研究課題/領域番号 |
22K01347
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
植村 和秀 京都産業大学, 法学部, 教授 (10247778)
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研究分担者 |
西田 彰一 国際日本文化研究センター, 研究部, プロジェクト研究員 (00816275)
栗田 英彦 佛教大学, 公私立大学の部局等, 非常勤講師 (10712028)
萩原 淳 琉球大学, 人文社会学部, 准教授 (50757565)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 文部省 / 国体明徴 / 知識人 / 内務省 / 司法省 |
研究開始時の研究の概要 |
昭和10年代の文部省は、国体の明徴を文教行政の基本方針とした。国体明徴は当時の日本政府の方針であり、有力な組織や政治運動の意向とも合致していた。それでは、この方針に即した一連の思想的政策の展開は、どのように把握されるべきか。 本研究は、「昭和10年代の文部省は、文教政策に支障の出ない国体思想を正統化して外部の革命論・国体論に対抗し、それによって教育界の防衛と他官庁への優位を目指しつつ、結局は、自己の国体思想の枠内での政策に限界づけられたのではないか」という問いを立て、その検証を行なうものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、昭和10年代に文部省が推進した国体明徴政策について、政治思想と政治過程の交錯、思想的政策の実態と限界、内務省や陸海軍、知識人や政治運動との関係などの検証を行なうことを目的とし、2022年度から継続しているものである。 前年度に引き続き、植村が教学刷新評議会の議事録分析を行なっている。この評議会の答申と建議によって文部省の國體明徴政策に勢いがつき、その後の教学局設置と教育審議会の設置へとつながるためである。この分析による新しい知見として、文部省幹部の伊東延吉が大正の末年から日本社会の「地位と富」を追う風潮を深刻に憂慮していたことが挙げられる。後に國體明徴政策を主導する伊東が、社会的腐敗との闘いを教学改革の動機としていたと推測されるのである。また、評議会の審議運営において、幹事の伊東が主導権を持って進めており、現在の審議会運営に共通するノウハウを駆使していることも確認された。 研究組織内でこの知見を共有するとともに、10月21日開催の藝林會学術研究大会で研究成果の一部を発表した。研究組織内からは講演者として2名、討論者として1名が登壇し、思想的政策の実態と限界、文部省と知識人の関係についての講演の後、研究組織外の登壇者とともに昭和10年代の文部省をめぐる諸問題を討論した。講演の内容はそれぞれ、思想が政策になっていく歴史的経緯と分析のための要点とを提示する論文と、伊東の思想が佐藤通次たち日本神話派の知識人の身体的実践に通じることを明らかにする論文として『藝林』誌に掲載された。とりわけ後者の栗田英彦論文には、国民精神文化研究所内の知識人たちの思想的グループ関係が図示されており、文部省との関係を考えるのに重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究活動は、10月21日開催の学会報告を中心に置いて推進した。開催前には、研究組織外の登壇予定者の参加を得て延べ3日間の研究会を行ない、情報の共有と研究の深化を行なった。とりわけ、文部省の八紘一宇/八紘為宇政策のゆらぎと文部省による日本精神論の調査について貴重な知見を得るとともに、省内省外での複雑な動きについて、丁寧に検証していく必要性を改めて痛感した。 学会では、思想と政策、文部省と知識人を講演の主題とし、文部省と八紘一宇/八紘為宇、文部省と日本精神論、文部省と憲法学者の筧克彦との関係について、コメントを踏まえて相互討論が行なわれた。知識人たちと文部省との複雑な関係は、資料的制約もあって不明な点が多いものの、多角的な検討を行なうことによって解明が進んでいることを実感させる学会であった。 学会終了後はメールによる情報共有を行ないつつ、『藝林』第73巻第1号に掲載される論文と相互討論の原稿作成を行なっていった。また、研究組織外の研究者の参加を得て1日間の研究会を行ない、國體への醇化という文部省による國體明徴の基本方針への理解を深めた。國體への醇化という主題は、皇道儒学の提唱と植民地朝鮮との関係という問題につながるという貴重な知見を得るとともに、醇化という方針の多様な歴史的背景について、独立した研究主題たりうることを再確認することができた。 なお、前年度に引き続き国立教育政策研究所教育図書館と国立国会図書館憲政資料室での調査を進めている。前者の志水義暲文庫、後者の鵜澤総明関係文書には貴重な資料が多く、今後も調査を行なう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進については、引き続き研究会をオンラインや対面で開催するとともに、研究成果の取りまとめに向けて進んでいく。昭和10年代の文部省の国体明徴政策は、政治思想史や政策の研究のみならず日本史や教育史、さらには宗教研究など多方面に関連しており、今後もさまざまな専門分野の学術的知見を積極的に取り入れていき、視野を広げることに留意したい。 とりわけ、昭和10年代の中期には、文部省の宗教政策が國體明徴政策に合流していくとともに、国民学校の創設による初等教育制度改革が國體明徴政策の大きな成果となる。この改革を導いた教育審議会の重要性が際立っており、教学刷新評議会の生み出した勢いを教育審議会で活用したと言えるであろう。前者で思想局長、専門学務局長兼思想局長であった伊東延吉は後者の初期に文部次官であり、やはり伊東の思想と行動を追跡することが重要である。 これらの動きを追跡し、さらに文部省外の動きとの複雑な関係を明らかにして論点を整理し、提示していくことを次年度の主たる課題としている。 なお、資料調査と情報共有は、過年度同様積極的に行なっていく予定である。
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