研究課題/領域番号 |
22K01403
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07010:理論経済学関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
高橋 一郎 中央大学, 経済研究所, 客員研究員 (60171469)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ケインズ経済学のミクロ的基礎づけ / マルチエージェント・シミュレーション / マクロ経済の安定性 / 有効需要の理論 / 多数国人工経済モデル / ケインズ・ヴィクセル経済の安定性 / 基軸通貨体制のメリット・デメリット / 投資の変動と進化安定戦略 / 貨幣賃金率の硬直性 / マイクロ・シミュレーション・データによる仮説検定 / agent-based simulation / Keynesian economics / Wicksell / autonomous stability / artificial macroeconomy |
研究開始時の研究の概要 |
消費財・投資財セクターおよび複数銀行により構成される金融市場をモデル化し、すべてのマクロ変数が内生的に変動するエージェント・ベースド・マクロ経済モデルを構築する。シミューレーション・データを用いてマクロ・ミクロレベルの感度分析・カリブレーションを行い、短期の景気循環と長期の拡大・縮小累積過程を統合的に再現する。それによって、超長期の自律安定性をもたらすメカニズム、中でも長期停滞からの自力脱却メカニズムを企業レベルで解明する。また、構築したモデルに政府・中央銀行の政策行動方程式を組み込み、政府紙幣発行、ベーシック・インカム、消費税率引き上げに関する具体的なシナリオ分析を行う。
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研究実績の概要 |
本研究は自著 "An Artificial Wicksell-Keynes Macroeconomy"(Springer, 2022)の人工マクロ経済の研究から着想を得た。そのシミュレーションにより、安定した貨幣量と貨幣賃金のもとで、 次の結果を得た。(1)中期的(約2000期)にはカオス的な景気変動を、(2) 長期的(20,000〜40,000期)には、さまざまな水準の雇用・物価・金利をともなう極めて安定的な定常均衡を、そして、常にではないが、(3) (1,000,000期を超える)超長期的な完全雇用定常均衡を内発した。しかし、パラメータ数は40以上あり、企業数が100あるシミュレーション・モデルにおける変数間の相互作用は複雑で、これらの結果を生み出したメカニズムの解明は困難であった。本研究のモデルの拡張と仮説の設定には、まずこのメカニズムを理論的に明確にする必要があった。 本年度も理論モデルの精緻化とメカニズムの解明に費やしたが、漸くそのメカニズムを明らかにすることができた。前述したモデルのすべての特徴、すなわち、(1)貨幣賃金率の硬直性、 (2)マネー量の安定性、(3) ケインズ型消費関数、 (4) 人々の Status Quo Bias の各要素が有機的に相互作用して、上述した結果が内発していたのである。たとえば、賃金が労働市場の逼迫度に敏感であるほど、マネー量が安定していても、物価と賃金のスパイラルによりデフレに陥ってしまう傾向があること(インフレには限度がある)。純粋信用経済では、投資を制御するケインズ効果が働かず、容易にバブルやデフレを生み出すこと。ケインズ消費関数の存在が実物資本の利子率とマネーの利子率(いわゆる自然利子率と市場利子率)の乖離、すなわち「ケインズ効果」を生み出し、長期的な安定化をもたらすこと、などである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究のテーマは「人工マクロ経済モデルによる自律的安定メカニズムの解明と帰納法的研究方法の開発」である。前掲拙著において、ケインズ型消費関数、粘着的賃金調整、一定の貨幣供給を前提とした貨幣経済は自律的に安定するというシミュレーション結果を得た。しかし、そのメカニズムの解明と検証には、多くの要因が複雑に絡み合っているので、単純だがキーとなる要因を取り込んだ因果関係を明らかにする理論モデルの助けが必要であった。加えて、モデルの拡張と帰納法的な研究方法の開発には、因果の道筋がわかっているスケルトン・モデルで、妥当性を一歩ずつ確認しながら研究を進めることが必要になった。このような理由で、本研究に先立って、マクロ経済の安定・不安定をもたらす貨幣経済の本質的メカニズムを明確にするマクロ理論モデルの構築が必要になった。 しかし、それは、「資本主義経済は価格の速やかな需給調整作用によって、希少資源の効率的配分をもたらす均衡におのずから向かう」という主流派のマクロ・モデルとは代替的なモデルを要請することに他ならない。上述した拙著のモデルという導き手があったものの、それ自体大きな研究テーマであった。お互いに異なる多数の企業の意思決定がプログラムにより自動更新されるというマルチ・エイジェント・モデルでは、先見的な整合性は必要なく、多様な主体間の相互作用を通じて全体が徐々に変化していく過程をごく自然に描写できる。それに対して理論モデルにおいては、他と振る舞いの異なるエイジェントを整合的に、しかも分析可能な形で組み込むこと自体が困難な作業であった。進化論的ゲーム理論のミュータントによる投資というアプローチを使ったものの、価格、賃金、金利、資本ストックの全てが内生的に変化する理論モデルの構築は想像を超えて困難であった。前述したように、「ケインズ経済学のミクロ的基礎づけ」というそれ自体大きな研究になった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、上述の理論的成果を3本の論文にまとめて専門誌に投稿し、国内外の学会で発表する。具体的には、(a)上述の人工マクロモデルの主要な特徴を取り込み、(b) 有限計画視野モデル(Michael Woodford)と進化論的安定性を分析の枠組みとして用いた(c) 独占的競争企業と銀行からなる理論モデルを構築し、(1) 固定マネー量の経済(Irving Fisher の100% 準備ルール)と純粋信用経済(0%ルール)におけるケインズ効果。(2) ケインズ型消費関数と投資の進化論的安定性。(3) 貨幣賃金率の粘着性のインフレーション/デフレーションに与える影響の側面に焦点をあてた3本の論文を完成させる。内容的にはすでに完成しているが、グラフの作成、文章の整理、英文校正などが残っているので、今夏を目処に投稿する。
これらの成果を土台として、今秋には消費財・投資財セクターの二部門人工マクロモデルの開発に着手する。具体的には、投資財価格と資本財の需要価格が消費財価格に縛られないので、自律的・自己実現的な景気変動が起こりやすくなるが上述の理論モデルの安定化メカニズムが拡張モデルでも機能することを確認する。その後に、理論モデルに最小限の改変を加えて小型のマルチエイジェント・モデルを構築し、それを用いた帰納法的研究方法を開発をする。理論モデルから安定化メカニズム、因果の経路が明らかになっているので、例えば部分準備銀行制度のインフレ・デフレへの効果をミクロ模擬データから探り当てる方法論の開発や検証に役立つはずである。
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