研究課題/領域番号 |
22K01290
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
織 朱實 上智大学, 地球環境学研究科, 教授 (70367267)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 世界自然遺産 / 順応的管理 / 住民参加 / 生物多様性 / SDGs |
研究開始時の研究の概要 |
日本の世界自然遺産登録地の生態系は気候変動等の環境や、観光客の増加など社会の変化に対して非常に脆弱である。登録後も遺産価値を保全するために、本研究では①脆弱な生態系を有する自然遺産登録地において、極端化する環境変動に対応する臨機応変な保全措置を実施するには、現在の法律、行政組織、予算体制で十分であるか?②地域住民の参加・協働を遺産価値保全体制の中でどのように位置づけるのか?③世界自然遺産登録地間で共有できる情報、連携のあり方はどのようなものがあるか? これらの3つの問いを中心に、奄美、屋久島、知床、小笠原をフィールドとして研究を行っていく。
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研究実績の概要 |
1年目で、世界遺産の利用と保全における現状の法制度の洗い出しを行い、そこにおける隙間および障壁がどこにあるかの研究を行った。2023年度は、1年目の成果を地域住民および所轄行政機関と共有しながら、研究の新たな視点を模索するための勉強会を小笠原、知床、奄美で実施。一方で、「島嶼生態系の持続可能な世界自然遺産管理に向けたEBPMの活用」をテーマとして京都大学、創価大学との研究も開始した。これらの研究会でオーバーツーリズムは生態系ばかりでなく社会構造の破壊につながる。温暖化緩和策を社会実装するには、水資源、廃棄物など様々な分野のネクサス構造の解明と、実装のための障害の解明と解消が必要であることが、改めて確認された。また、新たな視点という観点からミクロネシアのポンペイの世界文化遺産ナンマドール遺跡を訪問し、関係者にヒアリングを行うことにより、自然遺産と共通した「地域住民参加型の価値の保全と利用」の課題を整理することができた。これらの成果は、2023年6月知床サスティナブルウィーク:サスティナブルトーク「世界自然遺産価値保全と利用新たな観光のあり方の検討」で観光客、現地関係者とともに共有するとともに、国際的には2024年2月「Experience in Ogasawara Japanese World Natural Heritage 」をFSM and Japan Research Partnership Work Shop(Micronesia Conservation Trust,Sophia Univerisity,APIC)で情報発信を行った。また、世界遺産の共通の課題として研究成果の一部を2023年6月に「富士山から発信する持続可能な社会の実現」として富士山世界文化遺産登録10周年記念式典による講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目で国内世界自然遺産の課題、特に小笠原、奄美、知床のヒアリング調査を行い、制度的障壁の解明を行ってきた。2年目の今年度は、様々な視点から問題の分析を試みた。自然遺産のみならずミクロネシアの世界文化遺産ナンマトール遺跡、富士山、熊野和歌山のエコツーリズム、オーバーツーリズムについてのヒアリング調査を行うことにより、観光管理による地域振興の可能性と課題についても視点が及ぶこととなった。同時に、1年目の成果を、知床、小笠原、奄美でのワークショップで関係者と共有することにより、島嶼の世界自然エリアにおける研究の今後の方向性がクリアになってきた成果は大きかった。小笠原での2回の勉強会、知床でのWS,奄美でのJAL伊藤忠上智大学で協働して行ったエコツアーのモニタリングツアーにおける講演など情報発信も適切に行えたこととあわせ、おおむね良好な進捗であったと考える。本年度の研究により、社会経済と自然の領域にわたって横断的にデータを収集・解析することでエビデンスを積み上げながら、地域住民に理解可能な形に再解釈する手法、すなわち科学技術コミュニケーションが重要であり、これらを探求することが最終年度の課題となる道筋が判明した。一方で調査が多忙であったため論文としてまとめられなかったことが反省点である。この点については3年目に集大成として論文を高橋先生記念論文集の中でまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、小笠原奄美知床を中心にヒアリング、論点整理、情報の共有を行っていたので、国内世界自然遺産として残された白神山地、西表、屋久島についても調査を可能な範囲で行いたい、また、今年度はオーストラリアのジョンクック大学の研究者が現在世界遺産自然地域で実施しているCVIを活用した住民参加型のワークショップ事例を研究したい。この指標がどのように、日本の世界自然遺産に適応できるか、検討するための情報収集をオーストラリアニュージランドを訪問して実施する。 小笠原の「世界自然遺産管理計画」のアクションプランに対して、陸域生態系への温暖化影響の評価、そしてその危機にある世界自然遺産価値を将来へ持続可能とすることが、世界自然遺産委員会からの要請事項として示されている。この要請にこたえるためには、パートナーシップ構築のための手法の開発、気候変動への対応に地域住民参画を確保すること、持続可能な観光を確立することの重要性が本年度の研究で判明した。課題解決に向けてって、持続可能な世界自然遺産地域の保全と利用について、地域への情報提供、地域住民・観光客参加システムの構築など、様々な角度から生態系保全と資源利用が持続的に図られる「観光管理システム」を構築する必要性がある。最終的に多様な価値観を共有した住民参加型の自然共生社会に変革していくための道筋を「世界遺産島嶼モデル」として作成し、提言していきたい。本年度は、オーストラリアの指標を研究しながら、今までの成果と統合した提言を、国内世界自然遺産関連者のWSを開催して発表することとしたい。
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