研究課題/領域番号 |
22K01354
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06020:国際関係論関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木宮 正史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30221922)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 尹錫悦政権 / 韓国版インド太平洋戦略 / 大胆な構想 / 日韓関係正常化 / ワシントン宣言 / 米韓同盟70周年 / 拡大核抑止 / 核共有 / 朝鮮半島 / 日韓関係 / 外交構想 / 日本外交 / 韓国外交 |
研究開始時の研究の概要 |
現在の日韓関係の悪化は、単に歴史問題をめぐって妥協が困難になったからだけでなく、外交政策をめぐる乖離が顕在化し、妥協のインセンティブが低下したことをまず明らかにする。そのうえで、そうした乖離がなぜどのように生じたのかを、単に目前の国際政治のダイナミズムの中に位置づけるだけでなく、19世紀後半以降の東アジア国際政治の展開に対する日韓の外交構想の相剋という側面から明らかにする。
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研究実績の概要 |
2022年度は、5月に韓国において尹錫悦保守政権が成立、それまでの文在寅進歩政権の外交と異なる大きな変化が韓国外交に見られた。本研究では、まず、こうした韓国外交の同時代的な変化を観察し、それがなぜ生じたのか、さらに、その結果、対北朝鮮関係、対米関係、対日関係、対中関係にどのような変化が帰結されたのかを考察した。 対北朝鮮関係に関して「自由・平和・繁栄の韓半島」という政策構想が発表され、その一環として、北朝鮮の核ミサイル開発に対応した抑止を強化することを基本としつつも、北朝鮮が非核化に踏み込んだ場合には、北朝鮮に対する経済協力のみならず、対米交渉の仲介役も担うという「大胆な構想」も発表された。抑止を基本としつつ関与の可能性も留保した政策であった。 対米関係に関しては、抑止に軸を置く対北朝鮮政策への転換を支えるためにも、米国が提供する拡大核抑止の信頼性を高めるため、尹大統領の訪米時にワシントン宣言を発表した。韓国では、その信頼性への疑念が日本に比べて高く、独自の核武装論への賛成論も6~7割を推移する状況であり、こうした国内世論を背景とした対米交渉の帰結でもあった。 対中関係に関しては、文政権の米中間における「戦略的曖昧性」を堅持するという政策を事実上放棄し、「韓国版インド太平洋戦略」を採択し、日米韓の安保協力を軸として中国に対応するという政策枠組みを共有することになった。 そして、対日関係に関しても、文政権下において、元徴用工問題をめぐる韓国の司法判断への対応をめぐって緊張が高まっていたのに対して、尹政権は、日本企業の賠償債務を韓国政府傘下の財団が債務引受によって履行する妥協案を提示することで、日韓首脳の相互訪問が、3月、5月と実現され、政府間の外交関係は完全に正常化された。但し、この解法に関しては、韓国国内では日本に対する一方的な譲歩だとして、批判も根強い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年1月に約3年ぶりに訪韓する機会を持った。これは、日韓協力委員会という組織の一員としての訪韓であったが、この機会を利用して、韓国の政界関係者、オピニオンリーダーなどとの話し合いを通して、尹政権による外交構想と文政権による外交構想との間の連続性と乖離に関して調査する機会を持つことができた。但し、韓国外交史料館などの調査に関しては、コロナ禍の影響などもあり、2023年度の8月に実施することにした。 その他、2022年度は数多くのオンライン会議を通して、韓国の研究者との間で、尹政権による外交が韓国国内においてどのように評価されているのかについて、肉声を通して調査することもできた。一方で、対北朝鮮政策や対中政策に関しては、文政権の外交が必ずしも成果を収めなかったという評価が支配的であり、尹政権の外交政策の変化を肯定的に評価することが多いことがわかった。 しかし、対日政策に関しては、事前の国内におけるコンセンサスの形成が十分に行われなかったということもあり、依然としてかなりの批判が残っており、政府間はともかく、国民間において、日韓協力関係を推進する力はまだ不足していることがわかった。 こうした同時代的な外交をめぐる日韓関係を、さらに、マクロな歴史的なコンテクストの中に位置づける知的作業の一環として、グローバルヒストリーの中で日韓関係を位置づける講演を九州大学にて行ったことは、本研究をさらに発展させるために大いに役立つものであった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、韓国外交の変化に伴って、日米韓の安保協力体制がより一層堅固なものになることが予想される。しかし、それは、短期的には北朝鮮との軍事的緊張関係が高まることにもつながり、さらに、米中間の緊張関係も高まり、その中で、日韓の外交の選択に困難がもたらされることも意味する。まずは、こうした同時代的な国際関係の中で、日米韓、中ロ朝の各国の外交がどのように展開されるのかを綿密に観察し、分析するという知的作業を推進する。 次に、こうした同時代的な現状分析を、主として1945年以後、さらには、19世紀末以降の、日韓の外交構想の相克という歴史的なコンテクストの中に位置づけるという知的作業に取り組む。 第一に、ここ3~4年に公開された、1990年前後の韓国外交文書に関する調査作業を実施する。同時期は、それまで基本的に冷戦体制に制約された韓国外交の空間が飛躍的に拡大する時期であり、新たな知見の獲得が期待される。さらに、同時期は、日韓の外交的協調が最も進んだ時期の一つであり、脱冷戦に向けた日韓外交の協力がどのように推進されたのかに関しても、一次史料を通して明らかにする。 第二に、日本外交、韓国外交に関する数多くの先行研究を、本研究が焦点を当てる外交構想という観点から再解釈することを行う。日本外交、韓国外交に関しては、数多くの研究が蓄積されているが、日韓の外交を比較するという知的作業は十分に行われてこなかった。それは、少なくとも1980年代までは、日韓が種々の側面で非対称の関係であったことに起因する。しかし、非対称であるから比較できないということではない。特に、日韓関係が非対称から対称へと変容しつつある現状であるからこそ、そして、それと関連して、日韓の外交構想が乖離から接近へと変容しつつある現状であるからこそ、日韓外交を比較の観点から再検討することは学問的にも重要な意味がある。
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