研究課題/領域番号 |
22K01363
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06020:国際関係論関連
|
研究機関 | 湘南工科大学 |
研究代表者 |
長谷川 将規 湘南工科大学, 工学部, 教授 (00339798)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 経済安全保障 / エコノミック・ステイトクラフト / デカップリング / TPP(環太平洋パートナーシップ) / 人民元の国際化 / 経済の武器化 / 経済的相互依存 |
研究開始時の研究の概要 |
中国の台頭は、今世紀の西側諸国にとって最大級の懸案である。これまで彼らは、中国との経済交流を深化させる「経済的関与」という「経済安全保障」(安全保障のための経済的手段、以下ES)でこれに対応してきた。だが経済的関与は功を奏さず、中国の国家資本主義、権威主義的な政治体制、強硬外交が今日顕著になってきている。こうした中、代案として「経済的封じ込め」や「包括的デカップリング」が注目されるようになったものの、西側諸国と中国との間に密接な経済関係が存在する今日の世界において、これらのESもまた問題を抱えている。本研究はこうした現状に鑑み、中国の台頭に適切に対応するための、より適切なESを考える。
|
研究実績の概要 |
初年度(2022年度)は、中国、米国、米国の同盟諸国の経済安全保障(安全保障のための経済手段、以下ES)に関連する必要文献・資料の収集とそれらの読解が中心になった。しかし、デジタル通貨(デジタル人民元)のような新しい調査領域が生じたこと、米国の新たな対中政策が情報通信機器、半導体、希少鉱物資源などで次々と展開されたこと、そして、それらに対する中国および米国の同盟国の対応が激動したことなどもあって、必要文献・資料の選別作業も、またその読解(解釈)作業も予想以上に時間がかかった。 とはいえ研究自体は比較的順調に進んでいる。初年度は、本研究課題の中核である中国のESが関連する図書(共同執筆)および論文(単著)をそれぞれ1つずつ執筆した。当初は研究成果を海外学術誌に投稿し、海外学会で発表する予定であったが、コロナ禍による混乱以外に、国内出版社から研究課題の内容に合致した書籍の出版を打診されたこともあり、一冊の学術書として成果を発表することにした。既に出版社側との打ち合わせも終えており、2024年初旬の出版予定で精力的に執筆を進めている。 最終的な完成前であるため、現時点では刊行予定書籍の詳細な内容説明は控えさせていただくが、ESの様々な戦略類型を体系的に整理・分析するとともに、中国がESをどのように駆使しており、それに対して中国近隣諸国や西側諸国がどのようなESで対応しているのか(また対応すべきなのか)を考察するという本研究課題に沿った内容になっている。本研究課題の中核である対中共存(ソフトランディング)の可能性も視野に入れながら、多様な観点から「中国によるES」と「中国に対するES」を考察していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国と関係国をめぐる経済安全保障(安全保障のための経済手段、以下ES)という現在進行形の事象を扱っているため、また新たにリサーチが必要な新事態が次々に登場したため(例えば、中国を含む世界的な通貨のデジタル化、米国による対中半導体規制の厳格化とそれに対する中国の対応など)、資料の収集・選別作業と読解(解釈)作業に予想以上に時間を取られている。しかしながら、研究自体は着実に進展している。本研究課題に合致する書籍を学術書として刊行することを国内出版社から打診され、その後の打ち合わせも無事に終わり、あとは2024年初旬の刊行を目指して執筆作業を重ねればよい状況になっている。 同書は5つの章から成るが、各章の主要部分の執筆はほぼ終えている。今後は、新しい資料や情報の収集、未読資料の読解などを継続しつつ、新たに得た知見や解釈の変化に応じて加筆・修正を行ったり、自身の主張の裏づけとなる注釈文献の照合や入れ替えを行ったりすることが主な作業になる。 もちろん、冒頭に記したように本研究は現在進行形の事象を多く含んでおり、そのため予期せぬ事態の発生によって研究が一時的に停滞する可能性も皆無とはいえない。しかし、基本的には、2024年初旬の刊行に向けて大きな障害はない状況にある。研究成果の発表方法が海外学術論文から国内学術書の出版に変更になったり、コロナ禍や時間等の問題で聴き取り調査が行えなかったりしたことがあったものの、後者については研究会への出席によって有識者の知見を数多く得ることができたため、大きな障害にはならなかった。研究自体は着実に進められて一定の成果をあげており、研究課題の基盤的な部分は十分に固めることができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年初旬の学術書の刊行を目指している。既に柱となる5つの章の主要な内容は固まっており、今後は現時点での解釈・分析を覆すような新事実や他の解釈が存在しないかを確認するため、未読資料の収集と読解作業を続けていく。そして、この作業と並行しながら、各章において適宜、修正・加筆を行うとともに、本研究での主張を裏づけるための注釈文献の照合や入れ替え作業も進めていく。 より具体的には、第1章で「経済安全保障(以下ES)」概念をめぐる定義の問題、近年の日本における「経済安全保障」論の高まりなどに触れながら、本研究のESの意味を明確化していく。第2章では、ESの様々な戦略類型について、その特徴、事例、利点と欠点、そのための施策を考察する。 第3章では、中国に対して近年西側諸国で高まっているデカップリング(経済関係の縮小)の動きを、貿易、投資、通貨、技術、資源、人材の観点から調査し、デカップリングのメリットとデメリットを明らかにする。そして、第4章ではかつての米国参加型TPP(環太平洋パートナーシップ)が有していた安全保障上の含意を分析し、米国がTPPに復帰する可能性、中国が新たに参加する可能性について議論する。最後に第5章では、世界的な通貨のデジタル化の趨勢にも目を向けながら、人民元国際化の可能性とそれが有する地政学上の含意、またデジタル人民元の導入がこれらに及ぼしうる影響について考察する。 冒頭に述べたように、今後は本研究課題の学術書の刊行に力点を置くが、研究と刊行が順調に進んだ場合には、当初予定していた海外学術論文の執筆にも挑戦したいと考えている。その場合、内容的には、上記書籍の第3章以降に焦点を当てたものになる予定である。
|