画していた。このうち、裁判例の分析については、ESAに関する近時の主要な裁判例を対象に、分析結果をまとめることができた。また、学術文献の収集、分析にも一定程度の進展がみられた。
しかしながら、それ以外については、主に次の2つの理由から、想定されたほどには進んでいない。第1に、「研究実績の概要」の第2点に示した、当初の研究計画に含めていなかった(が本研究において重要な)検討作業に一定の時間をかけて取り組んだものの、思ったほどの成果を得られなかったことである。これについては、調査・分析にある程度まとまった時間を要する課題であると考えられることから、本研究課題とは別に、機会を改めて取り組むこととした。第2に、本研究課題の計画時には予期していなかった研究以外の作業(ひとつは本務校における組織運営業務、もうひとつは所属機関の異動に伴う準備等)の発生により、当初予定したエフォートを充当することができなかったことである。
以上を総合して判断した結果、上記の区分のように評価した。

今後の研究の推進方策

研究最終年度にあたる2024年度は、ESAにおける「利用可能な最善の科学」概念に関する学術文献および裁判例の分析結果を整理し、同概念が、科学的不確実性を伴うリスクの規律を目的とする行政決定の統制において、いかなる機能を果たしているかを明らかにする。これを踏まえ、わが国において同概念を予防原則の適用条件として採用すべきか、採用するとした場合にいかなる点に留意すべきか、につき検討する。
もっとも、2024年度は、所属機関が変更された最初の年度にあたり、本研究課題の計画時に予定していたエフォートを充てることができるか、本報告書の作成時点では見通すことができない。状況によっては研究期間の延長を申請することも視野に入れている。
なお、所属機関の変更に伴い、変更前の所属機関では使用することができ、本研究課題の遂行においてももっぱら活用してきたアメリカ法のデータベース(Westlaw、Hein Online)が、変更後の所属機関では使用することができなくなった。本研究課題に係る補助事業期間中にこれらが使用可能となる見込みもない。こうした研究資料へのアクセシビリティの低下については、何らかの工夫を講じ、課題遂行の大きな妨げとならないようにしたい。

報告書

(2件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 研究成果

    (4件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] アメリカにおける気候変動と種の保存(2・完)――将来予測の不確実性をめぐる近時の裁判例の検討2023

    • 著者名/発表者名
      赤渕 芳宏
    • 雑誌名

      環境法研究

      巻: (17) ページ: 95-125

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [雑誌論文] アメリカにおける気候変動と種の保存(1)――将来予測の不確実性をめぐる近時の裁判例の検討2022

    • 著者名/発表者名
      赤渕 芳宏
    • 雑誌名

      環境法研究

      巻: (15) ページ: 79-114

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] アメリカにおける予防原則の適用の一断面――「絶滅の危機にある種の保存に関する法律」に関する近時の裁判例を素材として2022

    • 著者名/発表者名
      赤渕 芳宏
    • 学会等名
      環境法政策学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [図書] 判例アメリカ環境法2022

    • 著者名/発表者名
      辻雄一郎、下村英嗣、赤渕芳宏、黒川哲志、久末弥生(編)
    • 総ページ数
      208
    • 出版者
      勁草書房
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書

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公開日: 2022-04-19   更新日: 2024-12-25  

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