研究課題/領域番号 |
22K01289
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
本山 雅弘 国士舘大学, 法学部, 教授 (70439272)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 再認識可能性基準 / 自由使用 / 著作権保護範囲 / 表現の自由 / 利益衡量 / 欧州法解釈との整合性 / 複製と翻案の関係 / ドイツ法 / パブリシティ権 / 規範序列論 / 翻案権 / 保護範囲 / 保護法益 / 知的財産 / 憲法価値 / 利益衡量基準 / 欧州法・ドイツ法 / パロディ・パブリシティ権・投資利益 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、知的財産とその利用者利益とりわけ表現の自由等の憲法価値との衡量を図るうえでの判断枠組みないし判断基準の考え方を得ることを目的として、①パロディ、②パブリシティ権および③投資利益の3種の特定の知的財産に着目し、とりわけドイツ法解釈論および立法におけるごく近年の新たな展開の考察・把握を行ったうえで、その比較法的知見を基礎に、将来のわが国の司法および実務が直面する同様の衡量問題に際して、その判断枠組みおよび判断基準の提供に資する、新たな知見の獲得を課題とする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的のひとつは、ドイツ著作権法改正(2021年5月)による自由使用規定(旧24条)の廃止が著作権保護範囲と表現自由等の利用者利益との衡量論に与える影響等を分析する点にあり、その実施のために、ドイツ自由使用規定(旧24条)の廃止を導いた2019年欧州判例の意義の分析やそれに関する学説の分析、また2021年5月改正よる同規定廃止の理由やそれに関する学説・判例の分析を通じ当該廃止の実質的意味を明らかにすること、当該廃止によるドイツ法の著作権保護範囲解釈への影響を分析すること、その成果を踏まえわが国の著作権保護範囲の解釈について示唆を得ることを計画していた。 上記計画に対応する研究実績として、東京大学著作権法等奨学研究会(主宰:大渕哲也東京大学教授)主催の研究会にて「著作権の保護範囲―複製・翻案の保護範囲に関するドイツ最高裁の再認識可能性基準を題材に」と題する研究報告を行った。同報告は、ドイツ旧自由使用規定の廃止(2021年5月改正)後の著作権保護範囲(新23条1項2文)に関して新解釈を示した2022年4月のポルシェ911事件最判を研究し、ドイツ著作権保護範囲解釈の最新状況の把握とそのわが国解釈論への示唆考察を内容とした。同判例が欧州法解釈に対応する「再認識可能性」基準を最高裁として初めて判示した旨を解明したうえ、その判旨の研究過程で、特にv. Ungern-Sternbergの学説の分析を通じ、同基準のルーツである2019年欧州判例(Pelham事件)の意義、同基準の実質を権利者利益と表現自由・芸術自由等の利用者利益(憲法価値)との利益衡量の点に捉えるべきこと、同基準と従来の保護範囲解釈論(色あせ論)との理論的相違、そして、そうした著作権保護範囲に関する一連の解釈論展開がわが国解釈論にどれだけの可能性を有しているかといった点を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の研究実施としては当初、ドイツ法のパブリシティ権の憲法根拠の獲得が同権利と表現自由等の憲法価値との衡量論や同権利の性質論・処分論に与える影響の分析を踏まえ、わが国のパブリシティ権に関する衡量論や権利の性質論・処分論に関する具体的な解釈について理論的な考察をさらに進めることを計画していた。 これに対し、2023年度の実績としては、2022年のドイツ最高裁ポルシェ事件の研究に取り組み、当初2024年以降に予定した、「ドイツ著作権法の自由使用規定(旧24条)の廃止を導いた2019年欧州裁判所の先決裁定および2020年ドイツ最高裁判例の分析、それに関する学説の分析、また2021年5月改正よる同規定廃止に関する立法理由および学説・判例の分析を通じ、当該廃止の実質的意味を明らかにする。また、この改正後、旧24条の解釈に従来から蓄積されてきた衡量論ないし保護範囲論(いわゆる「色あせ論」)が受ける影響を分析する。その成果を踏まえ、わが国のパロディ許容に関する衡量論や著作権保護範囲の解釈について理論的な示唆を得る。」との研究内容を前倒しで実施できた。 このような実施計画の前倒し実施を行った理由は、ドイツ著作権保護範囲の新制度に関する最高裁判例が予想以上に早く登場したことと、そのような新解釈の展開を研究することには優先的意義が認められると考えた点にある。 よって、2023年度の当初計画したパブリシティ権に関する研究内容には大きな進捗はみられなかったが、その一方で、2024年度以降に当初予定した、著作権保護範囲の解釈論や表現自由等の憲法価値との衡量論に関するドイツ法解釈の新展開の研究とそのわが国解釈論への示唆の研究については、大いに進捗した。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、パブリシティ権と表現の自由との衡量問題に関しては、ドイツ法の議論に展開される、保護法益の類型化と衡量対象利益の類型化、またそれに応じた、利益衡量手法ないし基準の類型化論の所在とその内容についてさらに考察を進める。またその研究成果を踏まえ、わが国のパブリシティ権における保護法益の捉え方・限界や表現の自由との衡量問題に関する解釈論の到達状況の分析を進める。 また、著作権保護範囲の解釈論に関しては、ドイツ法に新展開をみた再認識可能性基準につてその学説の評価やその後の裁判例での定着状況についてさらに研究を進める。加えて、ドイツ著作権法が2021年5月改正で創設したパロディ許容に関する権利制限規定(51a条)に関する解釈論の展開を分析することにより、表現の自由との衡量問題に関する解釈論上の示唆を得る研究を進める。 いずれの研究進捗の観点からも、ドイツ法の研究が必要になるものと考えられることから、ドイツの現地調査を目的に、海外調査の計画も可能な限りで組み込んで、本研究を進める。
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